すがやみつる

Profile

1950年、静岡県生まれ。『仮面ライダー』のコミカライズで漫画家デビューし、以後、児童漫画を中心に活動。代表作は漫画『ゲームセンターあらし』およびそのキャラクターたちが登場する学習漫画『こんにちはマイコン』(共に小学館)など。この2作は共に小学館漫画賞を受賞した。「菅谷充」名義で小説も執筆。デビュー作『漆黒の独立航空隊』(有楽出版社)をはじめ、架空戦記、自動車レース、ミステリーなど、ジャンルは多岐にわたる。2013年、都精華大学マンガ学部教授に就任し、キャラクターデザインコースを担当。

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漫画家はビジネスとして生き残れるのか?


――一方で、漫画家の収入をどう確保するかという問題もありますね。


すがやみつる氏: 漫画の世界は、漫画家で成功するという夢をかけて参入してくる人がいることで活性化してきました。僕なんかも、漫画をやるからには一発当てて家を建てなければ意味がないという世代です。僕が東京に出てきたのは1969年ですが、その頃、「漫画家の定年は30歳だ」とよく言われていたんです。当時は、少年漫画、少女漫画が中心で、大人漫画を書く人は全然違う種類の人たちでした。68年にはビッグコミックが出ますが、手塚治虫、石ノ森章太郎、さいとうたかをみたいな超一流しか描けない。そして子ども向けの漫画を描いていると、30歳ぐらいで子どもの心がわからなくなって、受ける漫画を描けなくなる。だから30歳までにサラリーマンの生涯賃金ぐらいの収入を得て、アパート経営とか喫茶店とか、第二の人生のことを考えなさいと言われていた。
60年代の後半から、コミックスという単行本が出て、印税が入るようになりますが、それまでは原稿料だけでした。月刊誌時代はそれで十分食べて、なおかつ家を建てたりできた。漫画の雑誌が物価を考えると高くて、それに合わせて原稿料も高かった。横山光輝先生が1956年に初めて雑誌に書いて、1ページ2000円もらったそうです。2000円もらって8ページの連載で、16000円。当時の大学初任給の月給が12000円ぐらいです。8ページって頑張れば一晩で書ける。人気のある人は別冊で何十ページも書くと、本当に原稿料だけで家を建てられた。
それが今、物価が上がってますし、絵も緻密になって人件費がかかる。原稿料だけではやっていけないし、コミックスが売れないと収入がないも同然です。しかも最近コミックスにならなくなってきている。『ONE PIECE』みたいな例はもちろんありますが、夢のある商売じゃなくなってきています。1回使った原稿を安く使わせる「再録」も、最初に1万円の原稿料なら、増刊号で半額の5000円だったのが、今は500円とかいう例がやたらある。そういう厳しい状況も耳に入るようになってきました。「ロングテール」という言葉がありますが、今の漫画の世界は恐竜の首の部分は高いのですが、あとは急転直下です。

――なぜそのような状況になっているのでしょうか?


すがやみつる氏: 一つは漫画雑誌が増えすぎたことだと思います。そうすると書き手に簡単になれる。昔は入り口が狭いのであんまりなれない代わりに、1回載れば、高い収入を得られるようになりました。今では漫画もコモディティ化というか、似たような絵柄が多く、素人的な絵でも本に載るような時代になっています。レディースコミックを描いている人の中には、内職感覚でやっている人たちも少なくありません。創作意欲を満たすためだったら、今は同人誌もあるし、ウェブにもアップできる。商業誌に行くとマーケティングに基づいて、売れ線のものをつくらないといけないので、大変になってくる。一番幸せなのは、ほかでちゃんと食べる仕事のあるウィークエンド漫画家みたいな感じじゃないのかと思います。

――電子書籍でさらにプロとアマチュアの垣根が低くなると思われますが、ビジネスとしての漫画家が成り立つためには何が必要でしょうか?


すがやみつる氏: 僕はある大手出版社から、出していた作品の電子化について条件を一つ出しました。初版の段階では、当然編集経費がかかるから、採算ラインをあらかじめ決めておいて、それをクリアしたら印税の率を上げてくれって言ったんです。そうしたら、「そういう考え方をしたことがなかったので、持ち帰ってみます」と言って、それっきりになっています。出版のビジネスは、初版で採算が取れたら利益が大きい。増刷は紙と製本と印刷、印税だけですから。しかも電子化であれば印税以外は入らなくなる。売れれば印税が上がるのであれば、作者だって次への意欲がわきます。そうしないと、出版社ばっかりうまくやりやがってというようなネガティブなイメージを持たれかねません。

クリエイターに求められる「情報発信力」


――今後、出版社、あるいは編集者の役割も変わっていくでしょうか?


すがやみつる氏: 今、出版社がどんどんテレビ局化しています。テレビ局は、この何十年来、自社で制作しなくなって、全部プロダクションに出している。出版社も編プロに出して、下手をすると、出版社の編集者は企画だけをやって、編集のノウハウを知らなかったりする。漫画家と意思の疎通がうまくいかなくて、トラブルの原因にもなっています。出版社というのは今後、仲介業ビジネスになって、編集との分業化がさらに進むだろうなと思います。しかも電子になっていくと、仲介窓口としての権益もなくなるので、多くの出版社が困ることになるでしょう。

――そのような時代に、漫画家をはじめ新しい時代のクリエイターに求められるものはなんでしょうか?


すがやみつる氏: 漫画家になりたいという人には、人付き合いが苦手だからとか、一人でできるからと思っている人たちが多いのですが、編集者との打ち合わせもあって、結局人付き合いができないと物作りができないんです。なおかつ今は、クライアントで出版のプロじゃない人たちがいっぱい来る。そういう人たちに対して、自分の作品を理解してもらうプレゼンテーション能力を鍛えないといけない。作品を描くだけではなくて、自分の作品の魅力を伝える情報発信を含めて強いクリエイターにならないといけない。京都精華ではその部分に力を入れていて、今年入ってきた1年生は、入っていきなりグループでフィールドワークをするという授業をしています。5~6人のグループで意見をまとめてプレゼンテーションをするというものです。イメージと違うと思っている学生も、けっこう多いと思います。前に学部長もやっていた竹宮恵子先生は、「引っ込み思案では食べていけない」と繰り返し言っていました。また、今年の入学式の後には、マンガプロデュースという編集者を養成するコースのベテラン編集者が第一声で、「紙の出版はあと数年のうちに崩壊します」って言い切っていました。その激動の時代にこそ、明治維新のように、若い力が世の中を変えなくてはいけないということです。



――決して容易な道ではないでしょうが、若いクリエイターへの期待は大きいですね。


すがやみつる氏: よくないのは、年寄りがいつまでも力を持っていることです。役割分担がありますから、僕たちは教育で改善する役割が期待されているのではないかと思っています。これまでは作品を描くことを中心にやってきたけれど、今は大学で世の中に通用するクリエイターとなる人材を作ることが課題で、人が作品という感覚になっています。昔は編集者が僕たちを作ってきた。出版社が学校で、編集者が先生だった。特に漫画家の場合はそういう風に育てられていた。でも今の出版社にはそのような機能が期待できなくなっています。だからこそ編集者の役割を僕らがやる必要があるんだろうと思っています。編集者っていつも名馬を作る伯楽に例えられたのですけど、今後は伯楽に僕がなれるかどうかということですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 すがやみつる

この著者のタグ: 『クリエイター』 『漫画』 『コミュニケーション』 『漫画家』 『教育』 『小説家』 『小説』 『絵』 『努力』

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