価格から価値へ、お金の考え方を変える
横山光昭氏は1971年北海道生まれ。家計再生コンサルタントであり、ファイナンシャルプランナー。株式会社マイエフピー代表取締役。家計の借金・ローンを中心に盲点を探り、確実な解決&再生をめざす。独自の貯金プログラムを生かし、リバウンドのない再生と飛躍を実現。口コミ客も多く、クライアントは現在までに約 7,000 人以上にのぼる。独自の貯金法を紹介した『年収 200 万円からの貯金生活宣言』シリーズは累計 45 万部を超えるベストセラーとなり、『わが子をお金で苦労させない』、『妻力貯金』など著書多数。雑誌、新聞、TV、ラジオなどでも活躍中で、日本経済新聞社、ダイヤモンド社、総合情報サイト「All About」にて、Web上での連載記事を公開している。庶民派ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏に、独立のきっかけや著書への思いなどを伺った。
お金の話をするきっかけに
――家計再生の専門家としてご活躍です。著書もベストセラーを出しておられて、お忙しい毎日と思いますが、近況を教えていただけますか?
横山光昭氏: 私の仕事は、個人の方から家計のお話を聞かせていただいて、プランを立てていく仕事です。本はこれまで20冊ほど出していますが、生の現場での声を広めるためのものという感覚が大きいです。一日に5~6件の方のご相談を受けますが、個々の状況は千差万別でも全体としての傾向みたいなものはあるんです。正直、書くのはそれほど得意ではないのですが、悩んでいる方は多いので、その傾向をお伝えすることで、悩み解消のヒントになるのではないかと思っています。
――ある種、啓発活動的な意味合いを持っているんでしょうか?
横山光昭氏: そんな立派なことではないですが、皆さまの声を広げることで、落ち着いて誤解のないように物事をとらえていただければと思っています。そういう意味で、書く業務は今後もさせていただきたいなと思っているんです。
――横山さんは、本はよく読まれますか?
横山光昭氏: よく読むようになったのは、この仕事を始めた20代後半くらいからですね。ファイナンシャルプランナーの本も多く読みましたが、読むと不安になるものも多いなと感じました。お金の話って「こんなにかかってってどうしよう」と落ち込む面もありますが、その不安をどうやって埋めていくのか、気持ちの持ちようという面もあります。不安を与えるのではなく、どう気持ちを持てばいいのかを提示してくれるといいなと、読書をしていて思いましたね。
書く上では、コンサルタントの仕事の中で感じたことをきちんと伝えたいという思いがありました。そのためにはあまり専門的になってもいけないですので、読みやすい本を書くために、お金の専門書から全く関係のないライトノベルまで、いろいろな本を読みました。
――横山さんの本は、読みやすく、すんなりと入ってくる印象を受けます。
横山光昭氏: 私自身、あまり難しい本は好きじゃないんです。専門家が書くと独りよがりな文章になりがちですが、例えば私がダイエットをしようと思った時に、いきなり血糖値がどうのこうのと言われたら、嫌になりますよね。ですから、最初の入り口には難しいことは必要ないかなと思っています。
お金のことは、あまり話すと嫌らしい感じもあるとは思いますが、やはり大切なことです。将来のためにきちんと考えて、場合によっては家族やパートナーと共有していくことが必要となります。私の書いた本を読むことが、お金の話をするきっかけになればと思いますね。
人は変わることができる
――この道に進んだきっかけはどのようなことでしょうか?
横山光昭氏: 私は最初、紳士服の販売をしていたんです。ある紳士服店に経理で入ったのですが、ある時、店がオープンするので販売員としてかり出されたんです。人とのやり取りは好きでしたので、思っていたよりも売ってしまったのですね。そうしたら「お前、今日からここに残れ」と、目を付けられちゃいました(笑)。4年勤めましたが、情報処理でいろいろ資格を持っていて簿記もできるのに、販売の仕事では意味がないなと、辞めたんです。その後、司法書士事務所に勤務したのですが、司法書士の事務所って、会社や個人の登記の変更もしますが、今でいう、いわゆる債務整理が多かった。昔はお金を返せないなら目玉売れとか肝臓売れみたいな世界があって、今よりも追い込まれている方が多かったんです。
私自身、お金は、あれば使ってしまう方で、ついつい借りちゃうみたいな気持ちはよく分かります。業務をする上で、例えば自己破産した方々を救ったというか、助けたと思っていたんですが、その方々が二年後ぐらいにもう一度戻ってくるんです。そして二度目は通常の会社から借りられないからヤミ金から借りてパワーアップして帰ってくる。で、「いや、またちょっと借りちゃって」みたいなことを言うんです。そういうことが何度もあって、これは、その人自体を変えなければ問題は解決しないと、考え出したんです。それで、司法書士の事務所にいながらファイナンシャルプランナーの資格を取らせていただきました。そうしたらそこの先生が、「事務所のメインの仕事はいいから、家計の方でアドバイスしてあげなさい」ということを言ってくださって、個人の方の家計の相談を受けることになったんです。
――仕事をする上で誰かの助けになりたいという気持ちがおありだったんですか?
横山光昭氏: 最初は助けるという思いはなかったかもしれないです。自分自身を相談者と重ねていたと思います。お金の問題をきちんとできないのは仕方ないとか、病気だって思われたくないです。人は変われます。きちんとコントロールしてグチャグチャにならないようにすることはできるようになるんです。お客さまを自分に投影して、自分自身も変われるんだと思いたかったというのもあったのかもしれません。
愛を込めて言っていますが、〈お金の問題児さん〉たちがうちに来て実際にやっている方法を一部参考にさせていただきながら書いたのが『年収200万円からの貯金生活宣言』なんですよ。
――独立をされた時の気持ちを伺えますか?
横山光昭氏: 不安もありましたが、当時、司法書士の事務所で、ほかの弁護士や司法書士の先生方の問題児も引き受けるようになっていて、「超問題児は横山君のところへ行って見てもらえ」というような状況になってきていましたので、独立できるなと思ったんです。それで、会社は辞めました。ところが、辞めたら仕事が来ない。事務所の先生の名前で信頼を得ていたんだと痛感して、打ちのめされました。
――順風満帆ではなかったんですね。
横山光昭氏: やりくりできないから、それこそ自分も消費者金融で借りたり、借金をしたり、本当に食えない時期はありました。ですから、今、相談に来る方を見て「若い時の自分に似ているな」と、思うこともあります。「何とかなりますよ」って言っているのを聞いたりすると、「お前、何とかならないからここに来たんだろう」と思いますが、でも、そういう人ほど、少しベクトルを変えるだけで大きく変わっていきます。問題児だからこそ吸収がいいんです。例えば点数でいえば、うちに来るのは20点とか、赤点みたいな人たちです。それが55点や60点になっただけでも、70点取れるようなある程度賢い人を10点、15点伸ばして85点取れるようにするよりは振り幅は大きい。そして面白いことに、赤点だった人が60点、70点になると、そこで大体うまくいくんです。急に「金に関してはもう大丈夫だから」と言って、別人のように変わる。車なんか全部ローンで買って、組めるだけ組むみたいな考えだった人が、「やっぱり少しでもお金を作って買った方がいいんじゃないかな」と意識し始めるんです。そういった意識を変えてあげられることに、やりがいを感じます。
「豊かさ」の価値観を変える
――横山さんは好きな本はありますか?
横山光昭氏: 独立して苦しかった時代は『道は開ける』を、何回も読みました。本当に繰り返し読んで、自分の支えにしていました。自分の価値観を変えた本としては『<貧乏>のススメ』です。豊かさというのは、昔は、例えばいい車に乗ってとか、いい家に住んで、収入があってとか物質的な豊かさにあったと思います。でも、これからの豊かさは決して物質的な豊かさではない。いわゆる誰もが思っている「お金がない」ことも、考え方によってだいぶ違うという風には私は思うんです。そういう意味で『<貧乏>のススメ』は面白い、価値観の変わる本の一つです。
私の処女本は『年収200万円からの貯金生活宣言』ではなく、『あなたの借金、返さなくていい!』という本です。
――すごいタイトルですね。
横山光昭氏: 中身はそういうものでは全くないんです。当時、『借りたカネは返すな!』という、企業再生コンサルサントが書いた本が売れていたんです。それで出版社さんがタイトルを『あなたの借金、返さなくていい!』に決めました。
書くきっかけとしては、自分の会社のホームページで書いていた文章を見た出版社の方からお声がけいただいたのが最初です。当時まだ札幌におりましたので、金もない中東京に来て、出版社の方に会って、金になるんだかならないんだか分からないような状態でスタートしました。「本を書く時って、契約金も何もないんだな」と思ったのを覚えています。だから、こちらから売り込んだことはあまりないですね。まさか、自分が本を書くなんて夢にも思わなかったですね。
――横山さんは電子書籍は利用しますか?
横山光昭氏: はい、ヘビーユーザーではないですがiPadで電子書籍を読みます。実際使ってみると、読みやすいですし、一度ダウンロードしてしまえば飛行機の中などでも、移動時間に自由に読める。意外と手軽で、お値段も安いですから、便利で良いと思います。
――書き手として、読者が裁断、スキャンして電子化してでも読みたいと思う気持ちに対してはどう思われますか?
横山光昭氏: 手元に置いておきたいという風に思っていただけているということですので、うれしいですね。私はあまり形にはこだわりがないんです。中身が読めれば、実際のリアルな本でも電子でもいいと思います。音楽でもCDだと無くしたり傷ついたりがあるかもしれないですけど、電子ならそういう面でも安心ですしね。
――最後に、今後の展望を、お仕事も執筆活動も含めて伺えますか?
横山光昭氏: 仕事で言えば、今と変わらずやっていきたいと思っています。本を書くのも、普段、お話を聞かせていただいたところから出る思いを伝えるためですから、コンサル業でのお客さまと直接話をするというところは絶対に省きたくない。日々刺激を受けるからこそ、それが言葉になっていくと思うので、今と変わらない状態でやるということが今後も望みです。
書き手としては、教科書みたいな本ではない本を書きたいと思っています。ファイナンシャルプランナーとして、老後何千万かかるとか子ども1人に幾らかかるとか、それを数値にして表すことは大切だと思います。ただ、それだけではなく、単なる「価格」という意識からから「お金の価値」という風に、自分の価値観を変えて見てみるということを、私たちがきちんと示していかないと読者の皆さんが苦しくなっちゃうと思うんです。具体的な数字だけでなく、物事の考え方、見方のヒントを与えられるようなことを発信していかなければと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 横山光昭 』