牧秀彦

Profile

1969年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。 サラリーマンを6年間経験後、剣と創作の道を突き詰める時代作家業に挑み現在に至る。 作家業と並行して居合道(夢想神伝流五段)、剣道修行中。 また、地域在住の作家として江東区の歴史、文化振興に取り組み、江東区立八名川小学校の依頼により、6年生の授業「江戸・深川の歴史を調べ、この町を知ろう」(2010年10月実施)以来、同授業を担当し続けている。 『婿殿開眼』に始まる「算盤侍影御用」シリーズ全10巻、そして「辻番所」、「八丁堀裏十手」、「上様出陣!」、「甘味屋十兵衛子守り剣」シリーズほか、数多く執筆している。

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アートとしての本の魅力も忘れないでほしい


――電子書籍を読まれることはありますか?


牧秀彦氏: 僕はまだ読んでないです。機械音痴なものですから(笑)。

――電子書籍についてどのような印象を持たれていますか?


牧秀彦氏: 所蔵できる、持ち運べるということは、すごいことだと思います。ワンルームマンションに住んでらっしゃる方でも何万冊も持てるし、そういう意味では良い時代になりました。ただ、僕は紙への愛着がどうしてもあります。早稲田大学周辺は古本屋の町ですから、推理小説研究会の先輩方にも、色んな名作を勧められて、古本屋を回って買い、古本に親しんできました。神保町も近いですしね。ただ、昔の絶版本もデータ化される時代になってきているので、それは臨機応変にやっていくのが良いと思います。内容を読みたいっていう場合には、ありがたい話です。僕は歴史のことを勉強しなきゃいけないのですが、読みたい本が絶版になっていることが多いです。そういった場合でも、電子書籍なら値段もプレミアが付くわけではなく、安くなりますから便利ですね。

――紙の本の良さはどういったところにあるでしょうか?


牧秀彦氏: 本の形そのものがアートだと思うんです。そういったデザインは電子書籍では難しいでしょう。娯楽的にばーっと読む本や漫画は、電子書籍でもいいと思います。僕としては装丁家の方に良い仕事をしていただきたいので、ここぞという時にハードカバーが出るような、そういった本は残ってほしいです。作家にとってハードカバーは一種の夢なんです。読者の方も、多少お金が高くても買いそろえたいという気持ちになると思います。

――電子書籍の普及で出版界、あるいは作家活動にどのような影響があるでしょうか?


牧秀彦氏: 電子書籍はマーケットが大きくなってくると、おそらく今の印税のパーセンテージじゃ不当じゃないかという声も出て来ると思います。作家の側も、電子書籍というものの可能性を考えながら見ていく必要があると思います。マーケットが広がったらペイするものでなくてはならないけど、銭ゲバ的発想じゃなく、こだわりは個々人おありだと思いますが、電子書籍を自分の収入源として容認していくべきじゃないかと思っています。

――ご自身の本が電子書籍で読まれること自体には特別な感情はありませんか?


牧秀彦氏: 書き手としては、どんな形態であれ読んでいただいて、それに伴って報酬をいただければ問題ありません。ただ、これはこれからの課題ですが、電子で読まれるということは、紙じゃなくて画面で見ていくわけですから、作家も書く段階からレイアウトを考えないといけないなと思います。電子書籍の場合、パラパラしないで、ずっと平面でスクロールですから、リズム感を考えて書かなきゃいけないなとは考えています。

先人から真摯に学ぶことができる本を


――今後どのようなテーマで本を書かれていかれますか?


牧秀彦氏: 最近、山本周五郎先生の作品を読み直しているんです。高校の頃から読んでいますが、山本先生の作品は、『町奉行日記』とか爽快なものもありますが、基本はマイノリティ的な、底辺に生きる人々の悲しみや辛さを書かれていて、この姿勢を忘れちゃいけないなと思っています。本当に貧しくて進学できず、若くして社会に出なくてはならなかった時代です。「山本周五郎」というお名前も、ご自分が働いていた店の名前だそうです。親からもよく「お前たちの世代は、感謝しなくちゃいけないよ」と言われましたが、特に母の場合は女性ですから、その当時は大学に行かせてもらえなかったわけです。僕たちは、うちが貧しくても勉強できる時代に生まれているということを、改めて考えなくちゃいけないと思うんです。

僕は昭和44年生まれですけど、僕ら以降の世代の人は、そこをちょっとぶん投げちゃっていると感じます。おじいちゃんおばあちゃん、ひいおじいちゃんおばあちゃんの世代のことを考えようということは、声を大にして言いたいところです。山本周五郎先生や、池波正太郎先生、松本清張先生もそうだけど、進学をあきらめて働かなくちゃいけなかった時代に、小説を書くということを自分の使命として考えてやられていた。そうやって作家になられた方々の作品の重さを書き手として知らなくちゃいけないし、読者の方にも、もちろん知ってほしい。その中で何か学ばせていただかなくちゃいけないなっていうことは考えます。

――具体的な作品の構想などがあれば、お話しいただける範囲でお聞かせください。


牧秀彦氏: 僕が次にやるべきはノンフィクションだと思っています。実在の方を魅力的に表現したい。百田先生が書かれた戦中戦後の日本人の話も、『炎熱商人』も、厳しい時代を生きてきた日本人の姿が書かれています。時代小説でも言えることですが、これは過去に学ぶということです。先人たちの成功も失敗も学び、悪いところは反省して真似しない様にする。その姿勢を失ってはおしまいです。良いところ、悪いところを客観的に見て、読者にわかりやすく伝えていく。ただ学者や教師とはまた違うので、堅苦しいばっかりじゃ難しくなりすぎる。娯楽としてパラパラ読んでいただきながらも、過去に生きた偉大な方々の生き方を、スパイスとして取り入れたいです。真面目なことも押し付けがましくなく、娯楽としてオブラートに包まなくちゃいけないところが難しいのですが、それが小説家の腕の見せどころでしょうね。

取材:人形町『えでぃんばら』

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『歴史』 『作家』 『サラリーマン』 『アート』

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