本は鏡 読み手の経験で世界観を描く
――経験が糧になる、と。
山﨑政志氏: 失敗も成功も経験のうち。行動の結果にムダ、はありません。ですから、正解もひとつではありません。各自の考える正解に向かって、進んでいくことが大切なのだと思います。だから私の指導や本についても「私が伝えるのは正解ではなく、一つの方法論である」と伝えています。
本は、こうした過去のあらゆる失敗から生まれた経験知が凝縮された素晴らしい存在です。本を読み、経験を疑似体験する事によって、新たな発見を得ることが出来ます。「まなぶ」(学ぶ)という言葉は、「まねる」(真似る)と同じ語源であり、「まねぶ」とも言われています。読書によって疑似体験、真似をして、あちこちから受け取った情報を、自分なりに工夫して、考えを作り上げることができます。色々な人から教わったものを、自分の人生の糧にしていけばいい。会うことのできない人の考えに触れるには、本が一番良いと思います。
また、活字の世界は、読み手側の経験が総動員され、世界観を自由に描くことができます。ですから、同じ本でも、読み手の状況によって受け取れるものも変化していきます。
例えば、司馬遼太郎さんの『峠』。私の出身である越後の長岡藩が舞台となっており、河井継之助という、幕末に越後の国をスイスのような中立国を創ろうとした男の話です。20年前くらいに読みましたが、NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」で吉田松陰の話が出てきて、「そういえば越後にも河井継之助という男がいたな」と、また引っ張り出して読んでみましたが、今回も新しい発見がありました。
新たなチャレンジで“恩返し”を
山﨑政志氏: 変化はもちろん自分だけではありません。世の中の価値観もどんどん変わっていきます。同じ製品、サービスでは満足してくれません。どんどん新しいものにチャレンジしたり、自分自身も向上しないといけません。私は、常に3割ぐらい新しいものを開拓していきたいと思っています。いまだに、新たなことへチャレンジする時は、私もドキドキしています。けれども、こうして方々で育てて頂いた知識や技術を本によって、未来を担う若者に届けられることはとても幸せなことだと思っています。
本質はそのままに。しかし変化は柔軟に。「文章と文書技術をいかに効果的に伝えていくか」これからも試行錯誤を繰り返しながら、良い本づくり、文章指導に携わって参りたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
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