井村裕夫

Profile

1954年京都大学医学部卒業、内科学、とくに内分泌代謝学を専攻、77年より京都大学教授、視床下部下垂体系、心血管ホルモン、膵ホルモンの研究に従事、91年京都大学総長。98年科学技術会議(後、総合科学技術会議に改組)議員として、第2期科学技術基本計画の策定、科研費などの研究費の増額、新しい研究施設の整備等に努力。2004年より先端医療振興財団理事長として神戸医療産業都市を推進すると同時に、科学技術振興機構研究開発戦略センターで臨床研究の進行方策を提言、またこれからの臨床研究として先制医療の重要性を提言している。日本学士院会員、アメリカ芸術科学アカデミー名誉会員。

Book Information

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こだわりは、分かりやすい文章にすること


――ご自身にとって、本の執筆とは?


井村裕夫氏: 医学をやっている時には、研究をして、研究の成果が上がればそれを論文にするわけですよね。やったことをある程度記録として残すことが、他の人の参考になるわけです。執筆は、それとちょっと似ているんです。例えば、学長職を6年つとめたら、その間のことを少し書いておくとか、それから総合科学技術会議も6年近くやりましたから、その間経験したことを本にするなど、やったことをまとめていました。

――本を書く上で、心がけてらっしゃること、こだわりみたいなものはございますか?


井村裕夫氏: 私は決して文章が上手い方ではないけれども、本を出す以上はできるだけ多くの人に理解してもらえないといけないので、分かりやすい文章でなければならないと思います。ですから、難しいことをどうやって分かりやすく表現するのかということだけは、常に考えるよう心掛けています。なかなかうまくいかないところもあって、「ここ難しいよ」とよく言われてしまいます。本を書く以上は、できるだけシンプルなセンテンスにすることと、誰が読んでもある程度理解できるような分かりやすさというのが必要だろうと思います。しかし内容はレベルや質が高くなくてはいけない。これは難しいことだけれど、それをどうやって分かりやすく表現するのかというのが1つの技術です。60点ぐらい、合格点までいければいいんじゃないかと思っています(笑)。

――60点の合格点に到達するまで、編集者との色々なやり取りも、すごく大変そうです。


井村裕夫氏: そうですね。ですから編集者の方が、「ここは分かりにくい」とか、非常に克明に見てもらえると助かります。私は文章に癖があるので、表現について「こうやった方がいいんじゃないか」という助言をしてくれる人もいますし、字の間違いも見つけてもらえます。そういう意味で私は、編集者というのは本を作る上で非常に大事な仕事をする方だと思います。一番最近出した、羊土社の『進化医学 人への進化が生んだ疾患』という本を出す時には、編集者の方とはずいぶんといろいろなやり取りをしました。

――電子書籍について、どんな風にお考えですか?


井村裕夫氏: そうですね、私もKindleを買いまして、これから活用していこうかと思っているんですが、なかなか慣れません。率直な感想としては、本の方がいいんです。なぜかと言うと、本は斜めに読めますから、「あ、このページはもうこれで、だいたい内容は把握できたから飛ばしていいだろう」ということができるんです。でも本というのはどんどん溜まっていきます。書いた人の色々な気持ちも、苦労も理解できる。そうすると「やっぱりこれは捨てられない」となり、溜まってしまって困ります。その点、電子書籍だったらそれがありませんから、今のように大都市で、あまり大きくない家に住んでいると便利だと思います。そして、電子書籍は本よりも便利な面がいくつもあります。医学書は非常に分厚いものが多いので、電子書籍の方が引用項目でパッと見つかりますし、辞書もページを開いて見るよりは、電子辞書で検索した方が早い。しかし、こういった利点を見出しても、本というのはまた独特な味わいがあって捨てがたいと、それが私の気持ちです(笑)。それぞれの長所をできるだけ活かしながら、両方を使い分けると良いのではないでしょうか。

高等教育と長寿を目指して


――これからのビジョンをお聞かせ下さい。


井村裕夫氏: もう私も年ですから、大したビジョンはないんですけれどね。この20世紀から21世紀にかけての非常に大きな特徴は、1人ひとりの人が高い教育が受けられるようになって、そして健康で長寿を達成できるようになったことです。人間がせっかくこの世に生まれてきたわけですから、できるだけその人が力を発揮して、しかも長寿を達成できるようにしていくことが非常に大事だと思います。また、それが21世紀の大きな特徴だろうと私は思っています。おそらく世界のこれからのトレンドを考えていく上で、世界のどの国でも高等教育を受けた人が増えていく、そしてその人たちが長寿で活躍できる、これは素晴らしいことです。できるだけ多くの人がそういった環境をあたえられるようにするにはどうしたらいいのかということを、本当に人生の初めの段階から考えていかないといけないだろうと、今考えているんです。

――具体的にはどういうことを考える必要があるのでしょうか?


井村裕夫氏: お母さんのお腹にいる時から、どうやったら健康な子供が生まれるのかということを考えておかないといけない。今は「ライフコースヘルスケア」と言われていますが、母親のお腹の中にいる時からヘルスケアは始まるんだと思います。そうしなければ健康長寿は達成できないと思います。単に生きているだけではだめですから、質のいい長寿を達成するためにはどうしたらいいのかということを、医者として考えていこうと思っています。また、日本は世界一少子高齢化が進んでいる国です。だから「日本モデル」というのを考えていかなきゃならないとも思っています。
元気な間は、少しでも誰かの役に立てればと思っていますし、常に、何か少し新しいことを加えようと思っています。時々、老醜をさらしているんじゃないかなと思うこともあるのですが、何と言われようと老人の特権と考えて(笑)、動ける間はもうちょっと仕事をしようかなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『大学教授』 『チャレンジ』 『原動力』 『研究』 『医療』 『医者』 『技術』

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