楠木新

Profile

1954年、神戸新開地生まれ。京都大学法学部卒業後。生命保険会社に勤務し、人事・労務関係を中心に企画、営業、支社長等を経験。勤務のかたわら、ビジネスパーソン150人にロング・インタビューを重ねる。朝日新聞beに「こころの定年」を1年余り連載。関西大学で非常勤講師(「会社学」)を勤めた(~’11年)。執筆のほかに講演、セミナーにも取り組む。『会社が嫌いになったら読む本』『人事部は見ている。』『サラリーマンは、二度会社を辞める。』(以上、日経プレミアシリーズ)、『就活の勘違い』(朝日新聞出版社)、『ビジネスマン「うつ」からの脱出』(創元社)ほか、書籍多数。

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管理職で感じた物足りなさ


――サラリーマンとしての苦悩についても書かれていますね。


楠木新氏: 苦悩と言うよりも向き不向きの問題なのでしょう。入社以来、会社の中では順調にキャリアを積み、役職にも恵まれてきました。ところが一方では、「成長する実感が得られない」「誰の役に立っているのか分からない」「このまま時を過ごしていいのだろうか」といった疑問が芽生え始めました。阪神・淡路大震災があったのは40歳の時ですが、その頃から迷い初め、47歳の時に、一旦仕事を投げ出して休職してしまいました。2年半の間出勤と休職を繰り返しました。
現場で、仲間と一緒に働くことは楽しくやれるのですが、管理機構の中で官僚的にやっていくのは苦手で、自分の性に合っていなかったのでしょう。
支社長や担当部長といった役職を外れて、仕事もヒマになると何をしていいのか分からない状態に陥りました。自分がいかに会社にぶら下がっていたかを思い知らされたのです。

――その状況を打開するきっかけはどういったことでしたか?


楠木新氏: その頃に日本工業新聞社の経済部長から独立して、ひとりで「日本一明るい経済新聞」を立ち上げた竹原信夫さんを取り上げた新聞記事を目にしました。「頑張っている中小企業を応援したい」という社会貢献の思い、迷った末に書いた辞表、見守る家族との対話。その記事の一つひとつが私の心にしみました。
「自分の求めていることのヒントがこの記事にあるのではないか」と思い、紙面の竹原さんの「いい顔」が、しばらく頭から離れませんでした。

「いい顔」の人に魅力を感じる


――その後は、どのような方にお話を聞きに行かれたのですか?


楠木新氏: 例えばNHKの記者から落語家になった人とか、鉄鋼会社の社員からそば屋を開業した人とか、市役所の職員から耳かき職人になった人とかです。中高年になってサラリーマンから転身して「いい顔」をしている人たちに話を聞きました。150人ほどになります。皆さん初めて出会った私に、自分のキャリアを真剣に語ってくれました。
彼らの話に、繰り返し自分を重ね合わせていくと一気に元気になりました。自分が取り組むべきことが明確になってきたからです。

――「いい顔」と言うのは、面白い基準ですね。


楠木新氏: なぜか昔から人の顔つきに関心がありました。顔つきは、嘘はつかないという感じでしょうか。
休職をしていた時も、周りのサラリーマンよりも、小さい頃の商店街のおっちゃん達のほうが、圧倒的に良い顔をしていたことに気づきました。人の表情が輝いたり、魅力的になるのは、他人との比較や合理的な思考を高めることから生まれるものではないのでしょう。
サラリーマン時代よりも収入は減っているのに、なぜ彼らは、「いい顔」になるのだろうといろいろ考えてきました。会社の束縛から解放されたから? 好きなことをやっているから? 人の役に立っている実感があるから? などです。今は、自らの天命と言うと大げさですが、自分の持ち味を活かしているかどうかが「いい顔」のポイントだと思っています。

著書一覧『 楠木新

この著者のタグ: 『組織』 『考え方』 『働き方』 『価値観』 『教育』 『サラリーマン』 『書店』

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