連れ合いとは今でもラブクレイジー
――本との出会いもさることながら、喜国さんの場合は、漫画家である奥さまとの仲の良さも有名ですが、お二人のなれそめについてもお話しいただけますか?
喜国雅彦氏: 僕が昔、竹書房でマージャン漫画を書いていたころ、そこが開いたパーティーに行ったら、彼女(国樹由香さん)が別の人に連れられて来てたんです。
国樹由香さん:当時私はカット書きのバイトをしていて、編集さんに誘われて行ったパーティーだったんです。会場真ん中の柱の横に、宇宙一つまらなそうな顔をして立っていたのが喜国さんでした。私はファンだったので、「大ファンです。いつも楽しく読んでいます」と言ったら、そっぽを向いたまま、「ああ」って、それだけ。あまりの感じ悪さに腹が立ち、漫画家アシスタントの友人に電話でその話をしたら、その子も彼女の先生も、なんと喜国さんと知り合いで。「そんな人じゃないよ。おかしいな。確認してみる」と。それで判ったんですが、「生まれてはじめて女の子にファンだって言われたから緊張して、そっちを向けなかった」ということらしく。もちろん信じられず、調子のいいことを言ってと思いました。
喜国雅彦氏: いいえ本当です。しゃべれなくてドキドキしてたんです。
国樹由香さん:あとで「あの時声をかけてきた女の子はロックが好きそうだし、気が合いそうだ。今、アシスタントを探しているから来てほしい」と友人経由で電話番号が回ってきたのですが、1か月間無視していたんです。そうしたら友人が「自分も手伝いに行ったことがあるけど、すごくいい人で紳士だから、安心して行っていいよ」と言うのでやっとその気に。そうしたら本当に優しくて、初対面の悪印象がいっぺんで消えてしまいました。部屋もきれいで仕事は楽で、おいしいものも食べさせてくれて。次の仕事依頼が来るといいなぁと思っていたら、電話が来て、「次回もお願いしたいです」って言ってまた黙ってしまうので、「あれ? また感じ悪いモード?」って思ったら、「仕事じゃなくて、結婚してもらえませんか?」って言われたんです、2度目にして。
――なんとお答えになりました?
国樹由香さん:「彼氏がいます」って言ったんです。そうしたら「待つ」と言って、本当に4年間待ってくれたんです。その間も彼氏のことで相談に乗ってくれて、最後は必ず「俺のほうがいいのに」って言っていたんです。4年後に彼氏と別れたあと、1年間つき合って1991年に結婚しました。
喜国雅彦氏: 漫画と一緒ですよ。基本、あきらめないんです。
――それから22年後の今は、どうですか?
国樹由香さん:本当に結婚してよかったとしか言えないです。何の不満もないです。出会って26年ですけれど、26年前より優しいんですよ。
喜国雅彦氏: みうらじゅんさんに「ラブクレイジー」と言われています。それくらい仲がいいので。
国樹由香さん:毎日一緒で仕事も一緒。みんなにはびっくりされるけど、顔を見ていないとイヤだから、同じ仕事部屋なんです。
喜国雅彦氏: 小説家なら無理だと思うんですよ。一人でやる作業だから。でも漫画はネタを考えている時は一人ですけど、実際の作業はテレビを見ながらでもしゃべりながらでもできるから、仕事場が一緒でも問題ないんです。
――それでは、最後に今後の展望をお伺いできますか?
喜国雅彦氏: 長期的なことは考えていないんです。いつも今年のことしか考えていない。僕の人生、自分で道を見つけるより、誰かが「こっち」だと言ってくれる方が正しいようですし。5月から新装刊の雑誌で新連載が始まります。久しぶりのエッチものです。気がついたら、この数年そういうの描いてなかったので、気合いが入ってます。マラソンの本は『キクニの旅ラン』というタイトルで出ているんですけど、目標だった全県制覇がまだなので、どこかで続きが描けたらいいなと思っています。23年かかった『ROCKOMANGA¡』の単行本化の作業が終わり、これから4冊めの『本棚探偵』の作業に入ります。うーん、見事に傾向がバラバラですね。でもこれが、今の喜国です。
(聞き手:沖中幸太郎)
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