編集者という「もうひとりのプロ」の目
――プロの作家として電子書籍の可能性、あるいは課題を感じることはありますか?
大崎梢氏: 書き手の立場になってみると、今まで印税って先払いなんですが、実売数になってしまうので、それは作家さんにとっては厳しくなるんじゃないかなと思います。書き下ろしの場合は、たとえば資料なども自腹で買い求め、1年間かけて書いた原稿が本になり、印税をもらうのが1、2ヶ月後。それだけで苦しいのに、電子書籍だと、さらに売れた分しか入らない。課題ですよね。
専業だからこそ、やっと出てくる重厚な作品もあるでしょうし、出版社のフォローが不可欠な作品もあるでしょうし。
――編集者の手が入っているものはやはり作品の質が違いますか?
大崎梢氏: 私はデビューした頃から編集さんに助けてもらっているんで、いろいろ頼りにしています。最初のアイディアの段階からディスカッションすると、「こういうのどうかな」と提案した時の編集さんの顔つきで、今のよいなとか、スルーしたなとか、感覚で分かることがありますし、アイディアが上手い具合に転がるような合いの手を入れてくれることもあります。編集さんは、原稿を書いた時の最初の読み手ですし、プロの目で「ここがまどろっこしいかな」とか、「ここをもうちょっと書き込んだ方がいいかな」と具体的に伝えてくれるので、ブラッシュアップができるんですね。話の筋自体が同じでも、ちょっとした違いで読んだ印象や伝わり方が違ってきます。無情に文章を削る話には、「えーっ」と思うこともありますが、小説のことをよく考えてみれば文章を削った方が良い。それがすごいところです。もちろん書き手自身が、ある程度客観視できなきゃいけないんですけれど、書いてるうちに分からなくなってしまうこともあります。だから、「いいですよ」って言われるとほっとするんですね。それに今、ネットでの意見も見えてしまいますが、編集さんに「気にしないでいいです。気にするならネットは見ないで下さい」とはっきり言われます。だから、編集さんはマラソンで並走してくれてる人みたいですね。アマチュアの人の作品とプロの違いは、そこにもう1人プロの目が入ってるっていうことが大きいような気がします。
「これが書けたら本望だ」という本
大崎梢氏: さらに優秀な編集さんになってくると、私の持ち味までちゃんと考えてくれます。私も知らない、良いところを引き出してくれる編集者がいるんです。それと、優秀な編集者さんは自分でいいなと思った作品があった時も、「似たようなのを書いて下さい」っていうことは決して言わないんですよね。それって編集者魂だなと思うんですけれど、優秀な編集者さん程、二匹目のどじょうを狙うような話は、くやしいから言いたくないんです。私も『配達あかずきん』が出た時に、幸い何社かの方が声をかけて下さったんですが、編集者さん達は「『配達あかずきん』みたいなものを」とは決して言わなかったんです。後から聞いたら、「打ち合わせに行く時に、それだけは言うまいと思ってました」って。それで、「何がやりたいですか」って聞いて下さって、私も全く他のものがやりたかったので「全然違うけれどいいんですか?」って尋ねたら、「いいです」って言って下さったんです。
――そういった編集者魂があるからこそ、作家さんの新しい作品が生まれていくものなんでしょうね。
大崎梢氏: そうなのかもしれないですね。私は作風が違うものをどんどん出しちゃったんで、『配達あかずきん』みたいなのが読みたい人にとっては不満だったかもしれませんが、色がつき過ぎなかったのは良かったかなと思っています。いろんなものを書かせてもらい、自分としてはとても楽しいです。
――それでは最後に、今後の作品で書いてみたいことなどをお聞かせいただけますか?
大崎梢氏: あんまり考えてません。ただ、「もうこれが書けたら本望だ」みたいなのを書けたらいいなっていつも思っています。新刊を出した時に「今までの中で一番良かったよ」って言ってもらうのがすごくうれしいです。『クローバー・レイン』が終わった時も、ここで辞められたら幸せじゃないかなって自分でも思ったんですけれども、その時既に今の連載の原稿を始めてたんで、そういう訳にもいかず。結局、そのくり返しかもしれないですね。こんなに長くやっていけると思わなかったので、逆にこれから何が出てくるのか、自分でもちょっと楽しみです。
(聞き手:沖中幸太郎)
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