情報は消費するためにあるのではなく、価値を創るためにある
経営コンサルタントの高橋政史さんは、複雑な情報、難解な理論も1枚の紙にまとめるという独自の思考術を提唱し、多くの企業でノウハウが採用されています。2011年には、思考整理のスペシャリストを養成する「1枚の学校」を開講するなど教育分野にも活躍の場を広げています。高橋さんの思考法からは、新しいメディアが次々に生まれ、とかく情報過多ともいわれる現代を生きる「知恵」が見えてきます。
現代病「知識メタボ」を防ぐために奔走
――早速ですが、高橋さんのお仕事内容を伺えますか?
高橋政史氏: 今は、本を書く時間を結構割いています。それと企業に対して、「とにかく紙1枚にまとめる」という研修をさせていただいて、あとは「1枚の学校」の3本建てでやっていますね。
――シンプルな思考法を一貫して提唱されていますが、本の執筆とセミナー等では狙いや表現方法に違いはありますか?
高橋政史氏: 書籍だとこれも必要かな、あれも必要かなと思って色々書きますが、セミナーは勉強しに来てもらっているつもりはないんです。全てメモを取るような感じではなくて、終わった時に、今まで難しく考えていたことが、頑張らなくていいとわかって、肩の荷が下りるという感覚を手に入れていただければいいと思っています。一番大事なことが何かということを、ご自身に合わせて受け取ってほしいというのがありますね。よくあるケースですと、セミナーに来られた方が、自己啓発の本を次の日に300冊ぐらい捨てたとかいうことを聞きます。
――大切ではないものが大量にたまっていることがわかったということでしょうか?
高橋政史氏: 私はそれを「知識メタボ」って呼んでいるんです。私が一貫してお伝えしているのは、膨大な情報や知識がある中で、もう足し算はやめようということなんです。足し算をするにしても、体力をつけて、きっちり全部血肉にできるようなやり方をしないと、頭の中が外側の情報と知識で一杯になって、自分がいつの間にか消えちゃうということがあるわけです。
小学校のころから、ノート1ページにまとめはじめた
――高橋さんの代名詞となった「紙一枚」にまとめる思考術ですが、学生時代から実践されていると伺いました。
高橋政史氏: 小学校の時は体育しかできない子どもで、全然勉強ができなかったんですが、中学1年生の時にたまたま塾の先生が、あまりにも勉強できないので要点をまとめてくれたんです。そうすると、教科書を読んでもわからないものがわかる。それが勉強をやってみようと思うきっかけで、それ以降も、ノート1ページにまとめるということを大事にしながらやっていました。
――大学院生時代には、1日1冊読んで、紙1枚にまとめるということも始めたそうですね。
高橋政史氏: 本を読んでも読んだきりだとアウトプットに直結しないので、とりあえず1枚にまとめると、本を自分にどうやって生かすかという視点が出てくるんですね。ただ、私は22歳まで本は全然読まなかったんです。たまたま私の恩師である大学院の担当教授から1日1冊、読めというお達しがあって、それが読みはじめたきっかけです。
――22歳まで本を読まなかったというのは、速読術の本も書かれている今の高橋さんからは意外です。子どものころに読んでいた本もありませんでしたか。
高橋政史氏: 教科書くらいですね。あとは小学校の時に、読書感想文を毎年出さなくちゃならないので、野口英世の伝記を毎年読んでいました。去年の先生と今年の先生が違う先生で、結局提出すればいいので、野口英世だったら去年も読んだし今年も読んだし、また来年も大丈夫。当時は本を読むっていうことに全く価値を置いていない人間でしたね。
「世の中を動かすものを見たい」と半導体業界へ
――大学院卒業後に、まずメーカーに就職されたそうですね。
高橋政史氏: 半導体の製造装置のメーカーに入ったんです。そのあとベンチャーに転職して、香港に行って、それで日本に戻ってきてコンサルティングという流れです。
――なぜ半導体関連の会社に進もうと思われたんですか?
高橋政史氏: 世の中を見たいという好奇心がベースにありましたね。私はサラリーマンだけはなれないと大学の時に思っていて、後々は何か自分でしたいというのがあったんです。それで大学院で、就職する時に考えたことが、「世の中を動かすものを見てみたい」ということでした。10年20年先を見ることができるところがどこかと考えて、行き着いたのがハードかソフトかっていう視点だったんですね。物事はハードかソフトで動いている。世の中からそれを取り除いたら世の中で消滅するものは何だろうって考えると、ソフトだと教育。ハードだと半導体を除いたら世の中は動かなくなると思いました。そこで教育と半導体の両方を考えたわけですけれども、教育は年を取ってもできるだろう、でも半導体は今を見た方がいいだろうということで、半導体メーカーを見に行ったんですけど、あんまり面白くないわけですね。技術というものは確かにあったんですけれども、結局大きなラインで量産をしていく。
もっと特殊なところはないかなと探していったら、半導体製造装置という業界があって、しかもこれは日本にしかない業界だったんですね。日本のいわゆる町工場の技術が結集されないとできない。日本独特で、かつ日本が今後も下支えしていく半導体製造装置を見ると、半導体の数年後が見えると思ったんです。
――サラリーマンにはならないと思われたのはなぜでしょう?
高橋政史氏: 自分の好奇心を満たしてくれるものが何かと考えて、サラリーマンで決まった仕事をするというよりも、何か新しいものを自分で作っていく方がいいと思っていたんですね。決まった生活を毎日やるより変化があった方がいいなと。あと時代との接点がほしかったんですよね。これから時代が変わるだろう、かつ自分の興味も変わるだろうという予感があったんです。結局、人は時代の中でしか生きていないんですね。就職した時も時代の中でたまたま自分が興味を持てて、何かできそうなことがあるかという視点で見ていっただけですからね。
著書一覧『 高橋政史 』