新聞の書評委員VS.インターネットの書評ブログ
――なるほど。ありがとうございます。では、次に福岡さんの書籍との関わりについて伺いたいと思います。福岡さんの平均的な読書量はお仕事の資料なども含めてどのくらいですか。
福岡伸一氏: 今、私は新聞の書評委員をやっているんです。以前は読売新聞で、今は朝日新聞の書評委員をやっています。それもあって、量で言えば1週間に3冊くらいは読んでいますね。
書評っていうのは、みなさんご存知の通り、新聞の読者に「こんな面白い本がありました」と紹介する欄のことです。そこに携わる書評委員というのは色んな本と触れる楽しさもありますが、とにかくものすごい量の本を読まないといけない。読んだだけでは済まなくて、さらにそこから書評というものを書かなくてはならない。これはなかなか大変な読書との付き合い方で、いろいろと鍛え直されることになりました。
――なにが一番大変なのでしょうか?
福岡伸一氏: 当たり前ですが、書評は読書感想文じゃダメなんですよね。『何々が面白かったです』『主人公がこんな目にあって、あんな目にあってかわいそうでハラハラしました』とか。「面白い」「かわいそう」「素晴らしかった」という風な単なる感想だけではなく、そういう言葉の内容を説明しなければいけないんですよ。「なぜ、どのようにして面白かったのか?」「なんでかわいそうだったのか?」。そこを明確にしなければならないわけです。
また、ある程度要約しないと内容が伝わらないので、あらすじの要約も必要です。でも、単なるあらすじの紹介に陥ってしまってもダメなんですね。
要は、「私はこの本を、こういう風に面白がりました」と、読者に伝えないといけないんですよ。一般的に書評っていうのは面白さを伝えて、「こんなに面白い本があるので皆さんも読みましょう」と、読書自体を応援していかないといけないんですよね。だから、批判とか批評とか、「この本はくだらない」とか「ここはダメ」といった書評もできるだけ避けるべき。そういう読み方ももちろんあるんですけども、そういう本はそもそも取り上げるべきではないんですよね。
――福岡さんの本の選び方を教えて下さい。
福岡伸一氏: まず、売れている本は必ず目を通しますね。あと、書評委員会という会合が2週間に1回あって、その2週間に出た新刊が広い会議室に並べてあるんですよ。それを見ながらパラパラと手に取って本を選びます。そこで、新しく出た本で売れている本、話題になっている本、面白そうな本などは、一応自分のなかのフィルターにかかってくる訳ですよ。
世の中の本の流行というものは、私も物書きの一員として一応知っておくべきだと思っていますから。
――書評委員の方が1回に選ぶ本の数は何冊くらいですか。
福岡伸一氏: 現在、朝日新聞の書評委員は全部で21名です。その人たちが、その委員会のなかから毎週5~6冊ずつ持っていきます。だから、結果的に、100冊くらいは読まれることになりますよね。でも、そこから実際の書評欄に出るのは10冊ぐらい。
―― 読む本はご自分で決めるんですか?
福岡伸一氏: まずは自分の読みたい本へ投票します。そこで、高い得点を入れた人の元に、その本が行くわけですね。もしも同じ得点を入れた人がいたら、話し合いで決めます。
ただ最近は新聞の書評欄の機能っていうのはなかなか難しい局面にあるんです。例えば朝日新聞の書評欄は、昔からそれなりに影響力はあって、そこに出ると本が売れたりしますし、今でも丸善とか紀伊國屋書店なら「この本は、この新聞の書評に出ました」などと貼ってあるんです。やっぱりそれって活字が好きな人が読む訳で、今私が教えている学生達なんかはそもそも新聞を読まないし、新聞の書評欄なんて見たこともないんじゃないかな。
さらに、それが毎週日曜日に出ていて、私たちが必死に書いているなんて想像だにしていないと思いますよ。新聞の書評よりも、ネットのブログなどから本の情報を得ているんです。決して本を読んでいない訳ではないんですけど、どんな本を読むかということについての情報源はだいぶ変わってきていますね。