食は生命 本も生命
岸朝子氏: 戦争が終わり、それからしばらく夫とともに牡蠣の養殖に携わっていましたが、廃業して東京に戻ってきました。ちょうどその頃募集のあった主婦の友社に「主婦で料理が好き」ということで応募して、料理記者の生活が始まりました。その後、母校の出版部の編集長を務めました。『栄養と料理』は十年間やりましたね。仕事を通してイタリアなど海外の行きたいところには全部行かせて頂きました。
――「株式会社エディターズ」は女性だけの編集プロダクションでした。
岸朝子氏: 女ばっかり、男はうるさくて嫌だったのよ(笑)。当時は、女性の活躍の場というのは、まだまだ少なかったの。会社を立ち上げた当初は、文京区役所のすぐそばでやっていまして、料理辞典などを作っていましたね。記者である私にとって「本は生命」です。新聞の書籍広告を見て、興味がある本はすぐに頼みます。今ならすぐに配達してくれますし、便利な世の中になりました。新聞も毎日読みますよ。時代を知るうえで一番てっとり早いのが読書で、世界が広がっていきます。
こちらの本は、皇后陛下の『慈しみ』、結構気にいっています。ご近所だったのでお会いしたこともあります。吉沢久子さんの『96歳。今日を喜ぶ。一人を楽しむ』の本もすごく好き。この人はすごく達者だなと思います。私もまだまだこれからね。
――新著『金沢・能登の食遺産』が出ました。
岸朝子氏: 北陸新幹線が開通して、今まで以上に身近なまちとなりました。それで金沢を中心に、能登、富山、福井など、素敵な北陸の食文化をご案内しております。金沢は良い意味で“気取った”まちで、ものすごく素敵ね。海の幸、山の幸もありますし、鶏もおいしいですよ。ひと言コメントを入れたり、素敵な写真も沢山載っていますので読みやすくなっています。
――岸さんの本を読んでいると、お腹が減ってきます(笑)。
岸朝子氏: 私も、自分で読み返していたら、お腹がすいてきちゃった(笑)。やはり、私の本を読んで、一緒に体験してもらって「おいしく食べて、健康長寿」というのを感じてほしいですね。香川綾先生が亡くなられたのは100歳近く。私は今年の11月で92歳になりますが、何歳になっても、好奇心の赴くまま、横断歩道をてくてくと渡って(笑)、どんどん足をのばしますよ。それとね、私はゴタゴタしているのはあまり好きではありません。お行儀は悪いけれど、“勝手にしやがれ”でございます(笑)。それが長く続ける秘けつかもしれませんね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 岸朝子 』