発信者のつとめ 妥協なき発信
――今では本の執筆をはじめ、多くの媒体で情報を伝えられています。
吉木伸子氏: 開業当初「美容皮膚科」という珍しさから、色々な取材がかかりました。雑誌の特集でニキビの解説をした時は、反響が高く、2台ある電話機がずっと鳴り止まず、3ヶ月先まで予約が一杯になることもありました。
ある日、BAILAの副編集長が、スキンケアの企画で取材に来てくれて、そのご縁で2年間、ビューティーに関するコラム連載をしました。後ろの方のモノクロページだったので、結構好きなように書かせてくれました。その連載に、出版社が目を留めてくれたのが、本を執筆するきっかけでした。
――取材や執筆によって、想いが広がって……。
吉木伸子氏: ネット検索もまだ広がっていなかったので、本や雑誌が窓口だったのです。本が他のメディアと大きく違うところは、スポンサーの影響を受けにくく、言論の自由が保障されていることです。ある特定の団体に不利益を及ぼすなどがない限り、自由に発信できます。そういう意味で、本は最もジャーナリズムに近く、自分が持っている情報をノーカット版で発信することができるツールになっています。
だからこそ、自分の発言にはしっかりと責任を持って書いています。編集者の方とは、たいてい大ゲンカしながら本を作っています(笑)。すんなり進んだことは過去に1回もないのではないでしょうか。ただ私は、信頼できる人としかケンカしません。この人には実力があると思ったらケンカするし、逆であればあまり言いません。業界を見渡せる編集者が、「世の中に発信しても良い」と思って依頼してくれているので、私はそれに対する責任を負っています。だからこそ、こだわりを持ち、妥協せずに、書いていきたいのです。
エビデンスに基づく正しい美容を広める
――妥協なき発信を続けていく。
吉木伸子氏: 欧米と比べて、日本の美容の世界では、科学的エビデンスのないものが独り歩きしています。例えばアメリカのファッション雑誌には、ダイエット、スキンケアなどの情報に、全て参考文献が出ています。一方日本では、情報を発信する人間であっても、エビデンスなき発言が目立ちます。隣のおばちゃんが、「これ、良いから飲んでみなさい」と言っているのと同じレベルなんです。皆さんの悩みを本当に解決してくれるのは、正しい美容です。エビデンスなき治療では、いつまでも解決に向かいません。
また、既存のやり方では治せなかったことでも、方法を変えることで早く治癒できるといった情報もちゃんと伝えたいと思っています。例えば、漢方があれば簡単に治るものなのに、こじらせて酷くなっている患者さんがとても多いのです。漢方は、日本では医療として保険も適用できて、きちんとした医療として確立されています。当たり前のことかもしれませんが、患者さんのお財布にも体にも負担がないやり方で治していきたいですね。
まだまだ、やらなければならないことは沢山ありますが、皮膚科学に一石を投じるという想いで、「正しい美容」をしっかりと伝えたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 吉木伸子 』