予報はコンピューターに、解説と責任は人間に
――若い人という話が出てきましたが、いろんな方と接することがあると思うのですけれど、「今の若い者は」と思われたりすることはありますか?
森田正光氏: 「今の若い者は」「昔は良かった」「近頃の天気は」これ3つセットですよね。それ言い出すと年寄りだよ(笑)。若い人にとって時代が可哀想ですよね、時代が。情報とか知ってて当たり前でしょ。IT革命と同時に検索革命が起こったわけでしょ。検索革命によって検索できる能力を持った人とそうでない人とものすごい差がある。さらにそこから分解して、お金を稼げる人と稼げない人が分かれていってますよね。大変だと思いますね。情報が有り過ぎて。しかも物によって何かの価値を生み出すというよりも、思考によって価値を生み出すという時代に入っていますよね。そこが難しいと思います。物をつくるための発明とかだったら分かりやすくていいんだけど。20世紀に大体できたわけでしょ、テレビだって何だっていろんな技術だって。それが進化しているだけだけど、新しい情報としての何かを作り出すというのは大変ですよね。
――気象予報士の歴史というのはいつからでしょう?
森田正光氏: 制度ができたのは、1995年です。まだ20年経っていない。お天気キャスターはいましたけれどね。94年に第1回の気象予報士試験があって、1回目に落ちて「森田さん落ちる」と書かれたことがある(笑)。
――気象予報士とはどういった職業なんでしょうか?
森田正光氏: 気象予報士だから予報すると思うでしょ。私はそう考えている人が淘汰されていくと思っているんですよ。何故かというと、今、予報なんか全部コンピューターがやっているといっても過言ではありません。コンピューターというと、この前将棋の米長さんが負けちゃったけれど、チェスだって人間はもう勝てないんですよ。これから医者もそうだと思うし、診断とかそういうものは全部コンピューターに置き換わっていきますよ。
気象予報士の中で最後にじゃあ何が残るかというと、その精度を上げていく数値予報というコンピューターで数式のものすごく難しいものを作る人の仕事と、出てきた結果をみんなに分かりやすく伝える、解説する仕事、この2つしか残らないんですよ。私は20年くらい前にそれに気が付いて、じゃあ解説の専門の会社を作ろうと思ったのが『ウェザーマップ』。だから私は社員に、もちろん予報できるスキルは大事なことなんですけれど、わからない時はコンピューター通りやれ!と(笑)。
――コンピューターで判断されるんですね。
森田正光氏: 気象予報士には地下室派と屋上派というのがあるんです。屋上に出てこうやって外を見ながら「ああ、今、雲がここだからちょっと……」という人が屋上派。地下室派はもう全部窓閉めてデータだけでやる(笑)。で、私は地下室派が絶対勝つと思っているし、だけどノスタルジーとしてはみんな屋上派ですよね。それはそれでいいんですよ、ノスタルジーとして。漁船の漁師の人がそうやって雲見て天気予報やっていると単純に思っている人が世の中にまだいるけれど、誰もいないですよ、そんな人。そんなことしてたら死んでしまいますからね。(笑)
――いかに分かりやすく解説して、独自の見解を広く伝えることが使命になるのでしょうか?
森田正光氏: 例えば診断はコンピューターがするけれど、最後にハンコを押す決定権は医者でしょ。それと一緒で責任を負う仕事だけ残ってくる。「あの人がそう言ったじゃないか」とか「私が言いました」みたいな、そういう責任の取り方。だってコンピューターが予報を出して、それをそのまま出したんじゃ間違っている場合に責任の取りようがないわけだから、そこで「これで多分間違いないでしょ」とハンコを押す。明らかに変なデータをオミットできる(除外できる)能力はみんなありますからね。だからきっと、世の中はものすごく激変してくるんでしょうね。
人生を変えたのは将棋の本。公式的には(笑)
――本の話に戻りますが、先ほどの勝海舟の「氷川清話」が人生において転機になった本とお伺いしているのですが、ご自身の行動に影響を与えている1冊はありますか?
森田正光氏: つい最近だったら『(日本人)』橘玲(たちばなあきら)。橘さんが好きで、だいたい出版された本は読みました。何がいいかって、あの方はアメリカかどこかに行ってる時に先物か何かで負けたんですって。その時の心理状態が、何か自分の経験と重なるんですよ(笑)。そういう経済にすごく興味を持った時に、「あーわかる」と思って、それで橘さん好きなんです。『(日本人)』って最近(2012年5月)出た本で。いい本だと思った。日本人は全然特殊じゃなくてむしろ個人主義だとか、村ってところに支配されているとか。微笑みの国タイから話が始まってね。いい本だな、みんなに読んでもらいたいと思いますね、特に若い人にね。
――若い時や、学生時代などにこれに感銘を受けたというようなものはありますか?
森田正光氏: 言うと自分の思想的遍歴がわかっちゃうでしょ(笑)。だからね、あんまり言いたくないんだな(笑)。でも、人生を変えたって言うんだったら将棋の本ですね(笑)。
僕は、名古屋の気象協会東海本部から24歳の時に東京に転勤してきたんです。その時に夜勤があって、みんな時間が余ると将棋とか指すんですよ。そこにどうしても将棋で勝てない人がいて、悔しくてしょうがなかった。それでその人に勝とうと思って、そっと隠れて将棋の本を読んだりとか将棋道場に通ったりしていたんです。最初は駒を落としてもらって、角落ちくらいだったかな、それでも勝てなかった。
それでその頃にNHKのテレビ将棋で芹澤博文さんという人を知って、この人の本がすごくおもしろかった。『八段の上、九段の下』という有名な本があるんだけれど、自分は九段なんだけれど実力は九段じゃないといったことが書かれているんです。この方に、ある意味男の生き方みたいなもの、解説の仕方を教わったというかね。今でも将棋は好きなんです。
――今は将棋にどれくらい時間を割いていらっしゃいますか?
森田正光氏: 今はパソコン将棋ですけれども、1週間に2、3回、1時間くらいやるかな。今、三段です。とにかく芹澤博文さんの将棋解説はすごく上手で、おもしろかったんですよ。それを天気の解説に活かそうと思ったんです。だから芹澤さんがいなかったら僕は今いないかもしれないと思っているんです。
芹澤さんの本もほとんど読みました。あの方、文章もまたおもしろくて、いいかげんというか言いたい放題で(笑)。考え方も独特で、というとおかしいけれど昔風の考え方なんですね。だから僕はそれまで労働組合の執行委員とかやっていて、ちょっと左翼的な考え方とか持ったりもしていたんですけど、違う考え方を取り入れることによって「ああそうか、こういう考え方もあるのか」とか思った。
――様々な影響を受けていらっしゃるかと思いますが、本というのは森田さんにとってどういう存在ですか?
森田正光氏: 何だろう(笑)。あまり考えたことないけど、必ず枕元に何冊も積んであるという感じですけどね。本がないと寝られない、本がないと何か居心地が悪いみたいな。今でも必ず毎週土日は時間があれば本屋に行くし。立ち読みするために、わざわざ何軒か違う本屋に行く(笑)。立ち読みっていい本がないか本を調べにという、そういう意味なんですが。あと平日でも時間があれば行ったりね。
――近所の本屋さんにも行かれますか?
森田正光氏: 僕、中央区に住んでいるのですが、近くの豊洲のららぽーとかトリトンスクエアにも本屋さんがあります。銀座まで歩いて、銀座の本屋は何軒もあるから、途中までここまで読んで次ここまでって結局1冊丸々読んだり(笑)。本屋は最高ですよ、運動不足(解消)にもなるし。
著書一覧『 森田正光 』