小宮一慶

Profile

1957年生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(三菱東京UFJ銀行の前身の一つ)に入行。同行から派遣されてダートマス大学エイモスタック経営大学院でMBAを取得。本店でM&Aなどを担当した後、1991年、岡本行夫氏が代表を務める岡本アソシエイツに移籍し、同社の取締役に就任。1995年、現職。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年100回以上の講演を行う。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで多岐にわたるテーマの著書を発表。その数80冊以上、累計発行部数は220万部を超え、新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も数多くこなす。近著は「こんな時代に会社を伸ばすたった一つの法則」

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「売れる本をつくる」ために。出版社の問題点とは


――出版社も分かりやすい簡単な本を出すことが多くなってきたんですね。


小宮一慶氏: テレビ観ているのと一緒なんですよ。若い人が注意しなくちゃいけないのはね、「月に100冊速読しています」なんて人がたまにいますけど、僕が必ず言うのは「月に100本テレビの番組観てますよ」ということと一緒だということ。立ち止まって考えない本なんか読んだってダメなんだよ、情報得てるだけだから。ダメだとは言わないけど、それを読書してると思っちゃってるのが間違いなんだよね。こちらは作る側だからわかるんですよ。難しく書くと編集者が「優しく書いてくれ」って言ってきますから。それで編集者が内容を簡単に変えちゃうから、僕が書いたものより漢字なんかがすごく減っています。

――本の中の漢字が減っているんですね。


小宮一慶氏: みんなひらがなだもん。「良い」までみんな「いい」になっちゃって、ほとんどひらがなですよ。編集者に聞いたら、迷ったら「ひらく」って言うの。「ひらく」っていうのは、ひらがなで書くっていうこと。それはおかしいんじゃない? って思うんですよね。難しいものは、若い人達だけじゃなくて一般の人たちの論理的思考力が落ちているので、受け入れられないんですよ。内容や文章を簡単にしたら売れるんですよ。出版社は売れりゃいいってなったら、内容を簡単にしてひらがなを使わないとだめなんだよね。

――そういった部分が出版社の問題点ということでしょうか?


小宮一慶氏: 言ったら悪いけど、著者も薄いし読者も薄いんですよ。だから全体の思考力がどんどん落ちてきて、出版もいい物が残らないから儲からない事業になっちゃっているんですよ。いい物を出すより短期的に売れるものを出すという風に多くの出版社がなっちゃった。問題はそこだと思うね。

出版社の存在意義、これから出版社が果たすべき役割とは


――出版社は、今はどういった存在でしょうか?


小宮一慶氏: 言ったら悪いけど、すべてではないけど、多くの出版社が売れる本を出す単なるマーケッターですよ。

――電子書籍が普及する中で、出版社はどういった役割になりますか?


小宮一慶氏: 出版社の役割というのは著者を探して、本を書いてもらって、編集して流通に流す役割なんですよ。そのうち電子書籍になれば、著者でも目ざとい人は自分で本を出し始めますよ。そうでしょ? 編集も、編集者としての腕がなければ、別にそんなの自分でやれることですから自分でやりますよね。流通に流すというのも、アマゾンとかが著者から直接買い付けたら出版社はいらなくなっちゃうじゃないですか。

――出版社は編集という役割が大きいんですね。


小宮一慶氏: あともう一つは本にするということ。一般の人は印刷して本という形にできないから、本の形にするというのが出版社の役割だったんですよ。つまり印刷屋さんに頼んでカバーをつけて、本の形にするということね。でもそれが、電子書籍ではやろうと思えば著者がやれる時代になってしまったということですよ。その辺の所を出版社はよーく考えた方がいいですよね。もっと言うと、著者の才能を引き出して、さらに、世の中に何を訴えかけようとしているか、きちんと把握して本を作っていかないと、単に右から左へ本を流すだけだと出版社の存在意義というのは無くなってしまいますよね。

思考力と行動のパターンの変化、世の中が「バカ化」している!?



小宮一慶氏: 世の中が、言ったら悪いですけれど「バカ化」しているんです。それはマスメディアの影響もあるし、世の中が本質として簡単になっているんですよ。取材場所に来るときは電車で来ました? タクシーで来た?

――電車とタクシーで来ました。


小宮一慶氏: それで、パスモとかSuica使っているでしょ? あれは人を"馬鹿"にしてしまう道具なんですよ。今までだったら目的地に行こうと思ったら、駅行って路線図見て、いくらかなと確認して券売機にお金入れて、場合によってはつり銭確かめて、小さい切符失くさないようにしてたけど、今はパスモやSuicaでピッとやって改札入って、改札出る時もピッとやるだけでしょ?つり銭のことも路線図のことも、ほとんど気にもしないでしょ?そういうこと1つとっても、人が物を考えなくなっているんですよ。例えばパソコンだってそうだけど、僕は出張多いから、ちょっと前まではホテルでインターネット接続するの大変だったんですよ。でも今なんて僕のレッツノートは勝手にWi-Fiを探し出してインターネットに接続しちゃう。物考えないんですよ。iPad使っていたって、開けば勝手にWi-Fiに接続しちゃってるじゃないですか。デジタルカメラだってそうでしょ、昔だったらフィルム使っていたから、もったいないので角度見て枚数も決めて撮るじゃないですか。今だと全然気にしなくても何千枚ってメモリに入るから、「とにかく撮っておこうか」になっちゃうわけ。だからね、物を考えなくなっちゃっているんですよ。

――考えずに出来ることが多くなってきたんですね。


小宮一慶氏: 深く考えなくてもいいから、思考力とか行動のパターンが大きく変わってイージーになっちゃっている。もう1つは、アマチュアでもプロのように振る舞えるんですよ。どういうことかというと、僕もブログもFacebookもやっていますけど、主婦の人でも同じように書くもんね。アマチュアもプロ気取りしている部分もあるでしょ。そういう時代なんですよ。その中で出版がどうやって生き残っていくかということですよ。編集者がプロとアマチュアの差を見つけられるかというところもあるだろうし。出版点数はどんどん減っているもんね。

厳選される時代へ、編集者の能力が問われる


――時代が変わってくる中で、電子書籍はどういったメリットがありますか?


小宮一慶氏: 電子書籍というのは書店の棚がいるわけじゃないから、出版点数が増える点で、いいんじゃないですかね。今は出版点数が減っているから、昔だったら紙の本を出せたような人が、出版社が儲からないから出せなくなってるんですよね。それで自費出版するかというと、自費出版でも何百万かかかっちゃうわけでしょ。そうすると昔はどうしようもなかったけれど、今は電子媒体で出版すれば、出版社もリスクは少ないし、個人でだって掲示板に載せようと思えば載せられるじゃないですか。そういう点ではアマチュアの人にもいいかもしれない。もっと言うと、出版社の人でも目利きの人は素人の人のブログを読んで出版してもらったこともあると言っている編集者もいる。言い方を変えると編集者の能力差というのがすごく出る時代になっているんですよ。当てる編集者はむちゃくちゃ当てる。確か「もしドラ」だってそうでしょ。ブログの小説読んでいて面白いって言うんでダイヤモンド社が出したら、ダイヤモンド社始まって以来のミリオンセラーになっている、そのお陰でドラッカーの本までミリオンセラーになっているという。誰でも書けるようになっているから、編集者の目利き力がすごく重要なんじゃないかなと思いますけれどね。

――書き手や編集者個人個人にフォーカスがより当てられているんですね。


小宮一慶氏: もともとそういうものじゃないですか? 本なんて誰が書いたってどこで出したって売れるってものじゃないから、著者によるでしょ。その能力を引き出してやれるかも編集者の能力による。ただ昔は紙の流通で、出版社の営業力とか、書店さんへの力だとか、広告の力とかによる部分は大きかったけれど、今はもっと中身が厳選される時代になっちゃったんではないですか?

著書一覧『 小宮一慶

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