平野敦士カール

Profile

東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行、NTTドコモiモード企画部アライアンス推進担当部長を経て、ハーバード・ビジネススクール准教授とともに戦略コンサルティング会社、株式会社ネットストラテジーを創業、社長に就任。元楽天オークション取締役、元ドコモ・ドットコム取締役、元タワーレコード取締役。社団法人プラットフォーム戦略®協会理事長、ハーバード・ビジネススクール招待講師など、国内外での講演多数。著書に『カール教授と学ぶビジネスモデル超入門』(ディスカヴァー21)『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)など多数あり、韓国台湾など海外でも翻訳されている。

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桃太郎が流れてくる「川」に毎日洗濯に行くことが重要



平野敦士カール氏: 何か皆さんにお声をかけていただくことが多いですね。何か声をかけやすいのかもしれないですね。この間インタビューをやって恩藏先生とお話した時に、「恩藏先生は何でマーケティングでコトラーをやったんですか?」とお聞きしたら、たまたま恩藏先生が師事した先生がご高齢だったので、「もう年なので恩藏くん、やってみないかといわれたのでやったんです」みたいなことをおっしゃっていたんですが、先生が彼を選んだということは、その人のスクリーニングがかかっているんですよね。そういう意味ではやっぱり日ごろの実績とか行いが評価されたからなんだと思うんですけれども、「そんなものでコトラーを始めました」みたいなことをおっしゃっていたので、結構みんなそうなのかなと思ってですね。

――世の中に何かを問いかけたり、クリエイトしていく方々というのは、みんな何かそういうきっかけがあるんですね。


平野敦士カール氏: 和田裕美さんとも仲がいいから話をするんですけれども、桃太郎の話を彼女がしていましたね。桃太郎の話って桃が川を流れてくるじゃないですか。それをおばあさんが拾うと中から桃太郎が出てくるわけですけれども、和田さんは「おばあさんが毎日川に洗濯に行く」というところが重要なのではないかとおっしゃっていたので、「なるほどな」と。やっぱり日ごろからアンテナを張っているからチャンスが来た時に逃さないのではないかという例えだと思うんですけれども、それがすごくいい話だなと思っていて。チャンスというのは突然来るというよりは、日々の何か頼まれた時にやって差し上げるとか、私の場合は日ごろランチをしたりとか本が出たらお送りしたりとか、この人とは一緒に仕事がしたいなと思った場合にはそういう何らかの形でのコンタクトを続けてきたということだと思いますね。

亡くなった母の遺稿を出版。その反響で「自分も本を書きたい」と思う


――本の方の話に戻させていただきますが、そもそも本を書くというきっかけの1つにお母さまのご本があったと伺っていますが。


平野敦士カール氏: そうですね。亡くなった母親が『帰国子女の母の軌跡』(近代文芸社)という本を出して、それは遺稿だったんですけれども、亡くなったあとに亡き父が出版したんです。それが各国の図書館にあるみたいで、この間シンガポールに行かれた方からも「手に入らないから電子書籍にしてもらいたい」ということをいわれたんですけれども、1960年代にアメリカに渡った女性というのはあまりいなかったんですね。「お母さまのご本を読みました」とご連絡をいただいたりしまして、「人に良い影響を与える本というのはすごいな」と思ったんですね。それで私も本を何か書きたいなと思ったんですよね。

これから起こる「デジタルコンバージェンス」


――ここで電子書籍についても伺いたいのですが、『パーソナル・プラットフォーム戦略』の中で、デジタルコンバージェンスというのが書籍の世界でも起きるのではないかと触れられていましたね。


平野敦士カール氏: AmazonなんかもいまKindle Fireとかいろいろと出してきていますし、皆さん一斉にプラットフォーム事業の会社が端末の方に来ています。デジタルコンバージェンスというのは、あらゆるものがデジタル化することによって産業が一度壊れる、conversionですよね。それで、新たに再生されるということなわけです。例えば、音楽業界は音楽というものがデジタル化して、全く関係ないAppleというパソコンメーカーが牛耳っちゃったわけですからね。で、CD屋さんとかが崩壊したということです。それと同じことがたぶん電子書籍に関しても起こる。物理的な本が欲しいということではなくて、本に書いてあることを読みたいと。最終的に根源的な価値というのは何かということを考えれば、電子書籍でもいいですし、電子書籍でなければならないものがもし提供できるのであれば、恐らく本という世界も変わってくるんだと思います。私も実際、Kindleで洋書は読んでいますし、やっぱり早いし安い。もちろん紙の良さというのもあって、大きい図がついていたり、グッズがついていたり、違いというのはたぶん出てくるとは思うんですけれども、最終的にユーザーにとって何が重要なのかというところにかかわると思うんですね。いわゆる情報だけということであればKindleでもいい。私もiPhoneでKindleアプリを使って読んでいます。

――いまは読み手としての電子書籍の可能性という形でご紹介いただきましたけれども、書き手としてもこういう電子書籍が普及することで変わってきそうですか?


平野敦士カール氏: そうですね。日本でもAmazonで書籍が出版できるサービスが出てきましたし、ブログに課金するというものも出てきましたし、そういう意味ではAmazonみたいな決済機能を持っているプラットフォームが本格的に入ってくると、一般の方が今後はアプリで出したりとか電子書籍を出して売れたら紙の本になっていくとか、逆の方向というのもたぶん出てくるのではないかなという気はします。

――第一段階としては電子書籍で、さらにそこからえりすぐられていくと。


平野敦士カール氏: そうですね、反応を見てですね。いわゆる「ダイレクトマーケティング」の世界だとまさにそういうことが起きていて、売れたら本当に作るみたいな話ってあるじゃないですか。売れる前に概要だけ出して、反応を見て良かったらそれを本当に作るという動きがありますから、そういうものも出てくるんじゃないかなと思いますね。あるいはみんなで作っていくとか、新しい書籍というもの、「書籍」と呼んでいいのかどうかわかりませんけれども、あるいはブログが本になっていくとか、メルマガが本になっていくとかですね。「OtoO」とかいいますけれども、オンライン・トゥー・オフラインとか、そういう動きも出てくるんじゃないかなと思います。電子書籍ならではの動画を見せたり、セミナーなんかももしかしたらそういった電子書籍内で始まるとかあり得ると思います。

――そうなるとたくさんの可能性がありますね。そこに大事なものというか、根底に流れるのはユーザーにとって重要かということですね。


平野敦士カール氏: 要は差別化できているか、付加価値を与えているかどうかだと思います。

自著も電子化、これからは世界のマーケットをにらむ


――先ほどKindleアプリでご利用されているということだったのですけれども、実際にお出しになっている本も電子Book化をされていますね。


平野敦士カール氏: 結構なっていますね。売れているのか売れていないのかよくわかりませんけれども、全世界で出した英語のやつは結構売れているみたいなんです。ただ価格を1ドルとか低くしちゃっているので、試験的にやっている感じです。でも、今後は世界に向けて発信するというのがすごく重要になってくると思います。私の本も韓国とか台湾で出ていて、韓国は特に売れていてベストセラーになっていますし、台湾でも売れているので、今後の自分自身は日本マーケットよりは海外マーケットをにらんだものが出せたらいいなと思う中で、電子書籍というのは非常に大きなオプションの1つだと思います。

教える世界でも、電子化は進み、学習は時と場所を選ばない



平野敦士カール氏: いまBBT大学というのはオンラインで授業をやっておりますので、生徒はiPhoneで授業を受けています。

――すごいですね、iPhoneで。


平野敦士カール氏: そうなんです、大前氏の授業もやっていて、私は結構車の中で聴いていたりするんです。スピードは2倍速まで速められます。だから私はよく早送りで聴いています。あんまり速いとわからないんですけれども。だから結局スマートフォンで24時間アクセスできる端末ですので、教育も変わりつつあると思うんですよね。私は早稲田MBAは土曜日のクラスをやっているんですけれども、やはり忙しい人ってなかなか学校に通うのは大変です。本当に皆さんクタクタになって頑張っていて頭が下がるんですけれども、別に時間とか別にそんなにこだわらなくてもいいんじゃないかなと思っていて。だから、教えるという立場から電子書籍や電子媒体の可能性というのはすごく大きいと思いますよ。

「いつか、絵本を出版したい」という夢


――最後の質問になりますが、文芸書もいつか出したいということもおっしゃっていましたけれども。


平野敦士カール氏: 文芸書というよりはビジュアルです。本当は絵本とかね。一番世の中に残りそうな感じですし、12月25日にまた新しいビジネスモデルの本『図解カール教授と学ぶビジネスモデル超入門』(ディスカヴァー21)が出るんですけれども、すごくわかりやすくて高校生なんかでもわかるみたいな、なるべく図を使ってわかりやすく書いた本なんです。内容的にはビジネススクールで教えている内容なので非常に高度なんですけれども、そういうなるべく難しいことをやさしくするというところのポジショニングを取りたいなと。経営戦略とかマーケティングとかいうと非常にハードルが高いので、ビジネススクールに行く人とか一部の人がターゲットになってしまう。

実際はパン屋さんも魚屋さんもそうですし、いろんなところでそういった戦略とかマーケティングというのは重要だと思うんですが、それをなるべくわかりやすく、もっというと高校生とか、中学生とか、もっというと幼稚園でもわかるみたいな本を書きたい。幼稚園で「マイケル・ポーター」とかいったら怖いんですけれども(笑)。でもいっていることってそんなに難しいことではなくて、研究者になるまでは大変ですけれども、例えばさっきの差別化、「ちょっと違う方がいいんだよ」とか、「それがすごく価値があるんだよ」とかいうことを伝えたい。いじめ問題もそうですけれど、みんなと違うといじめたりとか、ちょっと貧乏だったらいじめたりとかね。「違う方が本当は素晴らしいんだ」という、そういうメッセージが出せるような絵本ができたら、すごく社会的な価値や意義があるなという気がしますね。

――どこにでもそれは必要とされるものですものね。


平野敦士カール氏: そうです。プラットフォーム戦略®もそうですけれど、プラットフォーム戦略なんていわないでもよくて、例えばみんなとお友達になりましょうとか、いじめちゃいけないんだよとか、いいところを褒めなさいとか、そういうものというのは子どもでもわかる話ですから、やっぱりいま日本が直面しているこの何となく暗い雰囲気とか、ネットなんかも人の悪口を書いていたり、Tweetされたりとか悪い情報はすごく早く伝わる。でも、いいこととか人を褒めたりとかってしないじゃないですか。だからそういうものを含めて、将来今50なので60歳ぐらいまでにそういうようなものが、絵本でもいいですしビジュアル的なものができたらすごく面白いかなと思います。ただ、現状すぐにだと、やはり難しい。いま出版社さんからいま9冊ぐらい依頼を受けているので。毎年1冊か2冊書かないと、待ちくたびれましたみたいな感じだと思うんですけれども(笑)。やっぱり私の場合にはプラットフォームとか、経営戦略とかマーケティングとかそっちの方の話を、難しい話をなるべくやさしく説明する。あとは個人向けのアドバイス本みたいな本になるとは思います。

*プラットフォーム戦略®は㈱ネットストラテジーの登録商標です

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 平野敦士カール

この著者のタグ: 『海外』 『考え方』 『マーケティング』 『日本』 『金融』 『転職』 『文字』 『ご縁』 『携帯電話』 『プラットフォーム』 『ビジュアル』

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