「本屋大賞」に見る新しい書店員像
――今は主に紙の本を読まれているということですが、大崎さんはもともと書店員をされていたそうですね?
大崎梢氏: そうなんです。書店で10年ちょっと働いてたんですけれども、その時の話を元に書いたのが、デビュー作なんです。
――書店の役割はどういったところにあると思われますか?
大崎梢氏: 書店にはアンテナショップ的役割が今はあるし、これからますますそうなるかもしれないですね。ネットでも買ったりできるんですけど、やっぱり本屋さんに行くと、本が視覚的に360度ありますから、つらつら見てるうちに興味がわいたり、何かを思い出したりとかがあります。あとは立ち読みしてる人がいると「何を読んでるのかな」とか、たくさん積んである本があると「これが今人気なのかな」とか、いろんな情報がある。パソコンのディスプレイの画面だけだとちょっと狭いです。いくつかをスクロールしていっても、どこかで面倒くさくなっちゃうでしょうから、限られた本しか知る可能性がなくなってしまう。ですからネットとリアルな書店とが共存することが必要になってきますね。
――書店員さんの存在もネット上にはないですね。
大崎梢氏: 本好きの方だと、書店員によって好みがあるということが分かります。例えその人を知らなくても、この書店の勧めている本が自分に合うということもあります。書店員には、ソムリエみたいな感じがあって、きっとこれからますます期待されるのではないでしょうか。
――書店や書店員に、最近変化が感じられるところはありますか?
大崎梢氏: 私が働いてた頃は、まだ別の店の書店員さん同士がそんなに親しくなくて、よその書店員さんが何を考えてるのかは全く知らなかったんです。今はお店の垣根を越えて、皆さん仲良くされてますよね。有隣堂の人と紀伊国屋の人が飲み友達とか、一緒に企画を立てたりとかもあります。今、東京創玄社の『ミステリーズ』で、本屋大賞の話(『ようこそ書店大賞の夕べに』)を連載しているんですが、本屋大賞も書店員の方が、不況だけど皆で集まって愚痴を言ってるだけじゃなく、何かやってみようよってところから始まったのは素敵だと思います。
書店員さんにもっと優しくなってもらえれば
大崎梢氏: 本屋大賞の中の話を取材すると、ペットボトルのお水一本、自前で買って、忙しい合間に、全くのボランティアで集まって、打ち合わせを重ねています。今や一番重版がかけられる文学賞って言われてますが、第1回目の話とか聞くとすごい可愛らしくって、第1回は小川洋子さんの『博士が愛した数式』だったんですけど、「取りました」って新潮社に報告に行ったら、新潮社の人も「ありがとうございます」と言いながら、どれくらい喜んでいいのかが分からない感じだったそうです。今では「何でこんな本選ぶんだ」みたいな、バッシングも強くなっています。全くのボランティアでやってるんですから、誰からも文句言われる筋合いはないと思うんですけれどね。
――その本屋大賞を小説にするという発想は、大崎さんらしいですね。
大崎梢氏: 1つのエピソードとして書こうと思ったら、編集さんに、「本屋大賞は結構大きなイベントなので、何百枚使った話にした方がいいんじゃないですか」って言われたんです。本屋大賞の名前は知っていても、中身がよく分からない方は多いですよね。
――本屋さんや、書店員さんについての小説を書かれることに何か想いがあるのでしょうか?
大崎梢氏: 本屋さんって地味な仕事で、お給料も悪い。書店員の頃、辞めた子がケーキ屋さんで働いてて、時給を聞いたらびっくりするくらいよかったこともありました。それでもお客さんの要求は結構高くて、重労働でもありますし、返品があったり、電話もかかってきたり、付録が足りなく確認したりと作業も多い。扱っているものも、本あり、手帳あり、カレンダーありと、多種多様。だから、皆が書店員さんに少し優しくなってくれるといいなって思って書きました。
ただ、本屋さんで働いていてよいところは、お客さんがいらっしゃったときに、「いかがですか」っておすすめしなくて良いところですね。アルバイトで入って来た子が、「前の仕事はノルマがきつかった」と言っていました。自分に番号が割り振られていて、レジをする時にその番号を押すことで、1日にどのくらい売り上げたかチェックされていたそうなんです。でも本屋はそれがないから幸せですって。言われてみたら、ここにはこういう本がありますよってお知らせして、あとはお選び下さいとお客さんに任せられるので、気持ちが楽ですよね。