ものの見方を変え、知と美の世界を演出する
吉岡友治さんは、難関大学、MBA、法科大学院等さまざまな小論文試験の指導を行う講座「VOCABOW」の校長を務めています。予備校講師としての指導経験やシカゴ大学大学院人文学科での研究で培った独自のメソッドを、直接指導とネット上の講習で提供し、多数の合格者を輩出しています。吉岡さんに、論文添削のエキスパートとなるまでのキャリア、電子メディアの可能性等を、劇の演出家・美術理論の研究者としての見識を交え伺いました。
電子書籍の可能性は、本と本がリンクすること
――吉岡さんは、ネット上で小論文の指導をされていますが、電子メディアの良さはどこにありますか?
吉岡友治氏: インターネットで論文の添削を始めると、いろいろな人たちがアクセスしてきて、「こんなことをやってほしい」という声が届くんです。僕はもともと予備校の講師で、大学受験の小論文を教えていて、ネットでもそちらに需要があるかなと思って始めたら、あに図らんや、大学受験の方はあまり需要がなくて、当時始まったばっかりのロースクールの小論文をやってくれないかという話になったんです。ロースクールについては僕もよく知らなかったんですが、問題を見てみたら、「なんだ、できるじゃん」。始めたら評判が良かった。
ネット上でやることの良さは、パラパラとしかいない人とも、じかに話ができて、その需要に直接応えられることです。もう1つは設備投資が少ないから、個人が少ない資本でアイディアを実現できること。おそらく、電子書籍も小ロットでいろいろな本が出てくるでしょう。今までだったらコストを考えてできなかったことができるようになる。機会があれば、自分でも電子書籍をアップしたいという気持ちもあって、どういう風にするのが一番いいのかということを今、考えているところなんです。
――ご自身の著作でも、電子書籍でできることは多いと感じられていますか?
吉岡友治氏: すごくいっぱいあるんじゃないでしょうか。以前、大手出版社でCDの教材を作ったことがあって、CD40枚位の吹き込みをさせられた。そこで、編集者の人がメディアをちゃんとわかってないなと思った。例えば、しゃべっていって、テキストの該当部分にタグをつけられるはずなんです。「クリックすれば飛んでいけるようにしましょうよ」と僕の方から言ったんだけど、会社の人は怪訝な顔をしている。可能性がたくさんあるのに、利用できない。
インターネットもハイパーテキストで、いろいろなところに飛んでいけるけど、電子書籍も必ずそうなると思います。一冊の書物で完結するんじゃなくて、いろいろな書物とつながっていく。とくに、僕がやっているようなジャンルは、対話が大切なんです。ほかの人の言った意見とリンクして、一覧がざっと出てくるみたいな本も出てくると思います。だから、電子書籍はぜひぜひ発展してほしいし、すごく楽しみです。
著作権は、なるべくフリーにした方が良い
――電子書籍には、一冊一冊の本の境界を越える可能性があるのですね。
吉岡友治氏: 小説家の辻邦夫さんは、小説家なんだけれど小説が読めないって仰るんです。なぜかというと、小説の最初の何ページかを読むと、描写からいろいろなことを考え出して、そのことの方に夢中になって読み進めることができないからだそうです。その感じはすごくよくわかります。じゃあその考え出したことを基に、本の上で別なところに飛んでいけないだろうかって思うんです。その履歴が、ある種の自分の世界観というか、世界をどうとらえてきたかという跡になる。研究だとか、本を書くということも実はそういうことです。僕の仕事のやり方もたくさんの資料や本を読んで、それらを適当に組み合わせたりカットしたりしながら、自分なりに発展させていく作業になる。それと同じようなことがもっといろいろできるんじゃないかと思うんです。
――そのような新しい可能性を開くために、今後の課題はありますか?
吉岡友治氏: そこで問題になるのが、著作権です。僕は、著作権はなるべくフリーにするべきだと思っています。フリーにしても買ってくれる人はちゃんといる。とくに、売った当初はともかく、死後50年も著作権があるなんて、子孫を怠け者にするだけですよ。作者がいなくなったらもうそこで著作権も消えて、コモンズになるのが1番良いと思う。死後10年でも全然構わないじゃないかと。社会科学的な文献だと、10年すればもう古くなるので、それは著作権フリーにして、誰もがそれを基にして自分のアイディァを膨らませる資源にしていくやり方にした方が良いと思っています。
著書一覧『 吉岡友治 』