“聴き手主語”で伝える
――そうした想いをたくさん、本で伝えられています。
八幡紕芦史氏: 最初に出した本を自分の本棚に置いてみた時に、横に並んだ無数の本と見比べて「一冊仕上げるために、こんなに本を読んで」と生産性の悪さを痛感するとともに、愛読書であった『徳川家康』の26巻には、どれだけのバックグラウンドがあるのだろうと想いを馳せました。本は、膨大な知見を集約したものです。ただ、「仕事の効率的なやり方」というようなビジネスに関わる本に関しては、ノウハウを知りたいがゆえに参照したりする、参考書のように感じています。私自身は、そういう本はあまり書きたくない。最後まで読み切れる本を書きたいですね。また「皆さんは、こういう問題を抱えていませんか」というように、常に“皆さん”が主語になるように、文章を組み立てて伝えるようにしています。それは仕事でも同じで、“トップ100の優秀な営業社員の改造計画”というのをやったことがあります。「私と商談をしてみましょう」ということで、ビデオに撮って分析しました。その結果、営業社員は「我が社の製品は…」というように、みんな自社主語で話をしているということがわかりました。そこで私は、「“お客さん”を主語にして話をしましょう」という、“顧客主語”を提案しました。社長もその提案にのってくれて、中期経営計画の方針に書いて、全国に発信したのです。
そういった経験もあったので、本を書く場合も、“読者主語”が重要だと思っています。私は常に“あなたは”という書き方をしていますが、それは私のこだわりなのです。それからもう一つ。最後はやっぱり面白い部分がほしいと思っているわけです。関西人ですから、笑っていただいてなんぼなんです(笑)。それから物事の本質、原理原則をどう捉えるかということも重要です。知識や情報は、今の世の中、どこでも手に入れることができますから、それをどう分析し解釈するか、聴き手を主語に考えることです。
こちらは“聴き手”のお話ですが、天童よしみさんはすごいですよ。彼女は、コンサートの会場に前日に入って、最初に三階の一番後ろの端に、座ってみるそうです。そうやって、この会場はどう見えるか、音はどうかということを確認し終わったら、今度は一番前に座るんです。ここから舞台は、どう見えるかということを考えて、照明についても細かく考えていくそうです。彼女は決してステージから見ません。天童よしみさんが、あれだけの歌手でいられるのは、そういうところも大きいと思います。
――読み手としてはいかがですか。
八幡紕芦史氏: 中学生の頃から、夏目漱石からパール・バックまで、読書の幅は広く、できるだけ長編ものを読むようにしていました。本屋でも、大人買いをしていました。私が一番読んだのは、先ほどお話しした山岡荘八の『徳川家康』で、通学電車の中で読んでいました。『徳川家康』を読むと、その前後の時代のものも読みたくなって、幕末のころの本も読むようになります。ある程度、史実をベースにした小説が好きで、特に戦国時代以降が好きで、信長、秀吉、家康を、繰り返し今も読んでいます。
ある時、書棚にある本をもう一回ひっぱり出して読んでみると、昔とは印象が全く違ったので驚きました。昔は、ストーリー展開の面白さを味わいながら本を読んでいましたが、年を重ねると、その時代背景なども考えるようになります。そうやって“時代の動きの面白さ”がわかってきて、またしばらくしてから読むと、今度は、自分の人生と照らし合わせるのです。関ヶ原だったら、「家康は、なぜこういう采配を振るったのか」とか、「戦略的には、どう考えていたのだろうか」とか、「もし私がこの場面にいたら、どうするんだろう?」と考えると、面白くてしょうがない。それで何回も同じ本を読むようになりました。
本を読むことによって、時間と空間を飛躍していけますよね。自由に色々な時代、空間へ行けるし、色々な人と会うこともできる。人間は一定期間しか生きられないし、その人の世界といったものも限られていますよね。それを広げてくれるのが、本なのです。吉田松陰は29歳で亡くなっていますが、その短い人生の中で、彼は死ぬほど本を読んでいました。野山獄に入れられて、一年間で600冊ぐらいの漢文で書かれてある本を読んだそうです。それを知って、「すごい人がいるな。自分はまだまだ本を極めてないな」と感じました。そう考えると、自分はまだまだ“途上にあるな”と感じるわけです。
挑戦する勇気を
八幡紕芦史氏: 最初に書いた本を書棚に入れたとき「自分の背の高さまで本を書こう」と思いました。その思いを新たに、今年からまた色々な本を書いていきたいと思っています。『パーフェクト・プレゼンテーション』を一緒に作った人は、著者とともにチャレンジする編集者でした。980円の本などが多い中、「2500円の本を作ろうよ」という話になりましたし、原稿のやりとりも、パソコン通信でやろうよと。次作では、「人は絵を見てから読む。その方が理解がすすむ」ということで、通常は最後に絵を入れるところを最初に入れることにしました。そういった細かいことにもチャレンジした結果、『パーフェクト・プレゼンテーション』は、11版まで版を重ねました。
――このほど『話ベタでも100%伝わる「3」の法則』も出版されました。
八幡紕芦史氏: 常日頃唱えている法則、伝える技術を「3」という数字を軸に、わかりやすく根拠を示しつつキーワードと図解でまとめました。保守的になる本は届かないし、つまらない本になってしまいます。この本もそうした“途上にある”私のチャレンジの一環です。私にとって一番の喜びは、皆さんの「勇気が出た」という言葉です。いろんな人が私のオフィスに来て話をすることによって元気や勇気が出て、さらに挑戦しようと思ってもらえることが何よりの喜びです。皆さんが目標や夢を叶えていくために、私の力が少しでも役立つことを願っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 八幡紕芦史 』