企画を考えている時が一番楽しい
――最後に、今後の著作の構想をお聞かせください。
吉岡友治氏: 1つはビジュアルについての本を書きたいです。僕はジョン・バージャーっていうイギリスの作家が好きで、小説家であると共に美術評論をやっていて『Ways of Seeing』っていう有名な本があるんですが、すごく良い本で、タイトルのとおり「見方」が変わる本です。僕も、ビジュアルに社会学および社会科学的な見方をくっつけることをやりたいと思っています。実は講談社の編集者と約束したまま5、6年放ってあるんですけど、これを近い未来にやりたい。
それと関連して、お遊び企画なんですけど、デートで使える美術の見方と語り方について書こうかと思っています。美術館にデートに行くと、言葉に困るじゃないですか。「何年に何があって」ってみたいにトリビアに走って、「あんた、オタクだね」って言われるか、美しさに言葉を失うかどっちかになってしまう。その中間で、きちんと面白いことを言えるようになるようにしたいですね。お遊びだけど、実は本質をついているものを書きたいです。
それから、インドネシアのバリ島に20年以上通っていて、今はバリに家を造ってあるので、バリの関連のことをやりたいと思っています。バリの伝統舞踊の名手といわれるバグース・マンデラという人がいるんですが、彼の新作を支援してるんですよ。実は、バリの伝統って言われるものはここ100年位でできたもので、例えば「ケチャ」っていう有名な芸能がありますけど、あれはドイツ人が映画のために作ったとか。昔の儀式用の音楽といくつかの物語を組み合わせてパフォーマンスを作って、それを皆がやるようになって「バリ島で一番有名な芸能」になっちゃった。情報社会やグローバル化の申し子なんですね。でも実は伝統ってそういう風にしてできるものだと思うんです。伝統という名の下に、新しいものを作らなくてはならない。
それを彼がやり始めたので、総合的に関わっていきたい。その1つとして、長谷と一緒に、バリの生活についての本も作りたいと思っています。ピーター・メイルの『南仏プロヴァンスの12ヶ月』という本がありますけど、バリは、プロヴァンスよりもずっと豊かだと思います。独自の儀式やローカルフードがあり、それでいてアジアで有数のレストランがあったりして、東京よりオシャレな面もある。南国というと、ヤシの木とかエステとか思いがちなんですけど、本当はもっと違った心地よさがいっぱいありますからね。文章と写真の力でもっと楽しめるバリの見方を提供できたら良いなと思います。
――「見方」というテーマを軸に、さまざまなジャンルで全く新しい作品を構想されているのですね。
吉岡友治氏: 柳の下の二匹目のどじょうみたいなことはやりたくないんです。だから、新しい企画を考えることが一番楽しい。文章を書くことはたしかにつらいんですけど、書いてると、こういう風にしたら良いんじゃないかとか、いくつも小さな発見がある。そういう瞬間は楽しい。そういう風に仕事ができるのが今のところ、一番幸せだと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 吉岡友治 』