―― 区切り、境目を迎えられた訳ですが心境はどのように変化しましたか。変わったこと変わらないこと、あると思いますが。
安田佳生氏: う~ん。(しばらく考えてから)基本的には一緒ですよ。自分の人生を通して、自分の疑問に思ったこととか感じたことを一個一個突き詰めながら、何らかの形で自分が得た知識なり経験を世の中に発信したいと思っています。それを株式会社という形のキャンバスみたいなものを使って表現していた訳です。自分が実験したいこと、やりたいことは大概やりました。だけど、会社は迷惑を掛けてしまうので。お客さんももちろんですが、中のいる社員も引っ張り回してしまうので。だから、ここから先は一人でやろうと思いました。ですが、やろうと思っていることは一緒ですね。ですので、一人でやろう!ということを決めたということでしょうか。変化としては。
―― 今まで一緒に頑張られてきた仲間と、今でも一緒に何かされていたりしますか。
安田佳生氏: そうですね、仲良いので『また会社作ってやりましょうよ』って言ってくれるのですが、そういう気はもうないですね。もう社長と社員という形でお付き合いするのは終わりにしたいということですね。
―― 今回の本には自身に対する『誤算』だとか『脱落』というような、ちょっとハッとするようなキーワードがありましたが、冷静にならないと、自分自身のことをそのように表せないと思うのですが。
安田佳生氏: 時間が経たないとわかんないですね。その時は正しいと思ってやるので。
―― 冷静に見つめられるようになったのは、やはり一呼吸置いたからでしょうか。
安田佳生氏: 出発が無くなったからでしょうね。終わったから、冷静になれるということです。まだ社長だったら書けないですね、この本は。終わって、もう一年近く経ちますから。民事再生して半年くらい経って、いろいろ失ったものとか、変わったこととか、失うであろうと思っていたが失わなかったものとか、いろんなものが明確になって、それで書けるようになったのでしょうね。
―― 話を電子書籍に戻します。今、実際タブレット型のもので本を読むことに抵抗感はありますか。『やはり紙の、めくる感覚がいいな』とかですね。
安田佳生氏: いや、全然ないですね。読めればいいと思います。それから購入する面倒臭さから、簡単になればそれでいいです。あとはやはり僕は漫画を読みたいのですが、iPadを持ち歩くのは面倒臭い感じはします。もっと薄くなって半分に折りたためたらいいなと思います。
―― 電子ペーパーですね、ペラペラの紙のような形で。未来を行き来する映画の中で、新聞の写真欄が変わったり動画になったりする、そういうシーンを思い出しました。そういう形のものになれば、大きく変わってくる可能性がありますね。
安田佳生氏: 本より軽くなれば、変わるでしょうね、外面は。
―― 本自体はもちろん紙も含め無くならないと思いますが。
安田佳生氏: ただ、今メインで電子書籍で読んでる人少ないですよね、まだ。
―― そうでしょうね、おそらく割合にすると、紙の方がまだ多いっていう状況になって、それこそ境目、過渡期にあると思います。
安田佳生氏: 僕も今まで書いた本、一応電子書籍にしましたが、マーケットがまだ整ってないっというか、読んでくれる人がいないので、99.9%が紙の本で売れましたね。
―― 電子書籍がもっともっと広まった時、それぞれ読み手と書き手、どういった変化が生じてくると思いますか。
安田佳生氏: 今でも電子書籍としてこれ作りたいなっていうものがありますが、あくまで僕の場合ですが、書籍を電子化するっていうよりは、電子書籍として読んでもらえるためにはどういう書き方した方がいいんだろうということは、考えると思います。普通の本であればタイトルとか、目次とかが売れるかどうかの決め手になる。そしてそれは、陳列されて販売されているので、目立つかどうかも重要です。しかし電子書籍の場合は、単発のページを、1ページを読んでみて面白いかどうか、それがすごく大事になってくると思います。
―― そういったことを意識した書き方に変化するわけですね。
安田佳生氏: 僕がもし作るのであればそうします。だから内容的に、どうしても簡潔化せざるを得ないです。薄くなるというか、漫画に近づくイメージでしょうか。逆に、紙の本にするには耐えられないというものが、(電子書籍として出すには)ちょうどいいかなという感じがします。それと電子書籍じゃないとこれは作品として成り立たないというものが、出てくるんじゃないですか。文章量の少ない、携帯小説なども本に、紙にできるのもあるんでしょうけど、紙にするのは耐えられないっていうのは一杯あると思うのですよ。でも携帯小説であれば十分というものが。逆に夏目漱石を携帯で読むのは、厳しい場合もありますからね。
著書一覧『 安田佳生 』