原田武夫

Profile

東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省に外務公務員Ⅰ種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐を最後に自主退職。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という想いの下、情報リテラシー教育を展開。調査・分析レポートを執筆、国内企業等へのグローバル人財研修事業を全国で展開。学生に無償で「グローバル人財プレップ・スクール」を開講。国際会議「グローバル・エコノミック・シンポジウム 2011」にパネリストとして招待され、以降も我が国からの数少ない出席者の一人として参画している。最新著書は『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)。
公式Webサイト
http://www.haradatakeo.com

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秒速の判断が必要な時代ほど、「未来」ではなく「過去」へ戻れ



元外交官であり、2005年に自主退職された後、独立系シンクタンク「株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)」を設立。CEOを務め、2010年に一般社団法人日本グローバル化研究機構(RIJAG)を設立、代表理事を務められている原田武夫さんに、真のグローバル化とは何か、また本や電子書籍が担う「知」の役割について語っていただきました。

現在の活動は“情報リテラシー”を研究し、学生や企業に広めていくこと


――早速ですが、貴研究所のお仕事、そのほかの取り組みも含めて、近況をご紹介いただければと思います。


原田武夫氏: 外務省に2005年までおりまして、7年前に自主退職しました。今のシンクタンクは2007年に設立をしたのですが、私たちのシンクタンクは、いわゆる独立系で、私たち自身が活動を行って収益を得てまた活動していく仕組みです。活動内容は“情報リテラシー”の研究開発と、教育研修ですね。“情報リテラシー”の問題というのは1995年にWindows95が出てから、日本人を取り巻く情報の量がものすごく多くなっていて、一説には600倍近いと言われている情報の洪水の中、どうしていくか、という問題です。

――600倍に増えているのですね。


原田武夫氏: これに対して日本人の情報を処理する能力は4倍にしかなっていない。だから今、情報はたくさんあるのだけれど、これをどうやって正しく選択して意味を読み取って、かつ自分自身の生活、あるいは企業、あるいは組織としての戦略としていくのかという情報を捌く能力についての問題が起きているんです。この部分を“情報リテラシー”として研究して、どうやって人が学んでいけるのかということを研究、教育しているのが、うちのシンクタンクなのです。今グローバル人財っていうのが非常に重要になってくると言われているんですが、グローバル人財には結局何が必要かというと、例えばアフリカの奥地に行ったとする。そこでインターネットが仮に通っていれば情報はたくさんあるわけですが、その中で、自分は何をすべきなのかっていうのを考える能力なんです。われわれの研究所は、社会貢献事業として、学生たちに対する“情報リテラシー”の教育と、企業に対するグローバル人財の教育をやっています。2013年4月からeラーニングもやるのですが、いわゆるグローバル人財をどう育てていくのかということを、日本中の至るところでやっていこうとしています。

――学生に対する“情報リテラシー”の教育は、無償で行うのですか?


原田武夫氏: はい、そうですね。これは会員制度を運営しており顧客である会員の方々のご支援をいただいています。

真実を全ての人に伝えるために、講演し、本を執筆する


――そもそもそのような理念をお持ちになったきっかけをお話しいただけますか?


原田武夫氏: やはり一番大きかったのは、私は外務省で一番最後のキャリアが北朝鮮問題について担当させていただいたことなのですが、当時は日本人拉致問題がものすごく騒がれていたんですね。ところが北朝鮮の問題っていうのは、実際に外交場裏に行くと、これは経済利権の奪い合いなんです。この経済利権の奪い合いが一方であって、他方においては、日本人拉致問題が、世論で騒がれている。これが結局のところ何が問題かと言うと、やはりメディアが流している情報がたくさんあって、最も味付けの濃い日本人拉致問題に皆飛びついているわけですね。もちろん言うまでもなく、拉致問題はきっちり解決すべき問題ではあります。しかし、一方で、外交場裏で起きている現実を誰かがきちんと伝えなきゃいけない。それをしかも、東京の人だけでなく全国の方々が知っている必要があると感じたんです。私が講演活動と、本を書くことと両方をやっているのは、それを伝えるためなんですね。特に色の付いてない次世代の方々に、ぜひ真実を知ってほしい。事実を知った上で、じゃあ自分はどうすればいいのかと考えてもらうというところを、グローバル人財の教育としてやっていこうと思ったわけです。そうしないと、結局外交をやったところでですね、あまり意味がないと思うんです。

――多くの人たちが世界の現状をわかってないわけですね。


原田武夫氏: そう。たくさん情報がありすぎるので、今はもっとひどい状況になっている。だから、私は真実を、たくさんの公開情報の中からどうやって読み解いていくのかという“情報リテラシー”がなければ、この国は一歩も先に進めないのだろうなと思っていたんです。そうしたら案の定、例えば郵政民営化のときも、みんな構造改革だの郵政民営化だとか、自民党をぶっつぶすとか何とか言っている方にさーっと流れてしまった。要するに情報がたくさんある中で、非常に刺激的なものに大衆は流れていってしまうんですね。そうじゃないんだと。いわゆる「賢慮」と言いますけど、賢い、慮る、フロネシスって言うんでしょうけど、そういうフロネシスを持ってる人間が、1人でも多く若い世代で生まれないと、この国には将来がないなと思う。だから外務省で外交をやっている場合じゃないなと思ったのが率直なところです。これは政治家がやる話でもないし、現場の教育の先生方がやる話でもない。教育者は学習要領に縛られているし、企業は企業で多分そんな余裕がない。それは何らかの全く新しい形態での教育というのが必要だろうということで私たちはこの活動を始めたんです。



サンマルコ修道院で羊皮紙の本を読む僧侶を見て「本は死なない」とひらめいた


――そのような中で、本を書こうと思われたきっかけはどういったことだったんでしょうか?


原田武夫氏: 本を書こうと思った最大のきっかけは、1994年の12月、外務省でドイツ在外研修に行った時のことなんですね。ちょうどその時に私の父が白血病になったことがわかりまして、研修というと普通はルンルン気分で明るく行く人が多いのですが、私の場合は、「人の命とは何か」とか、「生きるとは何か」とか、そういうテーマを考える大きな転機になったんです。その研修中、クリスマスの日にイタリア・フィレンツェに旅行した時、サンマルコ修道院でお坊さんたちが、皆、テラスで椅子を並べて座っているのを見たんです。最初は「絵でも描いているのかな」と思ったんですよ。そうしたらお坊さんたちは、羊の皮で作ったラテン語のこんなにでっかい本を読んでいる。じーっと読んでるんですね。10分、いや15分間くらい同じページをずっと読んでいるんです。ラテン語でぶぁーっと書いてあって、私には何を書いてあるかわからない。でも、1枚1枚をめくってるんですよ。私がその時にぱっと思ったのが、「そうか、人は死ぬけれども、本は死なない」ということでした。本は死なない、本に書いてあるメッセージは死なない。だから私は本を書く人になろうと思ったんですよ。その時に、私は父が亡くなる、という事実を自分自身で乗り越えなければいけないと思ったんです。だから、そこで何か有限な人生よりも、もっと大きなことにコミットすれば乗り越えられると思った。私自身は本を書くということにコミットしたんですよ。例えば日本で出した本だったら、国立国会図書館に所蔵されて永遠に保管されるわけです。書かれた本は日本という国がある限りは、ずっと保存されるわけですよ。だから「ああ、これだな」と思ったんです。本を書くことは、私にとっては生きることだと。今はやっぱり本は部数主義ですが、私は違うと思います。イマヌエル・カントの、『啓蒙とは何か』という本があります。これが出版された当時は啓蒙主義で、結局、世の中をこれから変えていきたいという市民革命の原動力になったものなんです。でも初版はたったの200部なんですよ。それが現在も未だに人々の心を動かしている。生きるか死ぬかの決意で書かれた本は、それくらいの影響力があるわけです。うちの社員で文字を適当に書いている人がいると、私は結構強烈にしかるんですけれど、それは文字というのはやはり人が生きていた証しだと考えているからです。

――すごい話ですね。


原田武夫氏: そうなんです。世界史がたったの200部から動いたんですね。だから、今の部数主義は絶対に間違っていると思っています。私の本はものすごく売れるというのではないんですが、ただ例えば鹿児島や青森へ行くとする、「前からあなたのこと知っているよ」「なぜですか」「本を読んでいます」って言われると、「やはりすごいな」と思いますよね。本はメッセージなんですよ。だから、必要な人に、必要な形で、必要なタイミングでメッセージとして伝わっていく。これが私の命が無くなることがあったとしても、その後ずっとそのメッセージが続いていくというのは、非常に尊いことだと思いましてね。だから自分もそれをやりたいと思ったんです。最初は外務省にいる時、趣味で書いていたんですけど、今はそちらが本業になってしまったわけです。

著書一覧『 原田武夫

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