森田正光

Profile

1950年名古屋市生まれ。財団法人 日本気象協会を経て、1992年 初のフリーお天気キャスターとなる。同年、民間の気象会社 株式会社 ウェザーマップ、2002年には気象予報士受験スクール 株式会社 クリアを設立。現在はテレビやラジオ出演のほか、全国で講演活動も行っている。2005年 日本生態系協会理事に就任し、2010年からは環境省が結成した生物多様性に関する広報組織「地球いきもの応援団」のメンバーとして活動。環境問題や異常気象についての分析にも定評がある。現在TBSテレビ「Nスタ」(月~金)、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」(水)に出演中。

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『明日は明日』の変化についていけるものが生き残る



「天気をわかりやすく伝えるプロのお天気キャスター」として知られる森田正光さん。気象キャスターとして活躍する一方、民間気象会社ウェザーマップの社長として、わかりやすく正確な気象情報をさまざまなメディアや企業に提供しています。常に好奇心旺盛、新しいものに対して貪欲な姿勢の森田さんに、昨今の気象に対する見解や人生において影響を受けた本についてお伺いしました。

東京の気温は1年間でトータル約1100度上昇しています


――早速ですが、森田さんの現在のお仕事について伺えますか?


森田正光氏: 僕は『ウェザーマップ』という会社をやっていて、そこでいろんな気象サービスを提供しています。そこの社長でもあるので、統括すると言うと大げさですけれど「みんな一生懸命やってください(笑)」と言う立場ですよね。
『ウェザーマップ』自体としては、コンテンツを見ていただくとわかると思うのですが、例えばアプリをやったりとか、気象情報を配信したりとか、テレビ局にお天気キャスターを派遣したりとか、そういうことをやっています。気象サービスに特化した会社ですね。

――気象予報をしていて、昔と変わったと感じることはありますか?


森田正光氏: 雨の降り方とか変わってきていますよね。皆さんは体感されていると思うのですが、今年も熊本の豪雨で、実際に今回「これまでで経験したことのないような」というフレーズが使われました。

例えば「1時間に80ミリぐらいの雨」というのがあるのですが、この1時間に80ミリというのは人生の中で1回経験するかどうかぐらいの強さの雨なんですよ。それが30年ぐらい前に比べると1.7倍。50ミリ以上の雨も2倍近くになっていますね。
温暖化が進むと地上の気温が高くなりますね。上空の気温が一定だとすると大気が不安定になって、それで激しい雨が多くなるんです。

――温暖化の原因は大気中のCO2濃度の上昇と言われていますけれど、地球的な規模での大きな変化なのか、それとも人為的なものによるのかというところはどうなのでしょう。


森田正光氏: 一言でいうと、諸説紛々としています。しかし気象庁の異常気象レポートによると、温暖化していることがわかります。それからIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートも、温暖化を認めています。

一時「ホッケースティック論争」といって、温暖化は嘘じゃないの?という、過去の気温データが改ざんされていたのではないかという疑惑がありました。あれもいろんな議論があるところなんですけれど、CO2が増えていることは事実なんですね。それで温度が上がっているのも事実だし、ヒートアイランド現象が進んでいるのも事実。
観測結果から言うと明らかに増えている。その原因については人為的なのかというと、まあ都市気候は明らかに人為ですよね。

――都市気候に関しても、どんどん進んで悪くなっていますか?




森田正光氏: 東京では、この100年間で平均気温が約3度上がっている。3度ということは365かけると約1100度ぐらいでしょ。毎日平均気温がプラス3度だから365日分かけて、その分、温度をどこかに足して、という風に考えるとわかりやすいですよね。
1日だけ3度高いわけじゃない、毎日高いんですよね。特に冬の朝は5度くらい高くなった。昔、東京の最低気温は氷点下4~5度がふつうでした。今は氷点下になること自体が少ないですよね。
温暖化論についてはいろいろ面白いのがあって、ちょっと短い時間では話せないんですけども、気候が化石燃料を使うことによって変化しているというのを受け入れるというのが主流ですよね。だからやっぱり環境に対して人為的なことを抑制しようというのは正しいと思いますよね。

――ここ10年ぐらい、体感的に梅雨があまりないような気がするのですが、それは勘違いですか?


森田正光氏: 逆に、今年は雨日数は少ないんですけれども雨量は多いんですよ。
陽性的な梅雨なんてよく言うんですけれど、西日本などは、1週間で2000ミリ近く降った所もあります。だから降る時はドカッと降って降らない時は降らないので、それでそういう印象になる。
昔は毎日しょぼしょぼだったのが、今はまとめてどんと降る。性格が変わってきた。それが亜熱帯の様相を示しているといわれるんじゃないですかね。

『今日は今日、明日は明日』という考え方に打たれて座右の銘に


――続いて電子書籍について伺おうと思います。今現在電子書籍の利用はされていますか?


森田正光氏: SONY Readerをいただいて、それで『横井小楠』という本を一冊買って、半分くらい読んでそのままにしてある(笑)。電子書籍って読みやすいんですけれど、買うのがなんか面倒くさいですよね。僕いつも思うけれど、もっとどの端末でも自由に買えるようになったら絶対広がると思いますよね。しかも支払いも面倒くさいし。プリペイドでも何でもいいけど、そうなったら僕は大いに買いますね、特に雑誌とかはいいと思います。端末はどこでもいいから天下統一してほしいですよね(笑)。いろんな利害関係があって難しいかもしれないけど、とにかく消費者のことを考えてどこでも好きに買えるようになったら爆発的に売れるようになるんじゃないですかね。

――先ほどの『横井小楠』というのはどんな本でしょう?


森田正光氏: 勝海舟ってご存じですよね。勝海舟が書いた『氷川清話』という本の中に、面白いエピソードが書いてあります。勝海舟は今までの人生の中で恐ろしい人物を2人見たことがあると。1人は西郷隆盛、もう1人は横井小楠なんですよ。

横井小楠というのは思想家ですが、ある意味、当時のディベートの天才なんですね。横井小楠と話すとみんな言い負かされるわけ。だけど横井小楠の偉いところは、次の日はもう「昨日のことは忘れてくれよ」みたいなことを言うんですって。「今日は今日でまた新しいこと考えようよ」みたいな。

――前日議論しあった次の日にですか?


森田正光氏: 「今日は今日だ、明日は明日だ」みたいなことを言うんですって。そこがすごいと言うんですね。幕末、福井の藩主に肥後から招へいされた学者ですよね。
横井小楠は坂本龍馬の先生でもあるし、坂本龍馬は船中八策を考え、それが明治維新の「五箇条の御誓文」に繋がっていくわけでしょ。その船中八策のもとになったのが横井小楠の考えです。だから明治維新とか幕末とか勉強しようと思ったら、実は読んでいないといけない(笑)。

――何かご自身のお仕事に通じるものというか、学ぶものはありますか?


森田正光氏: 『明日は明日』というのがまさに天気予報。今日は今日のことを一生懸命考えて、翌日になって状況が違ったらすぐ伝えないといけない。『明日は明日』という、そういうことなんですね。

――確かにある程度は予測できると思いますが、本当に何が起こるかわからないですものね。


森田正光氏: 若い時に『氷川清話』の本を読んで、ああこれ天気予報と一緒だなと思った。それで僕は『明日は明日』というのを自分の座右の銘にしたんですよ。だから今日のデータで明日こうなると思っているけれども、翌日状況が変わったらすぐに修正するというか、変化するという事に尽きると思うんですよね。いろいろ自分が変化していくという。今、世の中がものすごい変わっていって、電子書籍が入ってきたときに「こんなもので本が読めるか」とかいう人がいた、今でもいる。でも住み分けていけばいいわけで、新しい物があったらとにかく受け入れてみるみたいな。

ダーウィンの進化論で「変化するものだけが生き残った」という有名なフレーズがあるじゃないですか。賢いから生き残ったんじゃない、強いから生き残ったのでもない、変化するものだけが生き残った、という。あれだと思いますよね。変化についていけるかどうか、ですよね。

予報はコンピューターに、解説と責任は人間に


――若い人という話が出てきましたが、いろんな方と接することがあると思うのですけれど、「今の若い者は」と思われたりすることはありますか?


森田正光氏: 「今の若い者は」「昔は良かった」「近頃の天気は」これ3つセットですよね。それ言い出すと年寄りだよ(笑)。若い人にとって時代が可哀想ですよね、時代が。情報とか知ってて当たり前でしょ。IT革命と同時に検索革命が起こったわけでしょ。検索革命によって検索できる能力を持った人とそうでない人とものすごい差がある。さらにそこから分解して、お金を稼げる人と稼げない人が分かれていってますよね。大変だと思いますね。情報が有り過ぎて。しかも物によって何かの価値を生み出すというよりも、思考によって価値を生み出すという時代に入っていますよね。そこが難しいと思います。物をつくるための発明とかだったら分かりやすくていいんだけど。20世紀に大体できたわけでしょ、テレビだって何だっていろんな技術だって。それが進化しているだけだけど、新しい情報としての何かを作り出すというのは大変ですよね。

――気象予報士の歴史というのはいつからでしょう?


森田正光氏: 制度ができたのは、1995年です。まだ20年経っていない。お天気キャスターはいましたけれどね。94年に第1回の気象予報士試験があって、1回目に落ちて「森田さん落ちる」と書かれたことがある(笑)。

――気象予報士とはどういった職業なんでしょうか?


森田正光氏: 気象予報士だから予報すると思うでしょ。私はそう考えている人が淘汰されていくと思っているんですよ。何故かというと、今、予報なんか全部コンピューターがやっているといっても過言ではありません。コンピューターというと、この前将棋の米長さんが負けちゃったけれど、チェスだって人間はもう勝てないんですよ。これから医者もそうだと思うし、診断とかそういうものは全部コンピューターに置き換わっていきますよ。

気象予報士の中で最後にじゃあ何が残るかというと、その精度を上げていく数値予報というコンピューターで数式のものすごく難しいものを作る人の仕事と、出てきた結果をみんなに分かりやすく伝える、解説する仕事、この2つしか残らないんですよ。私は20年くらい前にそれに気が付いて、じゃあ解説の専門の会社を作ろうと思ったのが『ウェザーマップ』。だから私は社員に、もちろん予報できるスキルは大事なことなんですけれど、わからない時はコンピューター通りやれ!と(笑)。

――コンピューターで判断されるんですね。


森田正光氏: 気象予報士には地下室派と屋上派というのがあるんです。屋上に出てこうやって外を見ながら「ああ、今、雲がここだからちょっと……」という人が屋上派。地下室派はもう全部窓閉めてデータだけでやる(笑)。で、私は地下室派が絶対勝つと思っているし、だけどノスタルジーとしてはみんな屋上派ですよね。それはそれでいいんですよ、ノスタルジーとして。漁船の漁師の人がそうやって雲見て天気予報やっていると単純に思っている人が世の中にまだいるけれど、誰もいないですよ、そんな人。そんなことしてたら死んでしまいますからね。(笑)

――いかに分かりやすく解説して、独自の見解を広く伝えることが使命になるのでしょうか?


森田正光氏: 例えば診断はコンピューターがするけれど、最後にハンコを押す決定権は医者でしょ。それと一緒で責任を負う仕事だけ残ってくる。「あの人がそう言ったじゃないか」とか「私が言いました」みたいな、そういう責任の取り方。だってコンピューターが予報を出して、それをそのまま出したんじゃ間違っている場合に責任の取りようがないわけだから、そこで「これで多分間違いないでしょ」とハンコを押す。明らかに変なデータをオミットできる(除外できる)能力はみんなありますからね。だからきっと、世の中はものすごく激変してくるんでしょうね。

人生を変えたのは将棋の本。公式的には(笑)


――本の話に戻りますが、先ほどの勝海舟の「氷川清話」が人生において転機になった本とお伺いしているのですが、ご自身の行動に影響を与えている1冊はありますか?


森田正光氏: つい最近だったら『(日本人)』橘玲(たちばなあきら)。橘さんが好きで、だいたい出版された本は読みました。何がいいかって、あの方はアメリカかどこかに行ってる時に先物か何かで負けたんですって。その時の心理状態が、何か自分の経験と重なるんですよ(笑)。そういう経済にすごく興味を持った時に、「あーわかる」と思って、それで橘さん好きなんです。『(日本人)』って最近(2012年5月)出た本で。いい本だと思った。日本人は全然特殊じゃなくてむしろ個人主義だとか、村ってところに支配されているとか。微笑みの国タイから話が始まってね。いい本だな、みんなに読んでもらいたいと思いますね、特に若い人にね。



――若い時や、学生時代などにこれに感銘を受けたというようなものはありますか?


森田正光氏: 言うと自分の思想的遍歴がわかっちゃうでしょ(笑)。だからね、あんまり言いたくないんだな(笑)。でも、人生を変えたって言うんだったら将棋の本ですね(笑)。
僕は、名古屋の気象協会東海本部から24歳の時に東京に転勤してきたんです。その時に夜勤があって、みんな時間が余ると将棋とか指すんですよ。そこにどうしても将棋で勝てない人がいて、悔しくてしょうがなかった。それでその人に勝とうと思って、そっと隠れて将棋の本を読んだりとか将棋道場に通ったりしていたんです。最初は駒を落としてもらって、角落ちくらいだったかな、それでも勝てなかった。
それでその頃にNHKのテレビ将棋で芹澤博文さんという人を知って、この人の本がすごくおもしろかった。『八段の上、九段の下』という有名な本があるんだけれど、自分は九段なんだけれど実力は九段じゃないといったことが書かれているんです。この方に、ある意味男の生き方みたいなもの、解説の仕方を教わったというかね。今でも将棋は好きなんです。

――今は将棋にどれくらい時間を割いていらっしゃいますか?


森田正光氏: 今はパソコン将棋ですけれども、1週間に2、3回、1時間くらいやるかな。今、三段です。とにかく芹澤博文さんの将棋解説はすごく上手で、おもしろかったんですよ。それを天気の解説に活かそうと思ったんです。だから芹澤さんがいなかったら僕は今いないかもしれないと思っているんです。
芹澤さんの本もほとんど読みました。あの方、文章もまたおもしろくて、いいかげんというか言いたい放題で(笑)。考え方も独特で、というとおかしいけれど昔風の考え方なんですね。だから僕はそれまで労働組合の執行委員とかやっていて、ちょっと左翼的な考え方とか持ったりもしていたんですけど、違う考え方を取り入れることによって「ああそうか、こういう考え方もあるのか」とか思った。

――様々な影響を受けていらっしゃるかと思いますが、本というのは森田さんにとってどういう存在ですか?


森田正光氏: 何だろう(笑)。あまり考えたことないけど、必ず枕元に何冊も積んであるという感じですけどね。本がないと寝られない、本がないと何か居心地が悪いみたいな。今でも必ず毎週土日は時間があれば本屋に行くし。立ち読みするために、わざわざ何軒か違う本屋に行く(笑)。立ち読みっていい本がないか本を調べにという、そういう意味なんですが。あと平日でも時間があれば行ったりね。

――近所の本屋さんにも行かれますか?


森田正光氏: 僕、中央区に住んでいるのですが、近くの豊洲のららぽーとかトリトンスクエアにも本屋さんがあります。銀座まで歩いて、銀座の本屋は何軒もあるから、途中までここまで読んで次ここまでって結局1冊丸々読んだり(笑)。本屋は最高ですよ、運動不足(解消)にもなるし。

アプリや電子出版で、テレビではできない「過激な」情報送信をしてみたい


――最後の質問ですが、今後こういうことをやっていきたいなというのは何かありますか?




森田正光氏: 今スマホアプリで『森田さんの雨デス』というのをやっています。
これはシンプルですごく役立つのでぜひ利用していただきたい。もちろん電子書籍、電子出版もやってみたいです。電子書籍はいいものだし、紙との住み分けは十分できると思います。雑誌なんかかさばるし、重いのは絶対電子書籍の方がいいし、検索できるし動画もできると思います。
だいたい変な話だけど、本を読まない人はどうやったって読まない。読む人はどれだけでも買うと思います。電子書籍だろうが何だろうが情報を欲しがっているわけですから。

――いっとき『紙』対『電子』みたいな言い方もされていましたね。


森田正光氏: ナンセンスですよね。別にいいじゃんって。でも時代が100年変わって、コンテンツが全部スーッと出てくるようになったらそれでもいいと思います。

――天気予報でいうと解説、電子書籍でいうと出版社が編集力を発揮してわかりやすく伝えられるような、アプリや電子出版をやっていきたいということでしょうか?


森田正光氏: 電子出版をやりたいっていうのは、僕ね、実は根が過激なんじゃないかと思って(笑)。テレビって発言を制限されるでしょ。本当にそろそろ言いたいこと言っていいような歳になったんじゃないかという気もするんですよね。今は、一つの正義しかなかったりするでしょ。例えば、豪雨で残念ながら30人くらいの方が亡くなったとすると、それが何故ゼロにできなかったのかと行政を追及したりします。昔に比べて、情報が速く多く伝わることによって、ゼロリスク神話のようなものができてしまったのではと思います。本当はゼロリスクってないだろうと思うんですけどね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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