すべてにデザインが介在している
――今でも読書習慣はありますか。
ウジトモコ氏: 基本的にデザインの本とビジネスの本は大量購入して速読してます。そういえば、キンドルも持っていて『鬼平犯科帳』などはシリーズで買って、電子書籍で読んだり。小説は電子書籍でも読めるのですが、ビジネス書や実用書の類いは紙の方が読みやすいところもありますね。
――デザインの視点から「電子書籍」をどう捉えるか。気になります。
ウジトモコ氏: 大学の講義で院生のデザイン学生さんに、「世の中にない電子書籍のデザインを考えて」と課題を出したとき、すごくユニークな案が次々と出てきました。その中に、「ペンタイプの電子書籍」というのがあって、あえて1行ずつしか表示させないというものでした。今の電子書籍は、紙でやっていることの置き換え、付箋も引ける、マーカーも引けるというのが主流ですよね。
――「電子化書籍」の域を出ていない、と。
ウジトモコ氏: もっと色んな可能性があるのだと思います。その可能性を引き出すには、デザイン関係を巻き込むことが重要だと思います。私たちは「ネットすごい、デジタルすごい」という世代ですが(笑)、若い世代はデジタルとアナログの両面をわかっていると思います。デジタルも紙も普通に存在していて「電子より紙のほうが楽じゃね↑」というような感じです。若い人やデザイナーをもっと巻き込むべきです。
――どんな所にも、デザインは存在していて重要な役割をはたしているんですね。
ウジトモコ氏: デザインが苦手とか他人事と思っている方は結構いると思うのですが、実は身の回りの色んなものにデザインは存在しています。私は今「面白いから一緒にやろうよ!」という気持ちでデザイン教育に燃えています(笑)。デザインすることを、他人事のように「デザイナーに勝手にやってもらう」のではなく、ビジネスマンがデザインのイメージを思いついて「一緒にこういうの、どう?」という感じでできれば素敵なことだと思います。
日本では、技術部門、営業部門があって、設計図が全部きて、それから色を塗る。設計や図面、試算はできているけれどもイメージがないプロジェクトが多い。また、企画書も分厚いのに、デザインは最後に急ぎで作ってというようなところが多いと感じます。そういう仕組みも変えて、それぞれの力が結集すれば、世界レベルの面白いことが日本発でどんどん出来るようになると思います。
『問題解決のあたらしい武器になる視覚マーケティング戦略』に込めた想い
――その熱い想いは、『問題解決のあたらしい武器になる視覚マーケティング戦略』にも込められています。
ウジトモコ氏: 日本のデザインの主流のひとつにデザインの作家性を重要視する「design by ナニナニ」というようなナニナニのほうにスポットを当てる考え方があります。
一方で、私が関わっているものは「デザインの考え方を学ぶ」ことで、企画書やツールはもちろん、商品やサービス、あるいはビジネスそのもの、もしかしたら都市や地域の未来が変わるかもしれない、って言う類のものです。
だから、どうしたらビジネスマンの人が使えるか、ノンデザイナーがデザイン戦略を楽しめるようになると何が起こるのか、ということを伝えるために、いままで本に記してきました。今回の『問題解決のあたらしい武器になる視覚マーケティング戦略』にもその想いを込めました。
――色んな事例が出てきますね。
ウジトモコ氏: 「スムージーと生ジュース」の話も出てきます。スムージーで検索すると、何かシャレオツな果物満載の飲み物が出てきますが(笑)、生ジュースで検索するとジュースベンダーのような、オロナミンC的な健康ドリンクのような感じで出てきます。中身はほとんど同じなのですが、例えば、スムージーはレディ・ガガが12キロ痩せたとか、ハワイに住んでいるオシャレな人がスムージー・バーで飲んでいるとか。生ジューススタンドはあまりオシャレではないとか。同じものなのにイメージするものが全く違う。つまり見ているのは錯覚を見ているということなのです。そういうことが起こると、プロモーションもできるし、ブランディングもできます。
ちょっと前に、「〜が9割」という題名の本が流行っていて、本の帯のコピーの打ち合わせのとき編集者さんが「視覚が9割みたいなことは、やはり入れよう」と言うので「9割の根拠は?」とかなり激しく議論したことがあります(笑)。この根拠というのは、デンマークのトール・ノーレットランダーシュさんが『ユーザーイリュージョン』という本に書いています。
1秒間に細胞から入ってくる情報の量は1100万ビットあるのですが、そのうちの1000万ビットは視覚から入ってきます。その1000万ビットの情報のほとんどは認識できなくて、見たものから脳で、カッコイイ、怖い、オシャレとか、美味しそうだと判断(トール氏は錯覚と呼んでいる)して頭の中に造る像がすごく重要であると、『ユーザーイリュージョン』に書いています。
『ユーザーイリュージョン』をコントロールすること、望む世界感(イリュージョン)を打ち出す手法が広告業界でトーン&マナーと言っているものととても近いのです。
ファジーの中にある可能性をデザインが引き出す
――視覚を通して、私たちはいろいろな情報を受け取り様々な感情を沸き起こしているんですね。
ウジトモコ氏: デザインひとつでモチベーションが上がりますよね。おしゃれでシックな感じのものが、すごくポップな感じのものになると、気持ちもポップな感じに変わります。だからデザインはとても重要なのです。
――早期のデザイン教育も提唱されています。
ウジトモコ氏: 小学校の高学年でデザインの授業をやってほしいと、機会があるごとに言っています。小学校の4年、5年、6年で、タイポグラフィとか、カラーとか、構図とかね。今の子はスマホなどがあって、写真を撮るのがとても上手いですよね。それと同じように、色やフォント、デザインも早いうちに触れてほしい。小学生だと美術の時間にムンクやマグリットの模写をします。あれはあれでいいのですが、一生懸命何かを真似るだけでなく、例えば自分のチラシやポスターとか、自分のためのプロジェクトのために手を動かして成果を出すようなことをするのがいいと思うのです。
中学生になったら、きちんとしたデザイン論やデザイン思考をやっておくと良いですね。名刺とプロフィールとホームページをセルフプロデュース、セルフブランディングして、デザインして卒業しておけば、大人になってからも役に立ちます(笑)。
――デザインが出来ること、繋げられるもの、たくさんありますね。
ウジトモコ氏: フワフワしたかたち、論理的ではないもの、なんとなく感じる直感のようなものの中に大きな可能性があると思うので、それをビジネスにどんどん取り入れて欲しいと思います。
そういうなんだかよくわからない直感や可能性みたいなものを、とても具現的に、かつ論理的にビジネスにつなぐことができるもののひとつがデザインです。
人生は一度きり。もやもやしている暇はありませんから、素敵な未来は自分で切り開いていくしかありません。でも、どこから手をつけて良いか分からないとか、何を具体的にはじめたら原状が改善されるのか分からなくなっちゃう時ってあると思うのですよね。そういう時にもぜひ『問題解決のあたらしい武器になる視覚マーケティング戦略』を使ってもらえたら嬉しいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 ウジトモコ 』