前野隆司

Profile

1962年生まれ。 東京工業大学工学部機械工学科卒業、同理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。1993年には工学博士を取得している。 ヒトとロボットの「心の研究」をしており、著作もそれに関するものが多く『ロボットの心の作り方』という論文も執筆している。 最近は、ヒューマン・マシンインタフェースから、協創・共感・感動・幸福の研究、教育・組織・コミュニティーの研究まで、人間に関わる様々な研究を行っている。 著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)など。
【公式サイト】 http://takashimaeno.com

Book Information

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幼いころから理想を夢見ていた。目指していたのは平和と幸福だった。


――前野さんの幼少期のこともお伺いしたいと思います。


前野隆司氏: 父が中国電力に勤務していたので、転勤で中国地方を転々とする暮らしでした。子供の時は、割とおとなしい子で、本をそれほど読んではいなかったと思いますが、何かを成し遂げたいという野心は持っていました。医者、哲学者や芸術家あるいはエンジニアなど、いろいろなものになりたかった。幼いころから「自分とは何か」とか、世界のことなどを考える子供だったからか、まわりから少し浮いていたと思います。友達は皆テレビでウルトラマンなどを見ていたので、話を合わせるために見たり、みんなでサッカーしている時には一緒に遊んだりして、変わり者だと悟られないようにしていた覚えがあります。
でも本当は「世界平和はどうやったら実現するか」、「人間はなぜ神を創ったのだろうか」「死んだらどうなるんだろう」などと考えていました。死ぬということはどういうことなのかというところから、宗教、世界の平和にも興味があった。そのほかにも、技術にも興味があったので、「技術者として人々の生きがいのある世界を作るにはどうしたらいいか」という空想にふけったりして、妙にスケールが大きい理想主義者のようなところがありました。しかし、当時は、何かを書いたり発表するだけの自信がなかったので、哲学者や芸術家になる夢は諦めました。それで、エンジニアは、地味だけど世の中の役に立てそうだと思って、機械工学へ進んだのです(笑)。

――ご両親は教育に対してどのようなお考えでしたか?


前野隆司氏: 両親は教育が一番大事だという考えでした。「財産は残さないが、教育は好きなだけ受けさせる」と言ってくれていました。両親から「勉強しなさい」と言われたことはなかったですね。父は私を医者にしたかったようで、さりげなく「良い仕事だね」と話題に上らせてみたりしていましたが、結局私は医学の道には進みませんでした。

――いつごろから読書をされるようになったのでしょうか?


前野隆司氏: 大学生くらいから、哲学書も読むようになりました。幼かったころ読書しなかった理由は、国語がすごく苦手だったからです。今思えば、文章理解力が遅咲きで発達したのだろうと思います。自分から何かを発信するのは好きですが、人の情報を受け入れるのは今もあまり得意ではないので、あまり多読ではありません。絵も描きますが、ほかの人の絵を観るより描くほうが好きです。本は、自分が何か本を書きたいと思った時に、参考資料として飛ばし読みすることが多いです。

読書が苦手だったおかげで、わかりやすい文章が書けるようになった。


――読書が苦手だったとおっしゃいますが、今は書き手として活躍されていらっしゃいますね。


前野隆司氏: 自分が文章を読むのが苦手だからか、簡潔でわかりやすい文章を書くのが得意なんです。27、8歳くらいの時、キヤノンでの昇格試験で小論文を書いたのですが、同期1000人くらいのうちで私がトップだった。その時初めて「自分の文章はわかりやすいんだ」ということに気が付きました。それからは自信を持って、「本を書きたい」と思うようになりました。

――ご著書などを書かれる時には、どのようなお気持ちで書かれていますか?


前野隆司氏: これまでに単著で出した本が6冊ありますが、基本的に「人生はニヒリズムであり、無である」ということを伝えています。「生きている本質的な目的などはないんだ」ということを伝えたくて本を書き始めました。そのころ茂木健一郎さんがクオリアや脳について本を書いていて、その説に対して反論しようと思って本を書き始めたんです。しかし、その後、実際ご本人と対談してみて、「ふたりの考えは実は近い」と意気投合しました。だから茂木さんは私に本を書くきっかけをくれた恩人なんです(笑)。

――どのような本をお読みになっていますか?


前野隆司氏: 私は基本的に、自分の研究や本を書く時に、関係した本を読みますが、それ以外にはあまり読まないんです。人はどうして他人のためになろうとするのかというテーマは面白い。もともとは個人のことに興味があったけれど、今はコミュニケーションにも興味があります。最近読んで面白かった本は『利他学』という本です。人はどうして利他的になるのかというのがテーマです。人間行動進化学から利他について述べています。



例えば、見える場所に目の絵を描いておくと、人間は、目の絵だとわかっているのに、無意識に見られていることが気になり少しいい格好しいになってしまう。人間の利他性は高尚なことのように思えるけれど、実は生物学的に遺伝子に埋め込まれているという面白さがある。カントのように「哲学的に絶対正しいことはあるべきだ」という考えは、間違いだと私は思っています。単に人間は自然淘汰に生き残るように作られたにすぎない。そう考えるとすべて説明がつくのではないかと思っています。

――先生が常におっしゃっている「受動」の考えにつながりますね。


前野隆司氏: 哲学が好きな人で腑に落ちないとおっしゃる方もおられます。理系というか、進化論的に積み上げて考えることに慣れている人は納得がいくと言ってくれます。

著書一覧『 前野隆司

この著者のタグ: 『大学教授』 『可能性』 『写真』 『教育』 『カメラ』 『エンジニア』 『フィルム』 『デジタル』 『書き方』

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