描写力を研ぎ澄ます他者の目
――「書く」ことは牧さんにとってどのような行為でしょうか?
牧秀彦氏: 書くことは自己主張ではないんです。『甘味屋十兵衛』シリーズだと、お菓子とチャンバラ、ささやかな恋など、あるシチュエーションを用意して、そのシチュエーションを魅力的に書くのが僕の喜びです。多分、シナリオライターに近いんだと思います。猪又憲吾先生という時代劇や2時間サスペンスを多数ご執筆された先生にYMCAのシナリオ講座で教わりまして、大きく影響されました。猪又先生のご指導でシナリオ的な話の作り方、テーマに合うキャラクターの作り方を教わって、そういうことが楽しいです。
それと、わかりやすく書くことは意識しています。特に雑誌ライター時代は自分の好きなことばかり書くわけではなくて、取材対象が色々ありました。編集者の方のご指導もあって、そこは鍛えてもらいましたね。
――理想の編集者はどういった方でしょうか?
牧秀彦氏: 見る目を持っている方、ポイントを突ける方だと思います。書いている人間は自己満足に陥りがちになります。これでいい、と思って書いているところを、「いや、読者はそうは思わないよ」って客観的に指摘してくれる人は本当に貴重です。パートナーというか、マラソンのペースメーカーでしょうか。編集者の方に色々と教えていただき、せっついていただくことによって作家は頑張れると思います。それはとりもなおさず読者のためにやってくださっていると思うので、その想いはくみ取らなくてはいけないと思っています。
――ネットの書き込みも参考にされているのでしょうか?
牧秀彦氏: 僕はTwitterはやってないけど、書かれているものを見ることはあります。でもそこを気にし過ぎると、プレッシャーに押しつぶされてしまいます。耳を傾けなくちゃいけないけれど、無責任な発言もあることを忘れちゃいけない。参考にしなくちゃいけないところを深刻にとり過ぎて、心が折れちゃいけないなと心がけてます。ネットを否定するばかりではなく、上手く付き合って、良いところを取捨選択して見る。そこはやっぱり受け手としても作り手としても必要だと思っています。
人との出会いで、学びの場が得られる
――人との関わりという点では、ホームページ等に地域の方々との交流について書かれているのも印象的です。
牧秀彦氏: そうですね。地元の深川の小学校では、6年生を対象にして、卒業する前に地域の歴史を勉強させるという授業があります。校長先生の方針で、今年で3年目になります。松尾芭蕉の生まれた芭蕉庵があったところですので、小学校でも俳句の授業があるんです。1年生から6年生まで、ちびっ子はちびっ子なりに、6年生はもう大人顔負けの俳句を作る。前の校長先生が主宰する俳句の会にも入れてもらっていて、月1回句会に出ています。そういえば、この前、「おーいお茶新俳句大賞」の佳作に入りまして、笑っちゃいました。
校長先生や子どもとの出会いで、自分も勉強させてもらっています。学ばせていただく機会は、いくつになってもあります。何かしら出会いって必然性があると思うんです。僕にも、そろそろ俳句をやった方がいいというお導きがあったのだと思います。それによって言葉をつなぐ感覚がありますし、同じ会に来てらっしゃる方も、もちろん物書きのプロではないですが、感性の豊かなお話や、言葉の使い方を学ばせてもらうところがありますからね。