「普遍的な知恵」が求められる時代になっている
――作家としてもご活躍ですが、執筆される際に最も伝えたいことは何でしょうか?
高橋政史氏: 大事にしたいのはシンプルかつ簡単にというところですね。今の時代って複雑にどんどんなっているので、もっと簡単でシンプルなやり方があるんじゃないのということを提案しています。でも執筆時はむしろ混乱しています。執筆はいつもシンプルにいかないですね。要するに混沌の中から何か本質が出る。混乱のふちに立って、「どうしよう」っていう中で本質を見つけてくるみたいな感じで、原稿はとてつもない膨大な量を削ってというタイプですね。
――作家として、また読者としてでも結構ですが、最近の本、出版業界についてどのようにご覧になっていますか?
高橋政史氏: やっぱり古典の回帰がありますね。昔のようにハウツーがたくさんというものでもなくなってきて、昨年ぐらいから書籍もすごく歯ごたえのある本物の本が売れてきていますし、いい本で長く読める本というものが求められていますね。時代の流れが速ければ速いほど自分の軸を持てるかどうかというのが鍵になると思うので、普遍的な知恵というものが必要とされているのかなと思います。本が本来持つ力に皆さんの意識が向かわれているのかなと、私自身も一読者としてそう感じています。
―― 高橋さんは古典的な本はどのようなものを読まれますか?
高橋政史氏: 本当にありきたりですが、ドラッガーとか、エーリッヒ・フロムとか。英語でもともと書かれたというのもあって、メッセージが明確ですし、感情、魂みたいなものもしっかり乗っていますよね。
――良い本から得たものが仕事に生かされていると感じられることはありますか?
高橋政史氏: 読んだことによって何かは影響しているんでしょうけど、ハウツー本のように直接的にすぐ読んだから、というのはないのもまた古典の良さで、体に染み込むものだと思います。
本当に必要な情報をシンプルに身に付けよ
――出版業界の大きなトピックとして、電子書籍の登場がありますが、電子書籍の可能性についてどのようにお考えでしょうか?
高橋政史氏: 私自身は電子書籍をあんまり見ていないですけれども、膨大に量があればあるほど電子書籍は分があるかなというところですね。電子書籍は使い方によっていかようにもなると感じます。あとは映像的なものに関しては電子書籍の方が分があるので、どう人の認知とか学習に影響を与えるかという、その領域だと思うんですよね。さらには書籍の場合ですと読み手の想像力によって色んなものを頭の中に思い描いていくかと思うんですけれども、電子書籍でいくと読み手の中で想像力が足りなくても補ってくれる。ですから、書籍にとっつけない方が階段の一つとして電子書籍から入られるというのは一つあるかなと思います。
――高橋さんのご著書に関して、電子書籍になることを前提に特別な本作りをするお考えはありますか?
高橋政史氏: 今のところないというのが正直なところです。基本的には紙の書籍として何か書いていて、それが電子化されるというのが今のところのスタンスというところです。まだ私の中でもちょっとわからないので、何かある程度ユーザーの方が電子書籍ってこういうものだっていうものがきっちり認識されて心の中で根付いた時に、何かそこに出してあげたいなというのはあります。もし私がお役に立てるところがあるのであれば、というところですね。
――最後に、今後取り組みたいこと、展望をお聞かせください。
高橋政史氏: 情報が増えてくるほど複雑になって、複雑になることで皆さんからエネルギーがなくなっていっています。結局、自分で何かをつくり出す前に人のものを消費してばかりいる。物も消費し尽くして、さらに知識、情報まで消費し尽くしてしまう。でも、私たちは消費をするために生きているわけではなくて、何かをつくるために生きているんですね。本当に必要なものを、特に20代位に身に付けて、あとは身一つで勝負しようということを伝えたいですね。複雑からシンプルへという武器を持つために、あるタイミングで私から手渡せるものは手渡していきたいなということを考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高橋政史 』