中島義道

Profile

1946年福岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院哲学科修士課程修了。ウィーン大学にて哲学博士号取得。 14年間勤務した電気通信大学を2009年に辞職。現在は哲学塾主宰、学生から熟年までさまざまな職業の男女塾生と共に、カント、フッサール、ニーチェなどを丹念に読み進めている。近著に『ウィーン愛憎』(中央公論社)、『哲学の教科書』(講談社)、『孤独について』(文藝春秋)、『悪について』(岩波書店)、『カイン』、『働くことがイヤな人のための本』(共に新潮社)など多数。

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電子出版には興味ゼロ、飛行機の中とウィーンでしか読まない、『チボー家の人々』は3年越し


――今の時代、自分がもっている本を電子化して保存することができるようになりました。先生の著作物を電子化してとっておきたいという人はたくさんいらっしゃいますが、電子書籍についてはどんなふうにお考えですか?


中島義道氏: 私は、辞書でも何でも全部紙でちゃんと調べるほうが好きなので、電子書籍は、現実に見たこともないし、まったく知りません。この前、大手の出版社の方と話していたら、「今後は電子書籍がシェアが半分ぐらいまで行くだろう」とか言ってすごくポジティブな見解でした。端末はわりと高価なんでしょう?若者だけかと思ったら、中高年の人も買っているみたいですね。書き手としては、印税が少なくなるんだけれども、新しい読者を開拓できるかもしれないし、私としては、全然反対でもないし、どうだっていいんですよね。

――最近はどんな本をお読みになりますか?


中島義道氏: 最近はそんなに本を読まないから。この仕事場には文学は置いていなくて哲学関係の本だけなんですが、ウィーンの家にもここと同じで、全部合わせて約1万冊はあります。私は長いこと学生をやってその後ずっと教師だから、ずっと勉強漬けなわけですよ。だからかなり読んでいます。今の「哲学塾」でも、私1人でカントの『純粋理性批判』とニーチェとそのほかのものと、全部教えます。あんまり人の論文を読みたくないんです、つまらないから。電通大のいいところは、卒論とかドクター論文とか読まなくていいんですよ。私は自分の書いたモノを読むのは好きなんです(笑)。「なかなかいいこと書いてあるな」とか思いながら(笑)。もちろんひどいのもいっぱいありますけど、「ああ、書かなきゃよかった」というのはない。「書いておいてよかった」と思うわけですよ。

――普段の読書は、どんな感じですか?


中島義道氏: 私の頭はすごく面白い構造をしていて、前に読んだものをかなり覚えているんですよね。だから平行して15冊ぐらい一緒に読んじゃったりする(笑)。例えば、ニーチェとかカントですと1冊を読み込みますけど、『チボー家の人々』はもう3年ぐらい読んでいます。これを読むのは飛行機の中とウィーンと決めているわけですよ。『チボー家の人々』って5巻あるんですが、1年たって、また前回の続きから読み始めても平気。覚えているんです。記憶ということに関して言うと、本棚の配列も正確に覚えています。ウィーン留学時代に、鎌倉の親に「上の本箱の3段目の左から4番目のを取って送ってくれ」と頼んだりしていましたね。

安全な道の逆を行く、捨てると次に来るものがある


――著作も含めて、今後のお仕事はどうなりそうですか?


中島義道氏: 2月の中旬ぐらいに何か出ると思います。あとは文庫本を含めて今年は3~4冊は出るでしょうね。そうすると、あとは死ぬだけでしょう?ずっと5歳から自分が死ぬってことが大問題なんです。それでちょっと気がおかしくなるぐらいの少年でした。今でも哲学問題としてそれがある。だから葬式に行くと気がおかしくなったりするから、行かないようにしているんですよ。そのせいか、意外と私、人生でいろんなものをパーンと捨てることができるんです。法学部をやめたり、ウィーンに行ったり。例えば哲学をやる時も、法学部をあと2年我慢するという選択肢もあったけれど、私、我慢しない人間なんです。損なほうをとっちゃうんです、どちらかと言うと。普通の人は、そんなことをやったら危ないからと安全なほうを勧めるけど、私はだいたい逆のほうへ行く。それで築いてきた自分なりのマイナス実績があるから、何かあった時に、あんまり執着せずに全部捨てられる。ウィーンの借家もいらないし、今もし離婚したらこの仕事場に住めばいいし。何もいらないわけです。ちっちゃいころから考え続けている「死んでしまう」ってことに比べたら、生きていることに何の意味もないって思っていますね。

――それが中島義道的人生哲学ですか?


中島義道氏: 有名になるとか、何億もうけるとか、そういう願望は何にもないですね。ヨーロッパに旅行しても今日はマクドナルドだけって決めたりしてやっているわけですよ。高い料亭で接待されるのも好きじゃないんです。むしろ、安酒場での一人2000円くらいの飲み会が好きですね。教室でする飲み会のために、時々サミットの水曜日の冷凍品の半額をまとめて買いしたりしています。出版社の人とは、安い酒場で2人で5,000円くらいを割り勘にして飲むこともあります。私の信念として、おごってもらいたくないわけですよ。そうすると、彼らも私と飲むには身銭を切るしかない。「あなたは払うんですか?」って聞いてイエスならば、「じゃあ割り勘にしましょうね」って飲み方です。あるいは家に招待して時々おごったりして。絶対私にはお金とか贈り物をしちゃいけないって言ってあるんです。もらうのもイヤだから(笑)。人生なんてつまらないに決まっているんだから、なるべく自分の好き勝手なことをして、その時々で、結果として何かそれなりに人に伝えるものが出てくるという感じでしょうか。

うれしいのは、昔の「無用塾」の時の教え子がちょうど40歳ぐらいになっていて、みんなドクター論文書いたりしているのですが「哲学塾」で非常勤講師として協力してくれることです。おかしいですよね。「哲学塾」が結構うまくいっていることは、報われすぎですよね。私自身は名誉教授も拒否したし、賞も取らない、テレビも出ないと全部決めているんですね。自分自身が報われるのがイヤだからと思って。そうするとわりと報われることがあるんですけれどね(笑)。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『海外』 『哲学』 『考え方』 『生き方』 『働き方』 『作家』 『きっかけ』 『大学』

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