人とつながり、人に生かされてきた
岩下宣子氏: 私は本当に下町生まれの下町育ちで、言葉も丁寧じゃない。でもたまたまそういうマナーの世界で、自分が楽しみながら仕事ができるようになりました。30歳から勉強を始めて40歳まで主婦で、40歳の時、会から離れた時に、そのカルチャーセンターに来てくださった方のお嬢さんが上智からM新聞社に入ったんです。お母さまがそのお嬢さんに「あなたが最初に書く記事は岩下の記事よ」って365日言い続けてくださったそうです。だから彼女は、いつか私の記事を1回は書かないと母親に対して申し訳ないって思って、書いてくれたんですよ。その新聞を見たN社の広報の課長さんが、私に電話をくださって「うちでやってくれません?」って誘ってくださった。私はキッコーマンでは新入社員研修をしていたんですよ。でもそれだって何回もしていないのです。「全国の総務部長を集めるから」っておっしゃってくださった。普通は断らなくちゃいけないんですよね、「私は男性のビジネスマナーはやったことありません」って。でもそこで「どうしようかな」って思った時に、「新渡戸稲造の心をビジネスの場で考えて私なりにお伝えすればいいのじゃないかしら」って思ってお受けしたんです。それが全国に広まったんですね。今、ビジネスマナーの世界でお仕事させていただいているのは、N社さんのおかげですし、記事を書いてくれた方のおかげですね。
――全てがつながっているんですね。
岩下宣子氏: 本当ですね、人によって生かされているし、人によって仕事をさせていただいていています。全く営業をしないで20何年間も仕事が続いているのは、ご縁のあった方のお陰です。
――日々の勉強を苦労と感じてらっしゃらないんでしょうか?
岩下宣子氏: 夫は、「すごく勉強している」と言ってくれましたね。でも自分では遊んでいる気分なんです。トインビーか何かが、仕事と遊びの境界を作らない生き方について書いた本があって、「トインビーと私、ここが似てるよね」って思いました。人に会うのが楽しいし、乗り物に乗るのがまた楽しいんです。皆、大変でしょうと言うんです、出張とかもありますし。明日は群馬であさっては神戸なんですけど、日帰りであちこち行くんですね。でもね、私、好きな乗り物は飛行機なんです。楽しいの。新幹線に乗っても楽しい、窓から見る景色も楽しいと思うし。だから疲れることってないんです。疲れないで多分死んじゃうと思います。コトンって死ねたらいいですね。
――全てにおいて楽しむことが大きなキーワードなんですね。
岩下宣子氏: そうですね。人に会うのもこうやって楽しいなって思うし。仕事も何かその積み重ねですね。だから「大変でしょ」って言ってくださるのですけど、エスカレーターやエレベーターを使わないで階段を上がるのも楽しいの。それも喜んじゃうんです。階段を上がっても生きてる喜びを感じてる私がいます。
マナーの心をわかりやすくたくさんの人に伝えたい
――最後に今後の展望をお伺いできますか?
岩下宣子氏: 今非常に世の中が変わってきてますよね。今、心の病になっている方も多い世の中で、どうしたら気持ち良くお互いに過ごすことができるかを、具体的な場面で伝えていきたいですね。心って見えない。だから「この時はこんな風にしたらいいのかも」ということをお伝えして、何か皆さんのお役に立つことができたらいいなと。温故知新の精神では、昔はこうだったんだけれど、それを今こんな風に提案したいということがあります。ただ古いものが全く悪いとかじゃなくて、良さもすごくあるので、それを踏まえた上での提案をマナーの仕事を通じてできていけたらいいなって思っていますね。あとは、これからは先人たちがやってきたことをちゃんとまとめる様な仕事もしていきたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 岩下宣子 』