西條剛央

Profile

1974年、宮城県生まれ。早稲田大学大学院(MBA)専任講師(専門は、心理学と哲学)。日本の心理学者、哲学者である。2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震では親戚を失う。「構造構成主義」の理論を用い、ボランティア未経験ながら日本最大級のボランティア・プロジェクト「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げる。「物資支援プロジェクト」では、2012年1月時点で3000か所以上の避難所、仮設住宅等に、15万5000 品目に及ぶ物資を支援。ほか、自立支援を目的とした「重機免許取得プロジェクト」「手の職・布ぞうりプロジェクト」など数十の支援プロジェクトを始動し、継続中。著書に『構造構成主義とは何か』や『人を助けるすんごい仕組み』など多数。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

本を読むことで多様な観点を持つことができる


――人生を変える転機になった本や、影響を受けた本を挙げるとするとなんでしょう?


西條剛央氏: 僕の専門の構造構成主義という理論の中核の1つとなった科学論を作った池田清彦先生の『構造主義科学論の冒険』(講談社学術文庫)という本からは大きな影響を受けました。今は池田先生は早大の国際教養学部の教授で、同じ校舎で教えてますけど、当時池田先生は山梨大の教授で、僕は大学院生だったのですが池田先生がそもそも生きてる人なのかどうかも分からないで読みました。この本は思想的な難問、アポリアっていわれてるものを科学論レベルで解き明かしていました。誰も解くことができなかった問題を1人解いてたみたいな感じですね。これは今でも科学論の、世界の中でもダントツに本質をとらえてるというか、1番進んでるし、原理的だと思ってます。哲学だとやっぱりフッサールの『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』(中公文庫)。あるいは竹田青嗣先生の『現象学は思考の原理である』(ちくま新書)など、構造構成主義に色々影響を与えていただいた本はありますね。

博士課程に入って構造構成主義みたいなのを作り始めたときに、科学とは何かみたいな難問に答える理論が必要になったので、色んな本を精査して、これは使えない、これはダメだなと厳しく吟味していく中で、池田先生の本は原理的でこれは普遍性がある考えだなと思わざるを得なかったんです。

――西條さんにとって本を読むことの意義、読書についてのお考えをお聞かせください。


西條剛央氏: ふつうは本を書く人ってそんなに身近にいないですよね。哲学者もそうですけど、天才っていわれる様な人の考えを知って、ある意味で対話できるチャンスですから、本を読むのはものすごい重要なことです。だから本を読む習慣はつけた方が良いと思いますね。テレビとかだと、スポンサーがいたりして、やっぱり偏ってるんですよね。地球温暖化みたいなキャンペーン張ってるときでも、本だと「そんなのウソだよ」みたいなのを、大學の先生たちがいっぱい書いていましたから、そういう考えに触れていれば、また違う観点から物事を見られます。読む力をつけることが重要ですので、日本が識字率を上げる教育を徹底したのは賢い方法だったと思います。



――読む力といえば、速読など「読書法」の本も多いですが、西條さんの読書の流儀や、本を読まれるときの心がけなどはありますか?


西條剛央氏: 読書の目的によると思いますね。小説とか、何となく読んでもいいものもあれば、これ本当かなとか、いやもっと良い考えがあるんじゃないかみたいに吟味しながら読んだ方が良いこともあります。専門の本を読むときは、まず自分なりに考えて答えをある程度出した上で読んで、ここは使えるとか、これだったら構造構成主義の方がいけるとか、吟味しながら読みます。本の著者が考えることと自分の考えを比べて、自分の答えはほかの人たちと比べてどうなのか差異化して、自分の考えでうまく行くのか行かないのか考え尽くす。それが研究者としてはある程度やらなきゃいけないことです。読む観点が決まった上で読むので、そんなに時間も掛からないですしね。僕は本を読むよりも自分で考えちゃった方が早いやって思っちゃうところもあって、調べるのはむしろ最後にやります。

ちなみに僕は辞書とかも殆ど引かないんです。本を書くときに間違えるとよくないというときに一応確認するということはしますが、今年になってから一度も引いたことがないかもしれない。分かんないなと思っても、黙ってれば分かんないってことが周りの人には分からないです(笑)。辞書は、知ってる人が読むと便利なんですけど、理解するのには向いてないんです。MBAで教え始めた頃には、ビジネス用語とかわからないものが多かったですが、やり取りを聞いてると、どうもこんな意味らしいみたいなのが文脈の中で分かってくるんです。結局言葉は文脈の中で位置付けられてくるものなので、その文脈の中で獲得していくのが本道だと思うんですよね。動いている言葉を無理やり虫ピンに止めて標本化したようなものが辞書ですからね。そもそも一度きりしか出てこない言葉は覚えなくていいということですし(笑)、何度も出てくる場合には文脈の中でなんとなくわかるようになりますし、わからなかったら気になりますから、そのときは「それってどういう意味ですか?」と聞けばいい。とはいえ、言語を短期間で学習しなければならないときや、専門の研究をする際には本は活用しないわけにはいかないので、状況と目的によりますね。

「学びて思わざれば則ち罔し。思いて学ばざれば則ち殆し」という言葉があります。要するに、考えてばっかりいても偏ったりするんで危険なところがあるんだけど、読んでばっかりいて考えなければ意味がない。浅い考えの人が読むとその枠でしか読めないので、浅い解釈にしかならない。やっぱり同じものを読んでも、洞察力を持ってる人じゃないと価値をそもそも見いだせない、あるいは1番良いエッセンスを落としてしまうということもあると思います。しかし自分で考えているだけでは独りよがりになってしまう。だから自分で感じたり考えたりすることと、本などを通して学ぶことのバランスが大事だと思います。

著書一覧『 西條剛央

この著者のタグ: 『英語』 『考え方』 『可能性』 『紙』 『MBA』 『ボランティア』 『プロジェクト』 『読み方』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
利用する(会員登録) すべての本・検索
ページトップに戻る