世界を目指して飛び出してほしい
――「気づかなかったけれど、実はこんなことも」というのは、たくさんありそうです。
入山章栄氏: 経営学にも同じようなことがあります。少し前に、今アメリカで活躍中の若手の日本人経済学者から聞いたのは、 「日本の中で世界に通用する人材をいま一番輩出できている業界は、サッカーと経済学だ」ということ。経済学者の若手は、いまは毎年何十人もがアメリカのPh.D.プログラムに進学していて、イェール大学やスタンフォード大学で助教授・准教授になったりと、トップクラスで活躍している人がたくさん出て来ています。さらに今は日本にいながら、世界で通用する学術誌に論文を掲載できる力を持った人も出てきていました。それが経済学の状況で、かたや私のいる経営学の方はというと……。
いいか悪いかは別として、日本の経営学はすごく閉じているというか、ハッキリ言うとガラパゴス化しています。私は日本の経営学が悪いとは全然思わないし、すごく優秀な方も間違いなくたくさんいらっしゃるのですが、それが国際化されていない。
危惧するのは、『世界の経営学者』とタイトルをつけて本を出したときも、「これはアメリカの経営学のことでしょ?」などという人がたくさんいたことです。でも世界の経営学は、国際標準化が急速に進んでいて、アメリカでもヨーロッパでも、(日本以外の)アジア諸国においても、同じ経営理論を使って、同じ統計手法を使って、同じ学術誌に論文を投稿するようになっています。国際標準化が急速に進んでいるのです。「日本だけが違う」、こんなことも実は気づかれていないことの一つではないでしょうか。
――どうあってほしいと思いますか。
入山章栄氏: 状況を把握してほしいと思います。私は、日本の経営学を否定している訳ではありません。いいところがたくさんあるのに、それが海外で発表されることがないのが残念なのです。日本の経営学者の中にも、「アメリカの経営学は使えない。企業はもっと血の通ったものだ」などと批判をする人もいますが、仮にその通りだとしても、それを日本だけで主張するのではなく、国際学会に出て発表してほしいと思います。
結局そういったことを今は誰もしないわけですが、まず対話が必要だと私は考えます。でも私1人だけギャーギャー騒いでいてもしょうがないので、若い人たちには日本での研究だけではなく、ぜひ世界を視野に入れてもらいたいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
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