―― それぞれに合った書き方が存在してきそうですね。また電子書籍の普及で、情報を発信しやすくなってプロとアマの垣根も、低くなるかもしれないですね。
安田佳生氏: 別の形のプロっていうことになるんじゃないですか?漫画を描くプロと、文章を書くプロと、音楽作るプロみたいなもので。
―― なるほど。電子書籍のプロですね。
安田佳生氏: 今は、まだ少ないから誰でも読んでくれますけど、当然書く人が増えたら、その中で読まれるものはそれなりのプロになるのではないでしょうか。
―― 読み手としてはどういった期待をされますか。
安田佳生氏: 僕は、採用の仕事をずっとやっていました。昔は就職は情報誌だったんですよ。紙だったのです。それがいち早くWeb化されて、検索できますよね。そうすると、昔みたいなパラパラっとめくっていたら面白そうな感じのものがあったというような偶然性がなくなるのではないかと思います。条件を入れて検索すると最終的に自分が知っている業種とか、知っているところまでしか行きつかない。本の場合も、本屋行ってたまたま歩いてたら、ちょっと手に取った本が自分の人生変えたりするという。電子化されると、そういう偶然性がたぶん無くなるのではないかという気がしていまして、それは非常に残念ですね。自分で本を購入する際、自分の知っている本を買うか、興味あるジャンルから探すかするので。本当はそうではないものが、結構人生に影響を与えると思うのですが。
―― それはありますね。偶然性、の概念が変化するのだと思います。今ですと何か買ったら、『あなたこういうのも好きじゃないですか?』というのを結局、同ジャンルの中から選んだりしますよね。それが、面白いプログラミングというかアルゴリズムで、全く関係のない反対のものも出てくれたらいいですね。偶然性とは言い難いところはありますが。
安田佳生氏: そこをうまくアレンジした検索機能を考えたら、すごくヒットするのではないでしょうか。それから偶然というのは、文字通りの偶然ではなくて、偶然の必然みたいなものですよ。人との出会いなんかもそうだと思います。
―― ちょっと雨の位置が1センチずれただけでも、いろんなことが変わって来ますよね理論上は。そこに人の足が乗ることによってこけるかもしれない、こけないかもしれない。そこに分岐点があって、こけていなかったら面接に間に合って受かったかもしれない。こけていたら、落ちていたかもしれない。しかし落ちたことによって・・・きりがないのですが(笑)。
安田佳生氏: そういうのから、成り立っていますよね、人の出会いも。例えば、なかなか彼氏のできない女の子で、しかしすごく大好きな人がいつか現れると思っている。そうじゃなくて今、知っている人の中で、なにかのきっかけがあってだんだん好きになっていくというのが、たぶん通常の恋愛であると思うのです。だから、何か理由があって本を読むんじゃなくて、たまたま読んだ本が自分にとってなくてはならない本になる、というようなものになると思います。
―― 人智を超えたところ、は欲しいですね。
安田佳生氏: 可能性は、雨が降るかどうかで無限大にある訳じゃないですか。でもその無限大の可能性だけの問題ではなくて、こけたということは運命なのですよ。それによって何を得るかっていうことではないでしょうか。こけないとしたらそれもまた運命ですしね。掴むかどうかですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 安田佳生 』