ノウハウを共有して サポートする
柏木吉基氏: このときの経験を、せっかくだから自分だけに留めておかないで、皆で共有しようと勉強会を開いたことから、本の出版に繋がりました。まず勉強会で使う資料が冊子になりました。そこに書かれた考え方は、その時に所属していた会社や職域でなくも共通するノウハウであることに気づいたのです。それにもう少し肉付けをしてまとめたものを、いくつか調べた出版社に郵送しました。そのうちの一社、オーム社がすぐに反応を示してくれて一冊目の本『 Excelで学ぶ意思決定論』になりました。
この本を書くにあたっては、世の中でどういうものが出ているかを知るために、日本で売られている類書は全部読みました。そうして全部読んでも埋まらない箇所と、自分の経験を組み合わせて書きました。周りがやっていないことと、自分だからこそかける内容を組み合わせる。さきほどの差別化戦略の話と一緒です。
――「柏木先生なり」の本を。
柏木吉基氏: 私の経験が活かされる、他の焼き直しでない本を書いて、皆様に役立つものを届けたい。データ分析のものすごく高度な手法を説明して出来る人は私より一杯、ごまんといます。ビッグデータについて語れる人も私以外にたくさんいて、アカデミックな課題解決方法を語れるコンサルタントもいらっしゃいます。ではそれらを、どう考えて使うのかを組織の中での実務経験に基づいて書くことが出来るのが、「私なり」の執筆における想いですね。
『Excelで利益シミュレーションができるようになる本』(洋泉社)という本も、「Excelに関する本を」というご依頼から始まって出来た本ですが、Excelの操作テクニックだけを見たら私よりも詳しい人はたくさんいらっしゃいます。
Excelはあくまで目的やゴールに向かうためのツールであり途中経過だと考えていたので、応用法をどう実務で使うかという視点で書くことを提案しました。日産時代の利益シミュレーションに関して結構苦労しましたが、そうした実務にもとづく本は見たことがなかったので、書きました。
文芸や小説は別として、こうした実用書は、課題意識や目的があって、文字通り、そこに向けて「実用」出来るものでなければ、読んでいても苦痛だと思っています。まあ、本を読んだからといって翌日いきなりスーパーマンになれることはないですけれども、ひとつのきっかけになる本を届けたいですね。こうした本は、一番手軽な味方、サポーターになると思っています。
自分なりの道×社会への貢献
――著書は中国、台湾、韓国でも翻訳されています。
柏木吉基氏: 本の内容、特にそこで使う事例に関して、日本人にしか分からないことは意識して入れていません。特定の業種、領域、国やマーケットではなく広くスタンダードになるようなものを意識して書いています。
私は大学時代から続く旅で、今まで世界150近くの国を訪れていますが、内外から眺めていて、日本という国や今の若い人たちがグローバルの中で生き残っていくということに対して、かなり立ち遅れているなと感じています。その原因のひとつは、言われたことをやればいいという考え方が残っているからだと思います。そうした足かせを外したい。自分で考える事にシフトしていくお手伝いを、自分のキャリアを通しておこなっていきたい。そしてそれに国境は無いと考えています。
自分で考えて、ひとりでも、組織でも自分が何が出来て、どう貢献できるのか。それを知ればおのずと道は見えてきます。私自身、そうして考え、挑戦することをこれからも続けていきたいと思います。もし国際貢献ということでアカデミックな所で、日本人に限らず世界各国に自分のスキルが貢献出来るのであれば、それに挑戦しても良いかもしれませんね。またそのとき、自分なりに考えてみたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 柏木吉基 』