読んだ本を手元に残し、縁がなかった本を売る
――たくさん本を読まれている中で今でも心に残っている1冊や、手元にずっと置いておきたい1冊はございますか?
中川右介氏: 何千冊も置いておきたい(笑)。でも書庫にある本は、何年かに一度は整理しなきゃいけないので、古本屋さんを呼んで売っています。売る本というのは、買ったけれど読まなかった本なんですね。読んだ本というのは売らないんです。買ったけれども読まなかった本って縁がない本だから、それはいらないということで売りますね。「読んだ」本のほうが、もう用はないみたいだけど、読まなかった本は、いらない本だったということなんです。なら、最初から買わなければいいので、お金の使い方としては、バカとしかいいようがない。
電子書籍を作るなら、音楽が聞こえてくるような本を・・・
――膨大にある本をどうするかとなった時に電子化という手段もありますが、電子書籍というものに関して、中川さんご自身どんな風に考えていらっしゃいますか。
中川右介氏: まだ電子書籍を買ったことがなく、紙の本を読んでいます。著者として他社で出した本については、出版社が電子をやりたいという場合は「どうぞ」と言っていますが、アルファベータで出す本は電子化していませんね。僕はどんな形であれ、本を読んでいただければそれでいいので、電子出版も否定はしません。ただ、いまのところ、何万円も出して機械を買う気はないなあという感じ。
今、電子書籍のは、紙のと同じようにしようっていう方向性ですよね。レイアウトも含めてね。それはそれでいいんだけれども、それならやっぱり紙がいい。例えば僕の本を電子化するのであれば、「カラヤンがベートーベンの第九を演奏した」と書いてある時、どこかクリックするとその第九が聞こえてくるといいなと思うんです。そういう仕組みを作ってくれれば、また別の展開があるような気がしますね。
絵や美術について書いてある本であれば、ピッとその絵がでるようにリンクするとか。今でも自分で検索すればできるけど、それをもっと簡単にボタン1つでできるようにして、場合によっては音楽の場合は有料でもいいから付けるとかしてくれるといいですよね。それが割合手軽にできるようになれば、より便利で、まさに新しいメディアになるんじゃないかなとは思いますね。最初、電子書籍ってそういう風にいくのかなと思ってたんですよね。紙ではできない、別の何かを考えた方が面白いんじゃないかなと思うんですよね。本をただスキャンしたりとか、本と同じレイアウトのPDFっていうんじゃねえ。だって、あれだけ色んなことができる機械なわけじゃないですか。
そういえば思い出しましたが、「電子出版」という言葉を最初に使ったのは、父なんです。1980年代初めに、科学技術の専門用語辞典をコンピュータで編集して、作ったときにそう呼んだ。当時は、いまならエクセルでできるようなことが大型コンピュータでなければできなくて、具体的には、英単語とその対応する日本語を入力して、英和辞典なら、アルファベット順に、和英ならあいうえお順に並び替えるという、非常に単純なことをしてもらうのに何千万円もかかった。さらに、当時は電算写植っていうのが始まったばかりで、それも1ページあたり何千円で、いまの何十倍ものコストがかかったんだけど、それでも、それまでの単語カードを作って、活字を組んで、というやり方からすると、革命的でした。僕も途中からその仕事には関わりました。それで、本を作るだけでなく、その用語データそのものも売ったんです。その後、CD-ROMの辞典が出てきて、それにも搭載されました。だから、電子出版の黎明期をよく知っているんだけど、とにかく先行投資がすごくて、エクセルでできることをしてもらう専門のソフトを作ってもらうのに数千万円かかるわけだから、それで何億もの負債ができたわけです。僕が作った写真集も赤字だったけど、それだけではなくて。
なんていう「イタイ」経験があるので、電子出版にはいまひとつ、事業として乗り切れない。だから、アイデアはあるけど、言ってるだけ。誰かがやってくれるなら、コンテンツは提供しますよ。
――新しい形態で展開していくと面白そうですね。
中川右介氏: 電子出版の思いつき企画としては、何十年も前の絶版になった本や、出版社も倒産してどこにあるか分からないような本は、どんどん電子化していった方が、かえっていいような気がします。
自分が知りたいことをとことん追求する
――最後に中川さんの今後の展望を伺えますか?
中川右介氏: 今までどおり、考えないで行き当たりばったりですね(笑)。だから、来月になったら、「これからは電子書籍だ」と言っているかもしれない。だいたい、計画したって計画通りいかないんだから。たとえば、著者に何月までに書いてくれと頼み、約束してもらっても、そのとおりに原稿が来ないという、そういうレベルでも、計画を立てても、その通りにいかない。まして、出した本が計画通りに売れるがなんて、まったく分からない。自分で書く本にしても、300枚でおさまるつもりが、500枚買いても終わらないで迷惑かけたりとか。ほんとに綱渡りですよ、常に。
こう言うと、何か、高慢というか、思い上がっているかもしれないけれども、結局は自分が知りたいと思っていることを調べて、まとめて、本にしているだけなんです。アルファベータで出す本も、自分が読みたいものを出している。だから「これが売れるだろうと」思ってやっているわけではない。そういう風にマーケットを見ているわけじゃないし、見たってしょうがないだろうって思ってるんですね。
出版は文化かどうか分からないけれど、娯楽は娯楽なんですよね。だから、考えて決めるんじゃなくて、行き当たりばったりでこれからもやっていきたいなって思っています。問題は、それがいつまで続けられるかですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
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