思考を磨き 正しい判断を
早稲田大学政治経済学部教授を務める経済学者の若田部昌澄さん。専門である経済学史の視点から、現代の経済事象を分析、執筆されています。若田部先生が経済学史から発信する想いとは。
経済学史の曇りなき目
――先生の研究とゼミについて伺います。
若田部昌澄氏: 私はここ早稲田大学で経済学史を専門に研究しています。経済学史とは経済学の歴史、平たく言うと昔の経済学者の本や論文を読むということになりますが、そういう本や論文で書かれていることの内容を理解しなければなりません。経済学史は、まず何よりも相手の主張を理解することから始まります。相手の主張を理解した上で、できるだけ確固たる論理とデータなどに基づき評価、分析をしていくことになります。
私が担当する演習・ゼミでは、こうした分析力・判断力を身につけてもらうための訓練として、ミクロ経済学やマクロ経済学などの専門書だけでなく、話題になっている新書も講読し、書評をほぼ毎週のように課題にしています。ゼミの最初には『論理トレーニング』という、野矢茂樹先生の名著を使い、実際に練習問題を解いていく形式で論理的思考力を身に着けてもらっています。
世の中に存在する“問題”には、答えのあるものとそうでないものがあります。むしろ答えのないものが多い中で、自ら考え解決する力、思考力が問われます。また、別の意見や批判が不在であると、その目は曇り、大まかなレッテル貼りで判断を見誤って“正しい分析”から遠のくことになってしまいます。これから社会へと羽ばたく学生には、その思考力――賛成、反対、批判、意見を、さまざまな情報の中から取捨選択し、論理的に相手に伝える力を養ってもらいます。