入山章栄

Profile

慶應義塾大学、同大学大学院修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を経て、2013年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。2012年に出版された著書『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版) はベストセラーとなり、現在は『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』誌上にて長期連載「世界標準の経営理論」を掲載するなど、各種メディアでも積極的に活動している。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人間のモチベーションは案外、プリミティブなもの


――どのようにして変わったのでしょうか。


入山章栄氏: 当時は「やりたいこと・面白いこと」として勉強をやっていたわけではありませんでした。そうするとモチベーションも全然違いますよね。研究の面白さを感じたのは大学三年のときにゼミに入ってからです。私が所属していたゼミは、木村福成先生という方のゼミでした。木村先生のご専門は国際経済学で、今でもTPPの日本側の論客として活躍するなど、その分野では大変有名な先生です。木村先生は、私が去年までいたニューヨーク州立大学の一つであるオルバニー校で助教授をやっていました(注:入山氏は2013年までバッファロー校で勤務)。すごく刺激的なゼミで、初めて「ああ、研究ってこういうことなんだ」とわかりました。

「理論と実証のせめぎあいこそが科学なのだ」ということを、初めてそのゼミで学んだのです。「なぜ国と国は貿易をするのか」「なぜ競争力のある産業とない産業があるのか」などといったことを、経済学の理論を使って説明する。そしてそこから出てきた命題が現実にあてはまっているかを、多くの経済データを使った統計分析で実証するのです。

――木村先生と出会ったことによって「面白さ」に気づいたのですね。


入山章栄氏: はい。木村先生は私が出会う直前までアメリカで研究していた人だったので、ゼミで読む経済学の論文も最先端のものを知っていました。それも学術誌に載っているものではなく、雑誌に載る前の段階で、今まさに学者たちが書いているものを読んだりしていました。先生は、最先端のワーキングペーパーを、英語もろくに読めないゼミの学生のところへ持ってきて、読めというのです。数式も、統計分析の結果の表やグラフなどもたくさん出てきました。いま振り返ると「むちゃくちゃだったな」とも思いますが(笑)、「わけがわからないけど、カッコいい」と感じたのです。そして実は、それがすごく大事なことだったのだと思います。

――「わけのわからないカッコよさ」というのは。


入山章栄氏: 子どもが「野球選手になりたい」と思うとき、イチローや田中将大選手など最先端の活躍する様子を見て憧れますよね。「カッコいい、ああなりたい」と思うわけです。逆に、イチローがエラーをしたり、マーくんが打たれたら、「あんなすごい人でもできないことがあるんだ」ということがわかるわけです。そのギリギリが見られるから、憧れる。サッカーでも、本田や香川などに憧れるし、日本代表が負けると、「やっぱり世界はもっと先にあるんだ」ということで、もっと頑張ろうという気になるわけです。大学教育において、研究者自身は最先端のことを研究していても、学部生にはまずは基礎的なことを教えます。しかし、私もそうでしたが、授業を受ける方は基礎の時点ではつまらないことが多いのです。その退屈な中にあって学生が「かっこよさ」を感じる、本当に面白いと思うようなものを見せることも大事なのだと思うのです。



関心は、経済学から経営学へ


――ロールモデルとしたい人物との出会いがあったのですね。


入山章栄氏: はい。実は、慶応の修士課程を修了して三菱総研に進んだときもそうでした。たまたま面接の時に、慶応経済の先輩にも当たる牛島辰男さんという方と話して、すごく優秀な方だったんですよ。「この人のようになりたい」と、ある種の憧れのようなものがあって、三菱総研に行くことを決めたのです。しかも同じ部署に入ったのですが、牛島さんは私が入社してたったの3か月後に、三菱総研を辞めてアメリUCLAの博士課程に留学してしまいました。こっちは「聞いてないよ」って感じですよね(笑)。でも今は牛島さんも私も日本に戻って、青学のビジネススクールの教授をされている牛島さんと一緒に研究させてもらっているのは、感慨深いものがあります(注:牛島氏は2015年秋から慶応大学商学部に移籍予定)。

その三菱総研で、私の興味は経済学から経営学に移っていきます。私が最初にいた部署は、自動車のコンサルティングをやる部署で、やっているうちにどんどん面白くなっていきました。今の経済学ははるかに進んでいますが、私が大学で勉強していた当時の一番シンプルな経済学では、企業の能力などを生産関数で表します。そしてその基礎では、関数は産業内で同じと仮定することが多かったのです。「同じ産業の中では、トヨタだろうが日産だろうがホンダだろうが、関数が一定である」ということです。私もそういう仮定で色々と分析をしていましたが、三菱総研で実際に色々な会社の人とお付き合いさせてもらっているうちに、同じ自動車業界でも一社一社がそれぞれ全く違うということがわかってきました。トヨタは末端まで社員が優秀ですごい会社だと思いましたし、「もし再就職できるなら、トヨタがいいな」とも思いましたね(笑)。逆にホンダは「なんでこの会社業績がいいんだろう?」って思うぐらい、社員が自由に思い思いの仕事をしていた(笑)。「同じ生産関数のはずなのに全然違う」ということを実感して、経営学の方へと関心が移っていったのです。

著書一覧『 入山章栄

この著者のタグ: 『英語』 『海外』 『コンサルティング』 『組織』 『科学』 『学者』 『可能性』 『紙』 『リーダーシップ』 『経営』 『イノベーション』 『原動力』 『歴史』 『日本』 『ビジネス』 『研究』 『モチベーション』 『新聞』 『子ども』 『研究者』 『編集長』 『雑誌』 『経済学』 『経営者』 『リーダー』 『編集者』 『経営学』 『アシスタント』 『ベンチャー』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
利用する(会員登録) すべての本・検索
ページトップに戻る