エビデンスに基づく正しい美容を
よしき皮膚科クリニック銀座の院長を務める吉木伸子さん。クリニックでの診療のほか、本や雑誌で、科学的エビデンスに基づいたスキンケア方法等を発信しています。「正しい美容」を説く吉木先生の、ジャーナリズム的美容アプローチとは。
父親譲りの「勘ピューター」!?
――吉木さんのクリニックには全国から多くの患者さんが訪れています。
吉木伸子氏: 当院は、西洋医学と東洋医学の二本柱で、診療を行なっています。国内はもとより、海外からも多くいらっしゃいます。場所が銀座ということもあり、空港からのアクセスが良いので、クリニックの周辺に泊まって、治療を受けられる方も多いですね。開業して間もない頃は、まわりの患者さんだけだったのが、美容に対する想いを、本をはじめとする媒体にのせ発信し、またその中で手応えを感じて頂き、現在のような形になりました。
私がここを開業した平成10年、日本には「美容皮膚科」という言葉はありませんでした。美容外科はあったのですが「メスを使わない方法できれいになりたい」という日本人のニーズに応えるために開院しました。「そんな日本にないものを認知させるのは無理じゃないか」と言われたこともありました。二人目の子どもを妊娠中に開業したのですが、ずっと開業に向けての準備をしている最中で、休みも取れず大変でしたが「やるんだったら、早い方がいい!」と、どんどんお腹が大きくなるまま、スタッフもまだいなかったので、一人で機材を組み立てながら開業準備を進めていました(笑)。
銀座で開業することについて、「思い切った」など色々言われましたが、「失敗したらどうしよう」などとは考えていませんでした。小さいころからそうなのですが、成功や失敗については考えず、自分の行きたいと思う方へ行くクセがあるんですね。夫にはよく「職人気質だね」と言われます。主人は会計士で、経済人なので、採算を考えないでやる人間が信じられないみたい。けれど「意外にも、うまくいく人は何も考えていない人が多い」としっかりフォローしてくれる部分だけ、聞き入れています(笑)。
――想いが先行しちゃうんですね(笑)。
吉木伸子氏: 私の父の口癖が「どんなコンピューターより俺の勘ピューターだ」で、そんな父親の遺伝子をそっくり受け継いでいるようです(笑)。けれども、ここ銀座に病院を構えようと思ったのも、多くの患者さんに美容を知って頂きたい、そのため「誰でも知っていて、通いやすい場所に」と考えた結果だったんです。そういえば子どもの頃から、書くことと英語が好きで、将来は、通訳か英語を使ったジャーナリストを夢に描いていましたが「あなたは声が悪いから、ただ伝える仕事は向いていない(笑)」「医者として身を立て、そこで得た気づきからなら伝えることが出来るかもしれない」とアドバイスをくれたのも両親でしたね。
発信者のつとめ 妥協なき発信
――今では本の執筆をはじめ、多くの媒体で情報を伝えられています。
吉木伸子氏: 開業当初「美容皮膚科」という珍しさから、色々な取材がかかりました。雑誌の特集でニキビの解説をした時は、反響が高く、2台ある電話機がずっと鳴り止まず、3ヶ月先まで予約が一杯になることもありました。
ある日、BAILAの副編集長が、スキンケアの企画で取材に来てくれて、そのご縁で2年間、ビューティーに関するコラム連載をしました。後ろの方のモノクロページだったので、結構好きなように書かせてくれました。その連載に、出版社が目を留めてくれたのが、本を執筆するきっかけでした。
――取材や執筆によって、想いが広がって……。
吉木伸子氏: ネット検索もまだ広がっていなかったので、本や雑誌が窓口だったのです。本が他のメディアと大きく違うところは、スポンサーの影響を受けにくく、言論の自由が保障されていることです。ある特定の団体に不利益を及ぼすなどがない限り、自由に発信できます。そういう意味で、本は最もジャーナリズムに近く、自分が持っている情報をノーカット版で発信することができるツールになっています。
だからこそ、自分の発言にはしっかりと責任を持って書いています。編集者の方とは、たいてい大ゲンカしながら本を作っています(笑)。すんなり進んだことは過去に1回もないのではないでしょうか。ただ私は、信頼できる人としかケンカしません。この人には実力があると思ったらケンカするし、逆であればあまり言いません。業界を見渡せる編集者が、「世の中に発信しても良い」と思って依頼してくれているので、私はそれに対する責任を負っています。だからこそ、こだわりを持ち、妥協せずに、書いていきたいのです。
エビデンスに基づく正しい美容を広める
――妥協なき発信を続けていく。
吉木伸子氏: 欧米と比べて、日本の美容の世界では、科学的エビデンスのないものが独り歩きしています。例えばアメリカのファッション雑誌には、ダイエット、スキンケアなどの情報に、全て参考文献が出ています。一方日本では、情報を発信する人間であっても、エビデンスなき発言が目立ちます。隣のおばちゃんが、「これ、良いから飲んでみなさい」と言っているのと同じレベルなんです。皆さんの悩みを本当に解決してくれるのは、正しい美容です。エビデンスなき治療では、いつまでも解決に向かいません。
また、既存のやり方では治せなかったことでも、方法を変えることで早く治癒できるといった情報もちゃんと伝えたいと思っています。例えば、漢方があれば簡単に治るものなのに、こじらせて酷くなっている患者さんがとても多いのです。漢方は、日本では医療として保険も適用できて、きちんとした医療として確立されています。当たり前のことかもしれませんが、患者さんのお財布にも体にも負担がないやり方で治していきたいですね。
まだまだ、やらなければならないことは沢山ありますが、皮膚科学に一石を投じるという想いで、「正しい美容」をしっかりと伝えたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 吉木伸子 』