便利すぎる世の中は不幸
――電子書籍に対してはどう思われますか?
太田忠氏: 私は電子書籍を使ったことはないです。電子書籍は、なんとなく素通りする感じで、何も残らない気がします。一種のファッションのような面もあるから、使っていたら自分がかっこ良く見えるからなど、人の目を気にして使っていたりする人も多いでしょうね。私自身はスマホを持っていないし、電子書籍はまだ出していない。つまり、現段階では私にとってはいらないものなのだと思います。
――読者に対しては、やはり紙の本を読んでほしい、というお気持ちがありますか?
太田忠氏: 読み方は人それぞれだから自分が決めればいいことで、自分の一番いいと思うやり方にしてもらえればいいと思います。私は「どれにしろ」と言うつもりは全くありません。
――電子書籍はこの先、広がっていくと思いますか?
太田忠氏: 便利すぎる世の中を追及すると、みんなが不幸になると思っていますので、個人的には、昭和40年代ぐらいがちょうどいいと思います(笑)。レコードはドーナツ盤、スマホも携帯もなくてダイヤル式の黒電話、もちろん電子書籍もない、といった時代の方が良かった気がします。便利になればなるほど全ての価値が下がってしまって、新聞社も出版社も、電子版を出すことで紙が売れなくなって、自分で自分の首を絞めているようなものでしょう。便利すぎる世の中は効率化が進むから、雇用が減る。だから、これだけ世の中が便利になっても、ちっともうれしくないわけで、「もう少し不便になりましょう」と私は言いたいです。不便があるからこそ、人が関わって解決しなければならないものがあるわけなのですが、便利になればなるほど、コミュニケーションは遮断される。コミュニケーションがとれない、まともに話もできないなんて、そんな不幸な世の中はおかしいのです。便利なものを持つかどうかの判断基準の中には、みんなが持っていて恰好良さそうだから自分も持つ、といったところもあると思います。でも、私はそういうのに全く興味がなく、自分の時間を食われるから持ちません。ただ、公衆電話がなくなったので、待ち合わせの時に困るから、携帯は持っています。でも、「太田さんに何回電話しても全然出ない。大丈夫ですか?」と言われたこともありましたので電話番号をあまり教えないんです。自分がかける時以外は、スイッチも入れていません。
今の世の中で流されて生活していると、すぐ「なんとか中毒」になっちゃうんです。それだけ生き方が難しくなっていると感じています。ネットゲーム中毒で、ご飯とトイレ以外はパソコンの前に張り付いてチャットしているという状況、そういう中でしか自分が認められないという状況を見ていると、私は悲しくなります。
ピアノ曲集を出したい
――最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか?
太田忠氏: サラリーマン時代は会社のための仕事が優先でした。でも独立した今は、嫌なことは一切しない主義になりました。もう50歳ですから、生き生きと活動できる時期はそんなに長くない。それならば、可能な限り自分のやりたいこと、納得のいくことをしたいと思うようになったんです。そうしたものの1つに「ピアノを弾く」ことがあります。ピアノは25歳で始めました。子供の時から習っている人ならとっくにやめている頃です(笑)。次第に音楽理論の勉強をしたいなと思い始めて、ここ3年くらいは作曲や編曲の勉強をして、自分で楽譜を書き、歌謡曲などを演奏しています。私のピアノ演奏はYouTubeで視聴できるのでぜひ見て下さい(笑)。その曲数が増えてきたので、本というかピアノの曲集として出版できないだろうか、と考えているんです。ただ、音楽出版社から本を出したことがないので、どうやって道を拓こうかと思案しているところです。私の強みは、大人になってでもいかにピアノを弾く技術を身に着けるか、どのような練習をすれば楽しく続けられるか、といったことを自己体験としてよく知っているということです。ニーズはあると思いますので、素人の視点に立った本も出したいなと思っています。「こうすれば、大人になってもからでもピアノが弾ける!」といった内容で、「君は今日からアナリストだ!」のようにゼロから始めてどう戦略的に上達していくかのノウハウですね。まだ今は具体的なプランがあるわけではありません。まずはピアノ曲集ですね。楽譜は、手書きで書いたものがたくさんあります。本業関係の本を書くよりも、楽譜を書く方が実は結構大変なので(笑)、それを曲集という形で出版できればいいなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 太田忠 』