原田武夫

Profile

東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省に外務公務員Ⅰ種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐を最後に自主退職。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という想いの下、情報リテラシー教育を展開。調査・分析レポートを執筆、国内企業等へのグローバル人財研修事業を全国で展開。学生に無償で「グローバル人財プレップ・スクール」を開講。国際会議「グローバル・エコノミック・シンポジウム 2011」にパネリストとして招待され、以降も我が国からの数少ない出席者の一人として参画している。最新著書は『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)。
公式Webサイト
http://www.haradatakeo.com

Book Information

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今書いているのはソナチネレベル。いつかはモーツァルトのレクイエム級の作品を


――以前は音楽を志されていたと伺いました。


原田武夫氏: 私は最初、作曲家になりたかったんです。当時はヨハン・セバスチャン・バッハがすごく好きで。音大芸大に行きたかったんですけど、それを断念して外交官になることを決めて、東大に行ったんです。やはりゼロからものを作るということの喜びというか、クリエイションは、執筆活動に通じるものがあると思いますね。私は未だに全然うまく書けていないし、今私が書いているものは、モーツアルトを引き合いに出すのも僭越なんですが、ソナタとかソナチネくらいのものですよ。やっぱりモーツァルトで言うところの40番とか、41番に相当するようなもの、あるいは、レクイエムなどの代表曲を書けるような作家にいつかはなりたいなと思っているんです。

――その媒体が紙であろうと、電子であっても関係はないですか?


原田武夫氏: そうですね。電子出版について云々されていますけど、私は意味がしっかり伝わればいいのだと思います。大切なのは伝わるっていうことなんです。昔、音楽を志していた時にそういう議論をしたことがありますが、やはり芸術家のための芸術、要するに自己満足のための芸術は芸術じゃないんです。読む人がいて、そこに込められた意味が重要であれば、必要な人に、必要なタイミングで、必要な形で伝わる。それはひょっとしたら、もっと将来のことかもしれない。だから重要なのは、作家が一生懸命、狙ってるんじゃなくて、その意味を何としても表現して伝えなくてはと思う気持ちがあれば、それは、読者に伝わるんだと思うんですよね。

自分の本の読者は「全て年代の人」がターゲット


――執筆スタイルについてもお伺いしたいと思うんですが、書き手として、執筆するときに、読者を意識されることはあるんですか?


原田武夫氏: 私は基本的に、年代、世代、地方、職業問わず、これから日本という国が成り立っていくために絶対必要なことを伝えたい。だから、あまり特定の読者に絞ってはいません。私は出版社の皆さんには非常に申し訳ないんですけれども、本は好き放題書かせていただいています。だから編集者さんには「好き放題書きますんで、迷惑が掛かると思いますよ」ということはお話して、納得していただいた方とだけお仕事させていただいている。私の本を必要としているのは、これからの世代、同時にリーダーをやっている世代の人たちなんです。私はどちらかというと、本を通じてリーダーの人たちが情報を消化して、そこからさらに自分の言葉で伝えてくれればいいなと思っている。だから場合によっては、ちょっとぎょっとする様なことも書いているんです。それは「帝王学」と呼ばれるようなもの。本当だったら、口伝えで教わる世界なんです。日本はエリート教育というものが無くなってしまったので、そういう帝王学を教えるところが無くなってしまったんですね。

――確かにそうかもしれないですね。


原田武夫氏: だから外国というものをどうとらえるのか、といったことも書きます。例えば、いま外国文化って言うと基本的にアメリカの文化だと思われてるんです。でも私が留学したのはドイツで、ドイツは全くそんなことはない。ドイツにはイスラムの文化もあるし、フランスの文化もあるし、イギリスの文化もある。たくさん文化がある中でドイツ文化があると。日本の場合は、戦後から一貫してアングロ・サクソンの文化、あるいはもっと言うと、アメリカの文化なんですね。そこじゃないんだよっていうのをどうやって伝えるかですね。今、金融資本主義の中でものすごい秒速で物事が動いていっている。ただそうは言っても、実は一番重要なのは「歴史は繰り返す」ということなんです。多くの人たちはこれを結構わかっていなくて日本ではMBAとかを一生懸命取りに行く。それもどうかなと思っています。なぜかと言うと、ヨーロッパ人、アメリカ人はMBAを取る前にUndergraduate(学士課程)で皆、歴史学と宗教学、哲学をやっているんです。

――そうなんですか。


原田武夫氏: オックスフォード大学とかハーバード大学で実は文系はそれやっているんですよ。どうしてかと言うと、歴史は繰り返すからなんですね。マーケットは特に。だから、私は本の効用はそこにもあると思ってます。今はものすごい金融資本主義で加速的に回っているから、金融的な知識とか法律的な知識とか、そちらにばかり日本人は目が向きがちですけれど、実は司令塔になって運用している人間は何を見ているかと言うと、歴史の大きなうねりなんですよね。この大きなうねりの中で投資活動をやっているんです。だから、今の金融資本主義とかインターネットとか、秒速の世界になればなるほど、瞬時に判断するためには知識の財産が大量にないといけないんです。これをどうやって人間が詰め込めるかと言うと、それはもう本を読むしかないんですよ。

――人間の平均寿命が80年間くらいの経験則よりも本による知識が重要なんですね。


原田武夫氏: それはそうです。だって多くの人たちが、重要な意味があることだから知っておいてほしいということが凝縮されたものが本なんですから。それをどれくらいたくさん読めるかですよ。だから、正しい未来に対する判断をするためには、一番必要なのは本を読むこと。未来に行けば行く程、実はみんな過去に帰って来ないといけないんです。だから本が必要なんです。私は、学生たちに対してやっている社会貢献事業は何を伝えているかというと、「本を読め」ということ。今の学生さんたちは、大体ひと月に1冊も読まないですからね。何をやってるかって言うとGoogleで検索ばっかりしている。だから、そうじゃなくて、将来に向けて勇気を出して一歩踏み出すために必要なのは、過去に何があったのか、過去のパターンがパターン思考として頭の中に入ってないといけない。それを詰める作業が、実は読書なんです。

人類は進歩していない。歴史は繰り返す


――学生さんたちに接されてそう思いますか?


原田武夫氏: そう思いますね。例えばいま、中国の問題というのは、突拍子もなく起きたかのようにみんな思っている。でも私の目から見ると、ちょうど1930年代の日中関係そっくりですよ。すごく似ている。要するに、中国という国が、1929年の大不況があって、あの直後、中国は通貨政策上の危機に陥る。それで、アメリカやイギリスが助けようかと言ってきたんですが、結局、当時の中国が助けを求めたのは日本だった。幣原喜重郎という外務大臣がいて「じゃあ助けようか」と。ですから、1930年代の前半っていうのは、相対的に言うと日中関係は経済協力をしていたから、実は非常に安定していたんですね。金融協力、経済協力をしていた。だから円は非常に強くなって、中国の通貨改革を手伝おうとしていた。そうしたらやっぱり、それに反感を持つ国々がいたわけですよ。それは第1にアメリカ、第2にイギリスであったりほかの欧州諸国、ソ連。それで結果どうなったのかと言うと、いつの間にか日本は、日中戦争に追い込まれていったんですよ。だから要するに現在の状況っていうのは、金融メルトダウンの中で、日中間、非常に経済的には近かったはずなのになぜか政治でにらみ合っている。これは誰の意向なんだろうっていうふうに考えていくと、色々な答えが出てくる。だから、私はそういう意味で1930年代の歴史っていうのをよく学んだ方がいいよと思います。20年代、30年代。今、起きてることはほとんどそこの焼き直しですよ。人類はあんまり進歩してないですね。

――どういった意向がそこに存在するんでしょうか?


原田武夫氏: 結局、日本と中国が一緒になっちゃうと困るんですよ。何が困るかって言うと、いま世界中の外貨準備高が一番高いのは日本と中国ですよね。つまり東アジアの民族っていうのは、お金を貯めるっていう習慣があるんですよ。癖がある。その結果、ほかの国々から移転してきたお金が、東アジアから出て行かなくなってしまうんです。これが、ヨーロッパ、アメリカ、あるいはそのお金を預かっている国際金融資本からすると困るんですよ。

――お金が流れていかないんですね。


原田武夫氏: ええ。だからヨーロッパやアメリカからのメッセージは非常に簡単で、流さないと駄目だってことなんですよね。例えば日本人は、CSR活動をほとんどの企業はやらないんですよ。だから、どんどん内部の力が溜まっちゃっていますね。これがヨーロッパの企業だと、みんな大量のCSRをやっている。あれはお金を流すための作業なんですね。だから日本とか中国、特に日本は、西洋流の近現代の経済システムに入ってるように見えて、実は入っていない。そこの部分が実は非常に問題なんです。明治維新のころからずっと問題なんですよ。だからグローバル化とかグローバル人財って言われてますけど、人財として必要なのは、そういう人たちなんです。グローバル人財って言われている人たちは、世界史を私は回すという言い方をするんですが、お金を回すことのできる人なんですよ。お金を回すっていうことは何かと言うと、自分たちだけ貯め込んだり、自分たちだけ取るっていうことは駄目なんです。日本は何で駄目になるかって言うと、日本人っていうのはどうしても独り占めしようとする。そうじゃなくて、皆で組む。金融の世界で、100%取ることはできないんですよ。そのアイデアを出して組み立てた人たちだって、実は取れるのはいいところで4割ですよ。そういう気概でやっていくっていうことが、実は世界を回すことなんです。そういうことが学べるのがどこかと言うと、これはやっぱり本の世界なんです。だから今立ち返るべきなのは、過去なんです。インターネット文化になって、物事をリアルタイムのことしか皆知らなくなってしまっている。そういう意味でも、これまでの知識、知見の集積である「本」をやっぱり読んでいくということは重要になる。いまやるべきことは、これ以上でもこれ以下でもないと思いますよね。

著書一覧『 原田武夫

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