“視点”を提供する
――試行錯誤の日々で得た知見を、本に記すようになったのは。
須﨑恭彦氏: 食事療法の教室に通っていた頃、本の編集をされている方と出会いました。僕がしていることをお話したところ、「書いてみませんか」と勧めてくれたのがきっかけとなりました。最初の本は、私が数えている範囲ですが、Amazonで20週、ペット部門の1位でした。執筆の過程において、その編集者からは根拠となる資料を求められたりと、全てにおいて厳しい方で、書き上げるまでに1年ほどかかりましたが、彼から本の書き方を学ぶことができました。
ペットジャンルというのは、初版発行本が1万部売れるなどということはほとんど無いそうです。長い期間をかけて、トータルで1万部売れたらベストセラーというような感じだそうです。ですから「長く読んでもらえるような内容にしましょう」と。そういった本作りにかける情熱がすごかったですね。今ではありがたいことに13刷りまでいっていますから、ただ書けと言われて書いたものを、そのまま印刷するようなことでは、絶対にでない結果ですよね。編集者の存在の大きさを痛感しました。それからも、たくさんの編集担当の方々にお世話になりましたが、ぼくにとっては、年齢は関係なく、頼りになる姉貴であり兄貴のような存在です。多くの人に届けるためにはどうすればいいか、分かっているのはその道のプロである編集者ですよね。
これは個人的な意見なのですが、本は、著者が言いたいことを書くよりも、読者がほしい情報を書くものだと思っています。特にぼくの本の読者の方は、道は一つではなく、別の方法もあるというような“視点”が一番欲しいのではないかと考えています。例えば、今ぼくの目の前にあるこのマグカップ。側面に文字やイラストがいろいろと描かれていますね。一つの側面しか見ないと、文字だけのシンプルなものに見えますが、別の部分を見ると、イラストがあってかわいらしいカップだという見方も出来ます。一つのものであっても、360度、違う視点があるのです。これが意見の違いなのだと考えています。
例えばペットの食事でもペットフードがいいですという視点、ペットフード以外がいいという視点があります。「どちらが正しいのですか」とみなさんおっしゃるのですが、それはそれぞれの立ち位置が違うだけで、どちらも正しいのです。ですから、常に様々な視点があるということを認識し、双方の間を埋め合わせるためのコミュニケーションが重要だと思っています。そういった視点を多くの人に提供ができるというのが、本の素晴らしいところですよね。
他人と全く同じ経験をすることは難しいですから。それが、千円程度の本1冊で著者の経験を疑似体験できるのだから、本はどんどん買って読んだ方がいいと思います。ぼくも、何かを始めよう思ったら、段ボール数箱の本を買い込んで、片っ端から読んでいき、様々な立ち位置や視点を理解しようと努力しています。いろんな視点があることを理解することから、対峙する相手との円滑なコミュニケーションに繋がっていくわけです。
試行錯誤で自分にとって最適な解を
――豊富な経験が、また新たな活動に活かされています。
須﨑恭彦氏: これまで、動物医療だけでなく、集中力強化などの能力開発部門にも取り組んできたのですが、新しい視点を提供する目的で、現在、ボイススキャン(声色診断)というものにも取り組んでいます。人の声を分析することで、視て判断するタイプ、聴いて判断するタイプ、体で感じて判断するタイプなどが分かるのです。例えば勉強をする際、視覚的にインプットするのが得意な人であれば、図解などの入った本で勉強すればいいし、聴くのが得意な人であれば、授業をずっと聞いている方がいい。それぞれの適正に合わせた方法で物事に取り組んだ方が、スムーズに進むのです。それをきっかけに、一つの方法でうまくいかなかった人が、自信を取り返せるかもしれない。
発想が柔軟性に富んだり、視点を自由に動かせる人って、悩むことが少ないんですよ。唯一無二の正解などないのだから、トライ&エラーで自分にとって最適な解を見つけましょう。そして、人よりも早く動くことも大切ですね。失敗を恐れる人もいますが、失敗というのは途中で勝手に諦めたことを自分で振り返って、あれが失敗だったという意味付けをしているに過ぎません。やめなかったら全ては途中経過なのです。諦めずに、別の方法をトライしてみましょう。できるまでやれば、必ず自信に繋がります。なので、これからも僕の取り組みを通して、一人でも多くの方にお役に立てるような新しい選択肢や視点を提示出来る様に努力を続けていくことが、ぼくの役目だと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 須﨑恭彦 』