日本は福島の教訓から学べ
本間正人氏: わが国はですね、福島でだいぶ痛い目を見ているんだけど、まだ学習しない人がね、核武装しろとか言ってるしね。学習しようよと。もちろん学習したからって必ずうまくいく保証もないんだけれども、やっぱり学ばないことの大きなマイナスはかなり減らせるはずですよね。だからこれを放っとくと、今のままで行くと、次に原発事故っていうのは必ず起きる。それは日本ではないかもしれないけど、中国で起きたら黄砂に乗って放射能が飛んでくるわけですわ。こないだ甘利明さんっていうね、元の経産大臣で自民党の政調会長が、「日本の意志にかかわらず各国は原発を開発する。だから日本もやるべきだ」と。おかしいだろうって、このロジック。日本は1番痛い目を見てるんだから、脱原発っていうのを世界に先駆けて訴えて、原発を使わなくてもこういう社会が作れますっていうことを宣言し、その技術開発を新しい経済のフロンティアにする。これからアフリカなんて人口が増えてくわけです。アフリカ大陸に100個原発を作るのかって話ですよね。
大変失礼だけれども、日本ですら、1番耐震性や何かについても安全だと言われたところでも万全ではなかった。福島は東側が海なんですよ。東側が海の原発っていうのは、福島、東海、東通しかないわけで。後はみんな東側に人口が住んでるわけです。浜岡が1番多いけれども、福井にしたってね、玄海にしたって、もうみんな東側に人口があるわけです。泊にしても。日本の気候っていうのは西から東に風が吹いて、基本的に西から東に何かあった時に放射性物質っていうのが来るわけで。でもね、こないだようやく柏崎で少し大規模な避難訓練をやってたみたいだけれども、福島の後、数万人規模で避難訓練をやったっていう話を聞いてる? 全国の原発で避難訓練やった方が良いと思いません?もうあらゆるシミュレーションをやるべきだと思うのですよ。それをやってないのはおかしい。都合の悪いことは考えないでおこうなんだと思うんですけど。で、起こったら何か反応するっていうね、それは誠に学習能力が低いと僕は思いますよ。
今のシステムでは政治家にはなりたくない
――そういう意味では社会としての学習能力が大切ですね。そういったことを本間さんは、政治の立場からではなく、著作物だとか講演とかを通して世の中に伝えてると思いますが、政治家というポジションにつかないのは何か理由があるんでしょうか?。
本間正人氏: だっていまのシステムだとね、政治家は次の選挙のことを考えなければならない。あとポストが上がってかないと影響力を持ち得ない。それはやりたくないっていうか、僕自身の使い方としてはあんまり良くないだろうなっていう風に思っているんです。1981年の9月、入塾の面談の時に、松下幸之助さんが3次面接の面接官だったんです。僕は「政治家志望ではなく国際分野で仕事しようと思ってます」なんて言ってて、松下幸之助さんは黙って聞いてたわけですけれども、最後に、「君な、50年後、100年後のことを考えて頑張らなあかんで」と。言ってみればそれが僕と松下幸之助さんとの約束なんですね。目の前のことはとりあえず現役の政治家の方にお任せをする。でも霞が関も別に50年後100年後のことを考えてるわけではない。やっぱりどこの国の指導者も、必ずしも世界の全体のことについて視座を持って考えてるわけではないと思うと、そこがほかの人の誰もやってない僕のポジションかなっていう風に思っていますね。いま政治家をやってないっていうのは、向き不向きもあるし、お酒も飲めないしね。口幅ったいけれど、ほかの人がやってないことをやりたいって思ってますね。
長期のビジョンを加速させて形に
――そういった考えが著作物とか講演を通して少しずつ、世間に伝わってきてるんじゃないかなと思いますが、いかがですか?
本間正人氏: ただ本当は加速しないといけないなっていうのは思っているんです。去年の3月9日に父が震源地の近くの南三陸町で亡くなったんです。死亡確認が石巻の赤十字病院でした。11日がお通夜だったんですけどね。人生は終わらないという前提で「いつかそのうちまとめよう」なんて思っていても、心臓発作で亡くなったりして、ふっと終わっちゃうことがある。そうすると、いつかそのうちなんて言ってられないなって思いました。やっぱり長期ビジョンとか学習する地球社会なんていうのも、やっぱり形に早くしなきゃいけないなっていうのは思いますよね。勘三郎さんみたいにね、若くして亡くなっちゃう人がいる。勘三郎さん、あんまり僕と年が変わらないしね。彼は55年生まれ、僕は59年生まれで4つしか違わない。
――本当に何があるか分からないですね。
本間正人氏: そうですよ。健康でも、地震があるかもしれないし台風が来るかもしれないし。もういきなりトンネルが落ちるかもしれないし。
笑顔のコーチングで被災地を癒す
本間正人氏: 論理的なつながりはないんだけれども、3月11日に、ある意味悲しみを共有してるっていう個人的な思いがあって、「ハロードリーム岩手」という組織を作りました。岩手県内では笑顔のコーチング講座をいっぱいやってるんですよ。
普通の人は、感情が表情を作ると思っているわけです。うれしいから笑う、と思うじゃないですか。そっちも当然あるんだけど、笑うとうれしくなるんですよ。笑顔になるとうれしい気分になる。これはアメリカの心理学で有名な研究があって、鉛筆を横にくわえさせて漫画を読ませるグループと、縦にくわえさせて漫画を読ませるグループ。横にくわえさせると「これ、面白いね」って言うわけ。縦にくわえたグループは平均値を取ると「別に」って答えるわけ。つまり笑顔に近い方が同じ漫画を面白く感じられる。
――横に噛むと、笑顔になる時と同じ筋肉を使うんですね。
本間正人氏: この筋肉が横に開くと面白く感じられるっていう結果だったんですよね。だから表情が感情を作るっていう回路もあるわけですよ。被災地の状況を考えれば、まだ問題山積です。政府はがれきの処理に、余りにもエネルギーを注ぎ過ぎているんですね。雇用の創出とか、新しい地域づくり、人材育成などの方がよっぽど大事なんですよね。教育とかリーダー養成とか、そっちやった方が良いと、僕は本当に思うんです。色々な業者さんが、力を持ってるんで、がれきっていうのがあらゆることに優先してるんだけど。でもね、町の復興とか地域の復興とか、うつむいてて困ったな困ったな困ったなって言ってたらさ、元気が出ないじゃないですか。やっぱりどれだけ笑顔で「頑張ろう」っていう風にできるかっていうところだと思うんですよ。
岩手の政治家はお友達じゃないんだけれども、宮城県には村井知事がいる。彼は僕が採用した塾生なんですよ。
――そうなんですね。
本間正人氏: 宮城内陸地震の時も、彼はもともと自衛隊のヘリコプターパイロットだから対応が早かったんだけど、そこでまたシミュレーションをやってたから、3月11日の大震災の後も、幹線道路の確保のスピードが、福島、岩手の比じゃないんですよ、宮城の速さは。一朝有事あればっていう時に、もう東北から新潟からあらゆるところの自衛隊にネットワークがあって、ぶわっと入れる。だから村井君を政経塾に採用したことによって、間接的には僕は数百人の命を救ってるかもしれないとか思うと、ああ良かったとか思うんですよね。
電子書籍で道徳の教科書を作りたい
――それでは、最後に今後の展望を伺えますか?
本間正人氏: やっぱり電子書籍はリッチコンテンツになっていくと思いますよ。僕は道徳の教科書を作りたくてね。道徳なんて、やっぱり動画とかがなじむと思うのですよ。紙でね、二宮尊徳がこういう人でしたって書かれても、「何それ」じゃないですか。だから、いままでの学校教育が、黒板があって、紙の教科書を使ってっていう常識が、電子黒板よりも電子書籍、電子教科書によって大きく変ぼうするだろうと思っているんです。任天堂のDSはこんなちっちゃい機械で2000文字以上の漢字を識別して読むことができる。普通のiPadとかだとまだやっぱり認識能力が低いんだけれども、段々そっちの方向に僕は行くと思うんです。それがやっぱり知識を与える部分にどんどん展開していくと思う。電子教科書が、日本の教育、人材育成にすごく大きなインパクトを与えると思います。そしてそれは、音声とか動画とかが入るリッチコンテンツ化の、そしてインタラクティブな方向になっていくと思います。
――色々な観点ありますけど、教育っていう観点からも多いに可能性があるんですね。
本間正人氏: ものすごく大きいです。日本も教科書会社の利権があるのでなかなか動かないだけで。でもシンガポールは普通の小学校の児童がノートパッドPC持ってるわけですよ。
いまアジアの最先進国はシンガポールです。韓国もその方向に行くぞってもう宣言しましたね。日本も少しずつでもその方向で進んでいければいいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 本間正人 』