処女作『ザ・ロスチャイルド』を皮切りに、魅力的な男たちを描く
渋井真帆さんは1994年立教大学経済学部経済学科卒業後、都市銀行、百貨店販売、証券会社勤務を経て2000年、28歳のときに独立起業、現在は株式会社エムエス研修企画取締役として、人材教育、販売コンサルティングの傍ら、ビジネス書作家としても著名で、『ビジネス思考力入門講座』 『何をやってもダメだった私が、教わったこと。気づいたこと。実行したこと。』 『仕事心の育て方』など著書も多数書かれています。小説など新しいジャンルにも挑戦されている渋井さんに、本とのかかわり方、電子書籍についてのお考えなどを伺いました。
第4回城山三郎経済小説大賞受賞、小説家への転向も視野に
――ここ最近、色々な新しいチャレンジをされているようですね。
渋井真帆氏: そうですね。2年ほど前から小説を書き始めて、おかげさまで『ザ・ロスチャイルド』が第4回城山三郎経済小説大賞をいただきました。これからは小説の執筆を、今までの仕事と並行しながら相乗効果をもたせてやっていきたいなと思っています。今日、自分の日程表を確認してみたのですが、大きく4つの仕事に日々が分かれています。経営者向け講演会、企業の中堅マネージャークラスのビジネス研修、女性活用を図る会社のアドバイザー、最後が『ザ・ロスチャイルド』の原稿の仕上げ、さらに平行して次回作の取材も始めました。
――では表現活動のほうにシフトしながらも、今までの活動も続けられているんですね。
渋井真帆氏: 『ザ・ロスチャイルド』の受賞にあたって、作品のリアリティーを大いに評価していただいたと聞いています。おそらく、自分自身がビジネスの世界を肌で感じられる場所にいるということが、創作活動に非常に役に立っているのだと思います。
――そもそも小説をお書きになろうとしたきっかけはなんだったのでしょうか?
渋井真帆氏: 振り返ってみたら物語を作るのが大好きだったんですよ。子どものころから変わり者で、小学校の時に一番好きだったのが、学校の裏庭で1人、ダンゴムシを掘ることだったんです。ダンゴムシにはそれぞれ特徴があって、1匹たりとも同じ個体はない。1匹1匹に名前を付けて、集めた虫をじっと観察しながら、自分の中でドラマを作っていました。当然周りから見たら変な子ですよね。親にも「校庭で皆と遊びなさい」と言われてしまって。小学1年生にして「やっぱり人間は、自分の好きなことだけをやっていちゃいけないんだな」と悟りました。それで「じゃあ、自由な時間のせめて何%かは人と交わることにするか」と幼いなりに考えたんです。
――すごいですね(笑)
渋井真帆氏: 仕方がないから、次は紙の着せ替え人形で遊ぶことにして、その着せ替え人形で自分のドラマを作るようになりました。今にして思うと、自分にとっておままごとや着せ替え人形は、他者とのコミュニケーション手段ではなく、物語を紡ぐ表現手段だったんですね。でも、小学校3、4年生になっても部屋で独り着せ替え人形をして遊んでいると、また親が心配するんですよ。子供なりに社会生活的な義務だと考えて、とりあえず友達とも外で遊ぶようにしました。
――そんなことを冷静に考えてらっしゃるわけですよね。
渋井真帆氏: 子どもの頃から老成していたんですね(笑)。着せ替え遊びからの卒業を決意したころに、小学校の課外クラブ活動に「影絵クラブ」が新しくできたんです。「これだ!」と思って、胸をときめかせながら申込名簿に氏名を書き込みました。小学校4年生のときです。めでたくクラブに入って、何を上演するかという話になった時に、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』にしたいって主張したんです。もちろん当時はシェイクスピアが誰かすら分かっていません。何となく気に入ってしまったんです。けれど大人でも難解な作品ですから、先生は困ってしまって別のものをすすめるのに、頑としてゆずらない。クラブの仲間も勢いに押されて賛成してしまう。問題児ですよね(笑)。それからハサミやカッターでちょきちょきと、影絵を一所懸命に作ったわけです、妖精パックとか。発表会で15分の上演時間をもらったのですが、みんな爆睡でした(笑)。
――そのころから、発信者としての素質はあったんですね。
夫のすすめで、小説を書き始めた
渋井真帆氏: マイペースに自分がやりたいことをやるタイプだと思います(笑)。独立起業もいきなりでした。そもそも小説を書くきっかけというのが、主人の「君、小説を書いたら」という一言なんです。うちは結婚18年になるんですが、いつも食卓で歴史の話や史上の人物のことを、私が一方的に主人に話すんです。「こういう時代背景であれば、定説としてはこうだけど、この要素を入れたらこうなるだろう」とか(笑)。そういうことが楽しくて、ずっとしゃべっているんです。ある日、夫が「いっそのこと小説を書いてみたら・・・」と言ったんです。たぶん辟易していたのだろうと思います。
だけど「それも面白そう」だと試しに書いてみたら、書けるんです。「あれ?」という感じで。十枚くらい原稿を書いて「どう思う?」って聞いたら、「ああ、君って男の気持ちは分かるんだね」としみじみ言われたんです。自分の仕事の軌跡をふりかえると、ずっと男性を見ている立場だった。そのせいか自分自身をふくめて女性の気持ちにたいする興味があまり無いみたいです(笑)。だから私には女性の心をつづった恋愛小説は書けないし、今のところ書きたいという気も起きない。やはり歴史や政治小説などが自分が萌えるジャンルなんだろうな、とその時に発見しました。
――本当に楽しんでやってらっしゃるんですね。
渋井真帆氏: はい、楽しいです。興味の方向がそちらに向いているんです。自分の中では小説=人間模様だと思っている。人間模様に欲望はつきものですが、自分は経済的欲望とか政治的欲望というものに、とても関心、興味があるんです。これらの欲望模様をリアリティーを持って描ける人って実はそれほど多くはないから、そこに自分の個性を生かせるかなと。今回の『ザ・ロスチャイルド』では、偉大な男たちにも偉大になる前があって、そこから彼らがどうやって這い上がっていったのかというドラマを描きました。物語の中のナポレオン・ボナパルトや金融ロスチャイルド一家、そのほか世界史でもおなじみの面々の生き方や欲望、栄光と転落に、たくさんの男性がおそらく共感してくれると思います。
著書一覧『 渋井真帆 』