世の中には、背表紙を眺める本とテキストとして読む本の2種類がある
精神科医という見地にたって、オタク文化からヤンキー文化まで、幅広いカルチャーを分析している斎藤環先生。さらに書評家としての顔もお持ちのため、日ごろからいつでも本は手放せないそうです。そんな多読家である斎藤環先生に、本の読み方。そして、電子書籍との付き合い方を聞いてみました。
楽しむ本と仕事の本。本の種類によって読み方を使い分ける
――斎藤先生は、医師としてもご活躍する一方で、「ヤンキー文化」「オタク文化」などさまざまなカルチャーにもお詳しいです。日ごろからかなり幅広い読書をなさっているのではないかと思うのですが、普段はどんな本を読まれているんでしょうか。
斎藤環氏: だいたいが書評用か、執筆のための資料本ですね。たとえば、一冊の本を書くのに、およそ100冊は資料として読まないといけない。とても全部を精読なんてできないから、むしろぱらぱら読み飛ばしていく感じですけれど。ざっと読んで記憶に残ったり、使えそうな箇所だけピックアップして読んでいくんです。
あと、新聞の書評委員を2年間ぐらいやっていたり、雑誌にコラムを書いたりすることも多いので、医学系の本だけでなく、それこそオタクの本やヤンキーの本など、いわば「雑食的に本を読む」ことが多いです。平常運転だと、漫画も含めて1日2~3冊は違うジャンルの本を並行して読んでいます。
雑誌は、定期献本されていることもありますが、「週刊文春」「週刊新潮」「週刊SPA!」などの週刊誌を読むことが多いですね。あと、毎週絶対に買うのは、「週刊スピリッツ」です。もちろん、医学系の業界紙や専門誌は、よく送られてくるので、大半のものには目を通していると思います。そのほかは海外の雑誌が大半ですね。
本を早く、的確に読む技術は、若い頃の豊富な読書経験がなせる技
――1冊の本を読むのに所要時間はどのくらいかかるんですか?
斎藤環氏: 本を読むときにはモードがあるんです。たとえば、楽しんで読むときは、1晩、2晩ぐらいかけてじっくり読みますし、資料とか書評用で読むときは一冊1~2時間程度で「読みとばす」と言うか、自分では「スキャンする」って言ってますけど(笑)。医者という仕事柄、じっくり読む時間がなかなか取れないので、要点だけを読み飛ばす習慣が身に付いてしまいました。それはそれで味気ないんですけどね。
――若いうちに本を読む練習をしておくと、大人になったときに、いくつか読み方のバリエーションがつけられるようになるんですね。最近、若い人世代の「活字離れ」などはよく言われる話ですが、それについてはどう思われますか?
斎藤環氏: 若い人は「本離れ」はしているかもしれないけれども、「活字離れ」はしていないんじゃないかな。というのも、メールやネットのブログ、Twitterなど、自分の書いたことをアウトプットするメディアはいまたくさん存在しているわけだから、1人当たりの日ごろ触れている文字数の分量だけを考えれば、きっと人類史上最高だと思うんです。
ただ、最近は紙とネットのメディアの影響力の違いを考えると、少しむなしくなることがありますね。たとえば、一生懸命何時間もかけて書いた雑誌のコラムにはほとんどなんの反応がなくても、Twitterでふとつぶやいた一言のほうが多くの人が読んでくれたり、それに対して意見を言ったりしてくれるわけです。知らない間に誰かがtogetterでまとめていてくれたり、ブックマークしてもらったり。
僕の場合、Twitterは「落書き」というか、診療や執筆の合間の気分転換に使うくらいの位置づけなので、その反応の勢いにはときどき驚かされますね。