鎌田浩毅

Profile

1955年、東京生まれ。東京大学理学部卒業。通産省(現・経済産業省)を経て97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は火山学・地球科学・科学コミュニケーション。テレビ・ラジオ・雑誌・書籍で科学を分かりやすく解説する。火山研究のほか啓発と教育に熱心な「科学の伝道師」。京大の講義は毎年数百人を集める人気。モットーは「面白くて役に立つ教授」。著書に『一生モノの勉強法』『座右の古典』(東洋経済新報社)、『ラクして成果が上がる理系的仕事術』(PHP新書)、『世界がわかる理系の名著』(文春新書)、『火山噴火』(岩波新書)、『マグマの地球科学』(中公新書)ほか多数がある。雑誌『プレジデント』の「新刊書評」コーナーで本の紹介をしています。
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人との出会い、本との出会いは自分の可能性を無限に広げてくれる。



鎌田浩毅さんは、京都大学で火山学の研究活動を行う傍ら、書籍やテレビ番組等さまざまなメディアで火山の噴火や地震等についてわかりやすく解説しています。また専門分野のほか、勉強法や時間管理、人脈等をテーマとしたビジネス書の著者としても人気を集めています。鎌田さんの多彩な知的生産の方法を探るべく、お仕事への想いや、執筆スタイル、また電子メディアの可能性等について伺いました。

一般向け書籍は徹底的に見直し、わかりやすくする


――鎌田さんはご専門の火山学に関する著作のほかにも、さまざまな分野の本がヒットしていますね。


鎌田浩毅氏: 僕の著作には火山とか地球とか、専門家としての本と、時間の戦略とか人脈などのビジネス分野の本があります。面白いのがここ10年ぐらい、ブログなんかで「鎌田浩毅って火山学者に同姓同名の人がいると思っていたけれど、裏の著者プロフィールを見たら同じ人だった」というコメントを見るんです。それはある意味とてもうれしいことですね。

――研究者として書かれる論文と一般向けの書籍では、書き方はどのように違いますか?


鎌田浩毅氏: 論文は英語で書くので、もちろん言葉が違うのですが、読むのが専門家だから互いにツーカーなんですよね。でも、一般向けの本は、地震とか火山とかを全く知らない人に理解してもらわないといけません。論理や組み立て方も、論文は三段論法で次々に進んでいきますが、一般向けの本ではあまり話を積み上げないで、たとえ話を出すなどの工夫が必要です。あと、最後まで読んでもらうためには面白くなきゃだめなので、エンターテインメントの要素が要りますね。

――一般の人に興味を持たせる文章を書くために、工夫されていることはありますか?


鎌田浩毅氏: 僕は書いてから、編集者に送る前に30回ぐらい直すんです。学生とか、専門家じゃない人に読んでもらって、わからないところを指摘してもらう。そうすると、僕らにとって当たり前な言葉が全然わからない、ということがある。「圧力」とか「密度」とか言うと、途端にわからなくなるので、それをていねいに説明しないといけない。例えば「圧力」だと、「ゴムまりを押さえる」とかの例を出すと、イメージがわくでしょう。特に新書は売れなきゃいけなくて、かなりハードルの高い出版物ですね。PHP新書の『火山はすごい』が僕の最初の本なんですけれど、書くために1年以上かかったんです。読者が最後まで読み切れるように、編集者の方もしっかり、じっくりと直してくださって、やっと出版されました。

テレビ出演で気づいた「アウトリーチ」の重要性


――一般の方々に向けて積極的に発信されようと思われたきっかけは、何かあったのでしょうか?


鎌田浩毅氏: 2000年に北海道の有珠山が噴火して、翌日に全国ネットのテレビニュースに出たんです。僕としてはわかりやすく説明したつもりなんですが、学生や事務員の方に「説明が難しくてわからなかった」と言われたんですね。具体的には「有珠山はもう大丈夫ですから安心してください」と言ったつもりなのに、話が難しいので、反対にこれからややこしいことになる、ととらえられてしまった。一般向けの説明になってなかったことでショックを受けたんです。

僕の専門は火山学ですが、火山の噴火では人が亡くなるわけです。1991年の雲仙普賢岳の噴火でも、火砕流で亡くなられた方がいますよね。それを防ぐという目的が僕の基礎研究の先にあるんです。でも、研究する人はいるけれど、それを一般に伝える人がいない。いい研究をしても、それが最後の出口で伝わらなかったら、社会貢献できない。その出口のところを「アウトリーチ」というんです。「啓発教育活動」と訳しますが、2001年くらいに、そのアウトリーチを頑張ってやっていこうと思ったのが本を書くようになった始まりです。本のほかにもテレビ・ラジオ、講演会、それから「出前授業」ということで、高校、中学、小学校で授業をする活動も始まりました。

――一般向けのアウトプットについて、最も苦労されたこと、努力されたのはどういったことでしょうか?


鎌田浩毅氏: 全く初めてなので、1からの勉強でした。例えば、文章は作家の名文を研究して、夏目漱石など昔の文豪がどういう風に人の心をつかむものを書いたか、というのを研究しました。名文を科学者の目でどこが上手なのかということを書いた本が、PHP文庫の『使える!作家の名文方程式』ですが、もともとは自分がわかりやすく書くために勉強した成果です。作家になる人は学生のころからそういう言葉の勉強をするんでしょうが、僕は45歳くらいから始めたわけですね。

また、しゃべることに関しては、自分の講義や講演を全部ビデオで撮って、学生と一緒に見ました。そうすると「先生、これはわかんないですよ」とか言われるんですね。ムッとするけれど、そこはグッと我慢する(笑)。学生とか、素人の人の言葉は、僕にとって金言なわけです。そのポイントは、自分を客観的に見ることです。文系の人に文章を読んでもらうのもそうだし、講演会も授業も、何にも知らない人の目で見てもらうと自分のアラが見えてくる。それで10年たって、幸い本も売れるようになったし、「京大人気教授」とか本のタイトルに称号もつけていただきました。あれはもともとNHKテレビが勝手につけたんですけどね。

火山の研究を始めたのは「偶然」からだった


――鎌田さんが火山学をライフワークにされたきっかけは、何だったのでしょうか?


鎌田浩毅氏: 大学を卒業して就職1年目に熊本県の阿蘇山に行って、初めて火山に触れたことです。そこで、日本離れした風景というか、大自然の雄大さにまずビックリしたんですね。その時、のちに僕の先生になる小野晃司さんという人が、岩石とか地層についてていねいに説明してくれて、それが見事に面白かったんです。本物に触れて、さらに教えるのがうまい先生がいると、絶対ハマるんですよ。

――大学を卒業されてから本格的な火山の勉強を始めたということですが、大学ではどのような学生でしたか?


鎌田浩毅氏: まず、大学時代は落ちこぼれ学生でした(笑)。サークルに4つも入っていて、友人と話すのが好きで友達をたくさん作っていました。東大理学部の地学科を出たのですが、あまり勉強に熱中しなかったんですね。それで地質学から足を洗ってさっさと就職しようと思って公務員試験を受けたんですが、結局研究所に配属されたんです。僕は普通の行政官になりたかったんですよ。日米貿易摩擦が一番盛んなころで、通産省でそういう分野の仕事をしたかったけれど、僕が受けた年はちょうど第2次石油ショックで採用が少なくて、研究所なら枠があるということで研究所に戻っちゃった。そのあと入所1年目に火山に出会って、急にやる気になったんです。人生はそういう「偶然」に満ちていて、与えられたものを楽しむことができる方が幸せだというのが、僕の人生観でもありますね。

著書一覧『 鎌田浩毅

この著者のタグ: 『大学教授』 『考え方』 『紙』 『研究』 『教育』 『本棚』 『メディア』 『情報』 『火山』 『地球』

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