原田勉

Profile

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学よりPh.D(経済学博士号)、神戸大学より博士(経営学)取得。1997年、神戸大学経営学部助教授。科学技術政策研究所客員研究官(98-99)、INSEAD客員研究員(03~04)、ハーバード大学フルブライト研究員(04~05)を経て、2005年より神戸大学大学院経営学研究科教授。主な著書に『知識転換の経営学』『ケースで読む 競争逆転の経営戦略』『MBA 戦略立案トレーニング』『実践力を鍛える 戦略ノート[マーケティング編]』(以上、東洋経済新報社)、『汎用・専用技術の経済分析』(白桃書房)がある。

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言葉、会話からの大きな影響


――ホームページでも、『碧巌録』の言葉が書かれていましたが、仏教書などの影響は大きいと思われますか?


原田勉氏: 私は茶道をやっていまして、茶道の師匠から「茶道を修道することは禅の修行をしているのと全く同じだから、禅の勉強をきちんとしなさい」と言われました。それで鈴木大拙先生や、久松真一先生や西田幾多郎先生などの本を色々と読んだんですが、鈴木大拙先生を除き、難しくて内容がよく分からなかったんです。そこで、京都にある臨済宗の相国寺の専門道場で参禅をしました。今はちょっと休んでいるんですが、そこで老師と色々なやりとりをしました。京大の名誉教授の上田閑照先生も月に1回来られていて、『正法眼蔵』『臨済禄』など禅書の輪読もしました。禅に関しては、哲学書を読むよりも、やはり坐禅の実践や老師のご指導の力が大きいと思います。禅の場合には不立文字教下別伝という言葉があるように、分別、言葉を介在させるのではなく、一瞬一瞬の息や用(はたらき)を重視します。要するに、妄想を徹底的に排除するのです。「いま、ここ」にしか真実はなく、それを実感することが大事なことになります。掃除など体を動かす作務は、妄想を排除するためにあります。体を動かし、没頭した方が妄想はでにくくなります。茶道の規矩作法もそのように理解することができます。

――印象深かった本はありますか?


原田勉氏: ドフトエフスキーは、かなり好きです。読むようになったのは10年前からなのですが、彼の本は全て読みました。

――どのようなところに惹かれたんですか?


原田勉氏: ドフトエフスキーの言いたいこと、というよりは、会話の中身といった部分です。色々な立場の人がいて、その人物たちの会話にかなりの洞察を感じました。悪役であったとしても、悪役の中で1つの真理を述べている。例えば『カラマーゾフの兄弟』では、「神というものは存在するのでしょうか?」という質問をある信者から受けた時にゾシマ長老は、「神の存在を証明することはできない。でも、それを実感することはできる」と答える場面があります。そういう「なるほど深いな」という言葉がいくつかあって、そういったところに魅力的を感じました。多面的な見方を学ぶことができます。

――読まれる本は、どのようにして選ばれるのでしょうか?


原田勉氏: 私は、あまり経営学や経済学の本を読まないんです。私がこの5年ぐらい関心があるのは、インド哲学のヴェーダーンタです。西田哲学を除き、禅はあまり理論や理屈が無いんですが、そのバックボーンといったものを探していた時にヴェーダーンタにたどり着き「これこそ世界最古で最強の教えだ」と思いました。聖典と言われている『ウパニシャッド』は非常に抽象的で、はじめは読んでいてもわけが分かりませんでした。日本ではヴェーダーンタというのは神秘主義ということで批判もありますが、私はインドに行ってスワミダヤーナンダという、今の伝統的なヴェーダーンタを完成させた方のところで学ぶ機会があったんです。『ウパニシャッド』を読みながら、分かりやすい言葉で説明をしていただけました。もともと、教えは口頭で師から弟子へと伝わってきたので、本にある言葉というよりは師より伝えられるその注釈が大事なんですが、注釈というのは本には残っていないんです。非常に面白く深い教えで、かなり影響を受けました。だから、英語で出ているスワミダヤーナンダさんの書かれた本はかなり読みました。最近は日常生活での実践的指針を禅よりもはるかに多く含んでいる、朱子学、陽明学に関心があり、関連する書籍はかなりの量を読んでいます。論語の勉強会にも参加しています。いずれも私のなかではヴェーダーンタ哲学をベースとしてつながっていて、ヴェーダーンタから禅や朱子学、陽明学は整合的、体系的に説明することができます。ヴェーダーンタをより実践的なものとして理解する手段として、朱子学、陽明学は大変有益だと思っています。

面白い方へ行こう


――大学では商学部に進まれたわけですが、なぜ商学部に進もうと思われたのでしょうか?


原田勉氏: その当時は「手に職をつけないといけない」という思いがかなりあって、公認会計士になることを考えていたんです。それで、一橋を受けました。公認会計士に関しては専門学校に行って学んでいて、テストなどはできた方だったとは思いますが、あまり面白くなかったんです。当時、ゼミは3年生からで、1、2年生を対象にした前期ゼミというのがあったのですが、会計はずっと勉強していたので、経営戦略や組織論などが面白そうだなと思い、実際にゼミに出てみると、面白かった。しかしそのゼミの先生から「資格を求めるのは自分に自信が無い証拠だ」ということを言われてしまいました(笑)。経営学というのは非常に若い学問で、色々な可能性もあって、ディスカッションをしていても面白かったんです。ゼミの先生は、経営学者をもっと育てたいという熱意を持っていらっしゃいまして、その影響で急遽、経営学者へと方向転換をしたんです。そのゼミに入ってなければ、私が学者になることは無かったと思います。



――思い切った方向転換とも思えますが、そこをつき進んだ原動力とは何だったのでしょうか?


原田勉氏: 「面白い方に行こう」と思ったのです。でも、大学院に入ると壁にぶち当たることもありました。非常に厳しい先生の元で勉強していたので、何を言っても言下に否定されて、自信喪失し、自己嫌悪にも陥り、挫折を味わいました。山の頂上を目指して歩くというのと、平地をひたすら歩くという、2つの生き方があるとしたら、日本人の多くは山登りが好きだと思うんです。研究者とは平地をひたすら歩くわけなのですが、なかなかゴールが見えないし、やりたいことも分からなくなる。それで「1回外に出た方がいいんじゃないか」と思ったんですが、その時、先生に「今やめたら絶対にだめだ」と言われました。その先生は、教師としての役割として批判的なコメントをする一方で、愛情もあったんだと思います。周りの先輩方からもかなり説得をされて、残ろうと決意しました。そういった時に、今井賢一先生に修士論文のことで質問しに行ったんです。帰り際に、「アメリカへ出てみたらどうかな。私はスタンフォード日本センターの理事をするから、スタンフォードに来たらどう?」という風に声をかけていただいたんです。

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この著者のタグ: 『大学教授』 『英語』 『海外』 『哲学』 『研究』 『経済学』 『MBA』 『茶道』

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