上田秀人

Profile

1959年、大阪生まれ。 1994年に故・山村正夫氏主催の小説講座に入門する。 3年後に、第二十回小説クラブ新人賞佳作「身代わり吉右衛門」でデビュー以来、 2010年に「孤闘 立花宗茂」(中央公論新社)で第十六回中山義秀文学賞を受賞し、 「勘定吟味役異聞」シリーズ、「水城聡四郎」シリーズ、等といった時代小説・歴史物小説を中心とした作品を執筆しており、 最新刊には「奥右筆秘帳」シリーズの完結編となる「決戦」がある。 また、大阪歯科大学出身であり、現在、大阪府下にて歯科医院を開業している他、 多忙の中で執筆に勤しみながらも、人知れない趣味や特技、資格を有している。

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新幹線の中で楽しめる勢い、それが文庫には必要。


――作品をお書きになる上で、大切にされていることはありますか?


上田秀人氏: 僕の作品のコンセプトは、新大阪や東京の駅で買っていただいて、大阪や東京まで乗る2時間半を楽しんでいただければいいと思っています。楽しんでもらえる小説を心がけています。

――書かれる上で、綿密なプロットは立てますか?


上田秀人氏: 僕の場合はありません。伊東潤さんという有名な先生とこの間一緒にお食事させていただいた時に「1から10まで最初にキチッと決めて、その通りに話が進んでいく。最初の設計図通り、一分の狂いもない」とおっしゃっていました。対して僕はスターティングとエンディングだけを決めるというスタイルです。書いていくうちにそのエンディングさえ変える時もあります。スタートに関しては動きがあって、読者を引き込むことを意識します。だから最初には天気が良かった、人通りが多かったという描写などはあまり書かずに、チャンバラなどからとりあえず入る。勢いにまかせて坂の上から下まで行ってしまえ!というのが文庫には必要で、最後に読者が「いつのまにか終わったな」と感じるというのがいいと僕は思っています。

――文庫以外の本ではまた書き方が変わってきますか?


上田秀人氏: ハードカバーはまた違います。お値段が3倍ぐらいしますから、読み終わった時に「今度朝礼で使おうかな」、「ちょっといいね」などと思わせないといけないので、一気に読ませるのではなく、1章ずつ読んでいただくといった形になりますので、あまりそういう勢いをつけなくてよいと思っています。

昭和の大作家、笹沢左保さんにインスパイアされた。


――独自の視点を持てるようになったきっかけはありますか?


上田秀人氏: 僕の場合は、『木枯らし紋次郎』の笹沢左保さんです。笹沢さんが亡くなる前に少しだけお付き合いしていただいていまして、その時に、「時代物っていうのは、美しい日本を残すためにあるんだ。それを覚悟して書かないとダメだよ」と言われたことが心に残っています。まだデビューしたてのころで、笹沢さんはその後1年も経たずに亡くなりましたが、僕にとってはその言葉が一番の原点になっていますし、先生は本当にカッコイイ方でした。赤坂プリンスのスイートルームを年間契約されていて、土曜日の晩に一緒に飲んでいて、3時くらいにバーが閉まると「じゃあ赤プリに行こう」とスイートルームにみんなを連れていってくれました。その時、「シーバスリーガルが飲みたい」と笹沢さんが言い出したのですが、ミニボトルの在庫が20本ぐらいしかないと言われて「20本なんてすぐ終わるやろ。他の部屋のものを全部持ってこい!客を起こせ」とおっしゃっていました(笑)。

――破天荒な方ですね。


上田秀人氏: スイートルームですから執筆室があって、ベッドルームがありました。女の子が何人かいたんですが、女の子たちがそのベッドルームをパッと開けようとしたら「おれに抱かれる女以外立ち入り禁止やからな」とおっしゃいました。本当に笹沢さんが最後といった感じで、今はそういう作家はいないです。僕もそろそろ少し偉そうな態度をとりたいなと思っているんですが、なかなかそこまでいきません(笑)。

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