わからないものを探求する面白さ
早稲田大学ビジネススクール准教授を務められている入山章栄さん。1年数ヶ月前まではニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーを務められていました。ご本人の研究テーマは国際経営、M&A、ベンチャーキャピタル投資などですが、それ以外にも競争戦略、組織戦略、イノベーション、起業論、リーダーシップ論など、世界で研究されている経営学の様々なテーマに精通されています。それら最新の経営学の知見は『日経ビジネスオンライン』や『ハーバード・ビジネス・レビュー』などで連載記事として読むことが出来ます。「世界の先端の経営学の知見を日本の皆さんにもっと知ってもらいたい」と語る入山さんに、この道へ進んだきっかけ、デジタル化の有用性、今思うことについて伺いました。
現役の実務家が学生
――先生のゼミはどのような方がいらっしゃるのですか。
入山章栄氏: 私とあまり年の変わらない30代から40代前半ぐらいの社会人の方々です。最先端の経営学の知見を「自分のビジネスでも応用したい」という人が多いですね。彼等には、いきなり世界のトップレベルの学術論文を読んでもらっています。英語ですし、難しい統計分析も使っていますから、最初は読みこなすのはかなり大変なはずですが、それを読んで「これが世界の最先端だ」ということを感じてほしいのです。例えば、トップクラスの論文を読んで「5万社のデータを使って統計分析をやった結果、真理かもしれない経営法則がわかりました」というところまで知ることができれば、それが彼等のビジネスの現実と合っているか、役に立つかが議論できるわけです。私の方も、経営学の知見が彼等のビジネス感覚と合っているかは興味がありますから、「みんなで一緒に考えようよ」と言ってやっています。
これは、私が早稲田のビジネススクールにきた理由の一つでもあります。早稲田のビジネススクールの学生には、現役でバリバリ働いている人たちが多く、教員も半分ぐらいは実務家出身。看板教授は元ボストン・コンサルティング日本代表の内田和成氏や現ローランド・ベルガー会長の遠藤功氏ですし、4月からは元マッキンゼー社長の平野正雄氏も教授になります。マッキンゼー、ボスコン、ローランド・ベルガーの社長や会長が全員同僚という、すごいことになっているのです(笑)。
そういう方々と普段から話せる機会というのは、アメリカのビジネススクールで教員をしていても滅多にありません。しかし早稲田のビジネススクールなら、それが可能なのです。学生も、「経営学者が理論的に考えて出した結果と、トップコンサルが言うことがなぜ一致しないのか」などと考えるところから出発するから、よりビジネス思考に深みが増すのです。「もし理論と現実が違う場合には、なぜ現実はそうなるのか、さらにもう一度別の理論で考えよう」などということを私のゼミではやっています。
意識の低い?学生時代
入山章栄氏: 今の若くて意識の高い人たちの中には、「起業したい」という人もいれば、「海外に行って援助活動したい」というように、目的意識が早いうちからしっかりしている人が多いですよね。でも私には、そういったはっきりとした目標や展望は、全くありませんでした。
学生時代は野球、バスケ、ハンドボールと運動三昧でした。けっこう真面目にやっていて、高校の時はハンドボールをやっていたのですが、3年の夏に引退すると、完全に燃え尽きてしまって(笑)。あまり授業にも出なくなってしまい、毎日渋谷や高田馬場などで遊びほうけていました。ある日とうとう担任の先生に呼ばれて「このままだと卒業できない可能性があるから、学校に来い」と言われました。高校自体が進学校だったので、浪人しても駿台予備校の「東大スーパーコース」というのに無条件で入れることになっていたのです(笑)。
とはいえ予備校でも試験があります。駿台の場合は試験を受けて成績順にクラス分けされるのですが、当然私は一番下のHクラスです(笑)。とはいえ、実は予備校もほとんど行かなくて、仲間と毎日お茶の水の雀荘で麻雀をしていました。翌年なんとか慶応大学に入っても、最初の二年間は、麻雀をやったり、渋谷で遊びほうけていたりと、お世辞にも意識が高いとは言えませんでした。