経験を活かし、日中の架け橋に
――経由する、フィルターを通すことが大切なのですね。
陳満咲杜氏: 編集者という存在も、私の想いをフィルターを通して、整合性をとってくれるので助かっています。私は自分の持っている専門的なものを書くだけなので、それをいかに読者に分かりやすく伝えるか、読者の視点を意識して、編集していると思います。やはり読者に届かないと意味がないので、売れる本にしたいということは、大事なことだと思います。ただ、編集者も書く人も何かのブームに乗っかってということになると、ちょっと粗末になってしまいますよね。編集者というのは本来自分の知識、カテゴリー、言質というものを生かして、それに合った書き手を掘り起こして、ある意味ではプロデュースのようなことをしなければいけないと思っています。
最近の日本の出版社は余裕がなくなっていると思います。私の知っている出版社の事情も厳しいですしね。利益が上がらなくて余裕がなくなって、編集者も本来求められる役割ができない。そういう悪循環に陥っていますよね。今はなんの話題が売れるか、そればかり気にしているように思います。
文化というのは、ある意味では超金持ちの環境でなければ生まれないと思います。映画もそうですよね。ハリウッド全盛時代、映画会社は潤沢な資金があって、十分な人と時間をかけて良い映画を撮っていたのです。昔のイタリアもそうです。ルネサンスの優秀な画家たちには、パトロンが付いていました。最近日本で亡くなった、囲碁棋士の呉さんも、子どもの頃中国の偉い人の資金援助を受けて、才能を開花できたんです。
――本という文化の中で、陳さんがやりたいことは。
陳満咲杜氏: 私は帰化した者として、一般の日本人や中国人とは違う視点を持っていると思います。それを生かした発信を本でしたいと思っています。私は、日本で20数年も生活していますが、日本に住んでいなければ分からない部分はたくさんあります。将来そういう経験を無駄にせず、中国に伝えていくようなことをやりたいと思っています。多くのカテゴリーにおいて、日本も欧米からたくさん継承してきましたが、日本はちゃんと日本人のセンスを経由させています。日本の文化が素晴らしいのは、そうやって新しいものが生まれるところです。そういう違いを伝えていきたいですね。私は、中国で日本文化の専門の出版社でもやりたいくらいです。投資関係だけでなく、様々な想いを本に託していきたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 陳満咲杜 』