井堀利宏

Profile

1952年岡山県生まれ、東京大学経済学部卒業。1981年、ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士課程修了(Ph.D.取得)。東京都立大学経済学部助教授、大阪大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授、同教授を経て、1997年、東京大学大学院経済研究科教授、現在に至る。主な著書に『「小さな政府」の落とし穴―痛みなき財政再建路線は危険だ』、『「歳出の無駄」の研究 』(共に日本経済新聞出版社)、『要説:日本の財政・税制』(税務経理協会)、『財政再建は先送りできない』(岩波書店)、ゼミナール公共経済学入門』(日本経済新聞社)などがある。

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電子書籍を使って、もっと一般に経済学の知識を広めたい



井堀利宏さんは岡山県倉敷市出身、1974年に東京大学経済学部経済学科を卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学研究科博士課程を修了され、その後大阪大学経済学部助教授を経て、東京大学大学院経済学研究科教授として教壇に立たれています。日経・経済図書文化賞・『現代日本財政論 財政問題の理論的研究』第22回 石橋湛山賞『財政赤字の正しい考え方 政府の借金はなぜ問題なのか』など、数々の受賞歴もお持ちの井堀さんに、日本の経済について、電子書籍と本とのかかわりについてお聞きしました。

大学ではやはり研究が第一、アカデミックな経済理論を深める毎日


――公共経済学における日本の第一人者として、ご活躍中ですが、井堀さんが最近どんなことをされているのか、ご紹介いただけますか?


井堀利宏氏: 大学にいる以上、研究活動が主ですよね。あとは講義と対外的な活動なんですけれど、特に本年度はサバティカルといって1年間研究期間だったので研究中心でした。月に1、2回くらい国際学会に出席して色々な論文を発表したり、それ以外でもここにいるときは自分の論文を書いたり、ほかの人の論文に色々なコメントをしたりという、そういう仕事が中心です。公共経済学の中でも私の分野はどちらかと言うと理論なんですよね。だから日本の今の財政政策に関心がないわけじゃないですけど、本当に狭い意味での専門で言うと、実際の財政運営、経済政策よりはもう少し抽象的で理論的なモデルで、公共経済学、あるいは財政学の基本的な研究を進めているという状況ですね。

――その世代間重複モデルもそうだと思うんですけれども、大きな目線で世界をとらえるといった感じなのでしょうか?


井堀利宏氏: それが理想なんですけどね。ただ学者の世界はそういう意味では厳しいと同時につまらないところがありまして。

――どのようなところが?


井堀利宏氏: 要するにアカデミックなジャーナルに論文を掲載するのが学者の最大の目的なんですね。そうすると、あんまり大きな話をしてもウケない。要するにほかの人よりもちょっと新しいことをモデルとして出したとか、あるいは何か数値計算で面白いことを出したとか、実証で何かやったとか、ほかの人の積み上げてきたものを少しずつ拡張していく、そういう仕事なんですね。そういう意味では、重箱の隅をつつく様なちょっとしたことで小さな論文を書いて、それを色々なジャーナルに載っけていくという作業です。それをある段階でまとめて本にして出すことはあるんですよ。

だけどそれはあくまでも追加として出てくるもので、最初から本を書きたいというわけじゃない。もちろん私も色々な本を書いていますけれど、それはアカデミックな業績として残すのはなかなか難しいですよね。そうするとあんまり広い、専門家以外の人が興味を持てる様な、役に立つ様なことっていうのはなかなか出て来ないんですね。

――こちらの研究室には、膨大な資料がありますね。




井堀利宏氏: これはね、東日本大震災でぐちゃぐちゃになっちゃったんですよ。ここはまだましな方で、隣の先生の部屋は本棚が見えないくらい本があった。それがもう3.11で全部倒れちゃってすごい状況だったんです。その後時間的な余裕がなくて放ってあるんですよね。古い本はもう少しちゃんと整理して、置くべきとこに返さなきゃいけないんですけど。

――冊数はどれくらいあるんですか?


井堀利宏氏: 東大の研究室の中では少ない方だと思いますね。半分しか本棚がない。大体皆さん両脇に本がある人が多いので。

学者の主な仕事はアカデミックなジャーナルに論文を掲載すること



井堀利宏氏: 学者の世界で、本は確かに重要なんですけど、研究の面ではね、やっぱり論文なんですよね。特に財政・公共経済学でも、いわゆる経済学の中のミクロ、マクロの応用としてやってる分野だと、アカデミックなジャーナルに論文を出すのが主なんですよ。そうするとやっぱり書籍にするのはどうしてもちょっと遅れますね。本に対するウェイトっていうのは、ほかの人が想像してるよりは、ちょっと小さくなりがちなんです。そこが残念と言えば残念なんですけどね。

――やはり本というものがどうしても一般の目に触れられる機会が多くなるので、そちらの方がウェイトが大きいのかと思っていました。


井堀利宏氏: だからジャーナルですよね。これは、われわれの分野の公共経済学で1番権威のあるジャーナルです。ただこれも今、ご存じの様に電子ジャーナルになってます。だから昔は雑誌のかたちで購読していたんだけれど、今はもうネット上ですね。とにかく大学っていうのは電子ジャーナルで全部アクセス出来る様になっているので、ハードで購読する必要がなくなってくるわけです。昔からあるジャーナルっていうのはハードコピーを出しているんですけど、最近の新しい電子ジャーナルになると、ウェブ上だけでハードコピーは出さないところも増えていますよね。そちらの方がもちろん速いので。要するにほかの人よりも、遅れて同じことをやったんじゃ業績にならないんですね。

――なるほど、そうなのですね。


井堀利宏氏: 要するに世界中で研究者は競争しているわけですね。だからわれわれの論文は、もう全て英語で国際的なジャーナルに出さないといけない。それから最近ジャーナルの前に、いわゆるディスカッションペーパーというのがありまして、それが最新の情報ですね。なぜかというとジャーナルはご存じの様に投稿するとレフェリーが見て、OKが出て、アクセプトされると掲載されるというシステムなんです。だから掲載されるまでに1年か2年くらいラグがあるんですね。理工系、医学系だと速いんですけど、われわれ経済学の分野っていうのは遅い。それが下手すると投稿してから公刊されるまで3、4年くらい掛かる。だから載っているのを読んでからじゃ遅いんです。

そうするとジャーナルに出る前の段階で、各研究者が色々な大学にディスカッションペーパーを出して載っけているケースが多いわけですね。うちの研究科もディスカッションペーパーを出しています。だからそういうのを見る方が早いわけですね。これは国際的にそういう状況ですよね。あるいはディスカッションペーパーになる前の段階で国際的な色々な小さな研究会とかカンファレンスで発表があると、皆すぐウェブ上に出てくる。昔に比べると相当研究スタイルが変わってきましたね。昔は本を読んだり、あるいはこういったジャーナルが出版されたものを読むという感じでしたから。

――そこが電子化だとか電子書籍というものに大きく変わっているんですね。


井堀利宏氏: そうですね。そうすると、当然そういうのは良いものもあれば悪いものもあってですね、玉石混合ですよね。その中でどれが自分の研究に効くのかっていうことを、見るのは大変です。ちょっと検索すると膨大な関連論文が出てくるので。そこをどういう具合に切り分けていくかが、情報が多い分だけ大変な時代になってきました。そういう意味では、ますます実際の仕事の面では、本を使ってどうのこうのっていうのは難しくなってきていますね。電子ジャーナルですらもうあんまり使えない。そういう流れなんでしょうがないですね。

著書一覧『 井堀利宏

この著者のタグ: 『大学教授』 『研究』 『経済学』 『選挙』 『ジャーナル』 『紫綬勲章』

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