倉園佳三

Profile

1962年福岡生まれ。音楽家、インターネットマガジンの編集者を経て、ITコンサルタントに。現在はiPhone・iPad、ガジェットやクラウドがテーマのブログ「zonostyle」を主宰するほか、質の時代に求められる「いまを手段にしない新しい働き方」を伝えるために、全国でワークショップやセミナーを実施、音楽活動も再開する。著書に大橋禅太郎との共著『すごいやり方』(扶桑社)、『iPhone×iPadクリエイティブ仕事術』『できるポケット Amazon Kindleクリエイティブ読書術』(インプレスジャパン)など。

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読書はデバイスで、とっておきたい本は紙を買う


――倉園さんは本の電子化については、どのようにお考えですか?


倉園佳三氏: 僕は自炊した本をKindleやiPad miniで読んでいます。裁断してスキャンするんですけど、なんかもうそれがめんどくさいと思って、電子化代行してくれる業者さんを探しました。ちょうどそのころPaperwhiteを買ったときなので、ブックスキャンはチューニングができるのがとても良いなと思いました。最初の条件としてAmazonで買った本を直接届けられるのがいい。それができないと、結局宅配便で送らないといけない。それ用の段ボールも取り寄せているけれど、宅配や郵便を送るという作業が面倒なんです。だからAmazonでうちに届けてもらったら絶対出さない。それからやっぱり、裁断機とスキャナーを買う人ってちょっとマニアックだと思うんですよ。断裁機を持ってる人は友達に1人もいない(笑)。しかも全部買うとやっぱり4、5万円かかりますよね。

――電子書籍をフル活用されていらっしゃいますが、電子書籍を取り巻く環境に関しては、どのように感じていますか?


倉園佳三氏: 世界と、またアメリカと日本では違うんですけれど、日本では始まったばかりだと思っています。やはり電子化されている蔵書の数が少な過ぎる。あらゆるメディアはデジタル化される方向に行っている。1番わかりやすいのが音楽と映画。音楽はレコードからCDへ行って、CDからダウンロードに行った。今どうなってるかといったら、月額固定のSpotifyとか、ソニーのMusic Unlimitedになってます。映画もそうです。アナログのVHSデータからレーザーディスクになって、DVDになって、それからiTunesで1話ずつレンタルするみたいになって、今Huluの月額固定になっている。だから、そこまで行くと成熟したメディアになっていくし、月額固定になった瞬間に、品揃えが決め手になるので、コンテンツが少ないですよという言い訳ができない。毎月この金額で聞かせてもらえる音楽が500曲なのか50万曲なのか全然違う。そうすると、世界中のほぼ全曲を網羅している、という必要がある。それを現時点のデジタル化の成熟点とすると、電子書籍はまだ始まったばかりですね。

――圧倒的にコンテンツが足りない状況ということでしょうか?


倉園佳三氏: そうそう。足りない。貸し本制度みたいなのもデジタルだったらできますよね。5日間だけデバイスの中に置いておけるとか。閉じておけば3日間くらいは休ませてあげるということもできる。図書館のようなサービスもできます。それから、例えばある作家に限って月額500円払ってくれれば読み放題にしますとか、そういうこともできる。こういうことが音楽ではできている。iTunesの映画のレンタルはその方式です。
だから、成熟点っていうのはまだまだ先にある。でも、本が唯一音楽や映画と違うのは、手で触れるメディアだということ。ページをめくる、表紙を触る、これはすごく大事なことです。出版社は、紙にこだわります。1冊ごとにどの紙にするかを決めている。それが同じシリーズであっても変えたりもする。僕が出した「できる」シリーズも、ページ数に合わせて、大きくなればもっと軽い紙を使うなど工夫していた。手触りの世界はなくならないと僕は思ってます。デジタルと共存していく。音楽も映画も触れるものではないんですよね。

――書き手としても、紙の本に思い入れはありますか?


倉園佳三氏: ありますね。僕はほぼ原則電子で読んでいますが、ただし、例えば谷川俊太郎詩集みたいな、「これは、紙の本で持っていたい」というものは紙の本で買います。だからすごく良いものは2冊買うんです。電子化する本と実物保存用。

電子書籍のメリットは、読書ビギナーの参入障壁を下げられること


――これから日本に電子書籍が普及すると、どんなメリットがあるでしょう?

倉園佳三氏: 検索ができるとか、色々なメリットがありますが、僕は最大のメリットとして、初めて読書の世界に入って行く人たちの参入障壁を下げられることだと思っています。本を読んだことがない人が、例えば紀伊國屋書店に行っても、どのフロアに行っていいのか、どれを買っていいのかが、全くわからないと思う。だから音楽も本も、いっぱい読んだり聞いたりした人たちが圧倒的に有利な世界になっているんです。「素人さんお断り」みたいな世界です。今ソーシャルメディアがあるので、ある程度情報が開示される様になってきていますけれど、会社に行って、「この本は面白いよ」って人に言わない。本だとアイデンティティーを強要しているみたいで、親しい人にも言いにくい。だから情報が広がらない。
だから良い本がどれかっていうのを非常に知りにくいメディアですが、これがデジタル化されると、例えばAmazonのリコメンドに出てきたりとか、Kindleのお勧めのところにポンと登場したりとか、ハイライトをシェアしたりとかすることによって、良質な本の情報が知らない人に伝わる。自分の趣味に近い人が買ってる本が何かわかる。それが最大の役割かなと僕は思っています。

――参入障壁が低くなることによって、閉ざされた世界が広がるんですね。


倉園佳三氏: そうですね。だから読書する人がより多くなる。今、確実に本は売れなくなっています。音楽も実は同じなんですよ。その2つが抱える大きな問題はそこにあるんですね。発見しにくい。音楽業界も出版業界も良いコンテンツを発見しにくい仕組みを作ってきてしまった。もうちょっと頑張らなければいけなかったんです。どうすれば素人でも良い本に巡り会えるか考える必要があった。昔はよくあの新潮文庫100冊のキャンペーンとかやっていましたよね。ああいうことをもっともっとやって、読者を育てると言ったら変ですけれど、視聴者を育てるみたいな、リスナーを育てるみたいなことをやらなかったツケが今まわっている。素人でも確実にリーチできるものばっかり作ってきた。だから結局良いものが発見されずに埋もれていく。それをデジタルになったときにもう1回掘り起こして、年代にかかわらず良いものをどうやって見せていくかっていう工夫が必要ですね。

これからの編集者はプロデューサーでなければならない



倉園佳三氏: そういう前提の元で電子書籍時代の編集者は何をすべきかというと、やっぱりこれからの編集者はプロデューサーでなければならないと思います。

――プロデューサーですか。


倉園佳三氏: これからは、1つの作品、1冊の本を、このデジタルというメディアの中で、どう皆に届けていくのかを、プラスして考える必要があります。これは今までは、編集者があんまり考える必要がなかったところで、「日経の新聞のここに広告を打とうか」くらいのことだったと思います。そこを、これからはもっと楽しい色々なことができる様な気がします。「この本のFacebookページを作ろうか」とか、「書いてる間も何か情報を出しましょうか」とか。それで電子書籍を、どうやって読者に対して出していきましょうかと考える。つまり、総合プロデュースをしていく必要がありますね。それがゴールだとすれば、編集者っていうのは、その本を好きな気持ちをどこまで前面に出していけるかだと思います。

――好きな気持ちを前面に出していく。


倉園佳三氏: そうです。この人と仕事がしたいとか、この作家の本を出したいとか、このテーマで本を書いてもらいたいとかっていう、なんか熱い想いや強い想いがないと、プロデュースできない。作り手の想いとデジタルがリンクしてるのが、とても面白いんだと思います。想いが乗れば広まる時代なので、そこを大事にした正直な作り方、正直な売り方みたいなのをした方がいいと、僕は思います。

著書一覧『 倉園佳三

この著者のタグ: 『考え方』 『インターネット』 『音楽』 『目的』 『幸せ』 『今を生きる』 『手段』 『バンド』

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