問題意識を明確化する編集者の役割
――本を出されることによって活動の方向が明確になっていったのですね。
浜辺陽一郎氏: 色々な出版企画と偶然の出会いがあって、上手くつながった感じです。チャンスが来て、それを掴んでいったら、わらしべ長者じゃないですけど、自分なりの問題意識とつながるんです。
――その際は、編集者の意見とシンクロしながら発展していくものでしょうか?
浜辺陽一郎氏: 私が色々と出版できたのも、やはり編集者のお陰です。先ほどお話しした通り『弁護士という人びと』は、編集者の方のサジェスチョンでした。そして、最初の原稿はすごく直されました。ものすごく赤が入ったことで、自分なりに書いてることがいかに誤解を生むか、ということがわかり、非常に勉強になりました。
――良い編集者の条件はどういったことでしょうか。
浜辺陽一郎氏: 優れた編集者は、1つ1つの文章を丁寧に読んで、注文してきます。論理的に、これは一体どういうことなのかということを詰めて、でき上がると本当にきちっとした論理的なものになっている。中にはほとんど赤の入らない編集者がいます。私の実力が上がったのか、編集者が何もしていないのかは分からないんですが、編集者が直さないと逆に不安になる。だから私は、編集者が手を入れることにあまり抵抗しない方なんです。もちろん編集者の直しが間違いであることもあるので、コミュニケーションしながら最終的にまとめていくのですが、そういうコミュニケーションができる方は良い編集者だと思います。何も意見を言わずに、のれんに腕押し状態で、「本当に分かっているのかな」と思うような人もいないわけではありません。
もう1つは企画です。企画段階で切り口を誘導してくれる方ですね。東洋経済の最初の担当者で、『図解 コンプライアンス経営』や『執行役員制度』を企画された方は、今は和光市の市長をされています。編集者は著者が持っているぼやっとした問題意識やネタを「世の中としてはこういうものが欲しいんです」と、テーマとして提言してくれて、著者も「まさにこれが言いたかったんだ!」と気づいて、1つの企画が成り立ちます。ただ漫然と原稿の運び屋をやっているだけでは、編集の仕事をやっているとは言えないと思います。
電子書籍は「改訂」に大きな可能性がある
――電子書籍についてはどのようにお感じでしょうか?
浜辺陽一郎氏: 私の既存の本も電子書籍化されて、細かな印税がちょこちょこ入ってきているので意識はしているのですが、自分自身が電子書籍を読む側ではないということもあって電子書籍の良さはまだわからないです。ただ、1つ思っていることがあります。法律はどんどん変わります。紙だと改訂版が出しにくいのですが、電子書籍なら部数は少なくても、きめ細かく改訂ができるでしょうから、そうなってほしいです。そういう風になれば、法律書は世の中の動きや変化に応じて、どんどんバージョンアップできます。部数に関わらず、例えば1年ごとに改訂できるといった様になっていけばいいんじゃないかなと思います。
今は、1万部売れないと意味がないという風潮がありますから、改訂できなくて、ほこりをかぶっている残念な本も私の書籍の中にはあります。それをアップデートして、もう1度ちゃんとしたかたちで使えるようにしたいですね。最近は学生も経済的に厳しくて教科書が買えず、先輩から後輩にずっと流れて、教科書を1冊出すと、いつまで経ってもその教科書のままになるわけです。それを新しいものにしていくようなシステムになった方がいいんじゃないかなと思います。
――今後の展望をお聞かせください。
浜辺陽一郎氏: 当面は会社法の改正を控えていますので、企業社会をめぐる色々なテーマ、コーポレートガバナンスの関係について書いていきたいと思います。それともう1つは司法関係、特に、今の法科大学院の問題です。実は法科大学院を議論してるだけではダメで、若い人たちがどうやって社会に向けて羽ばたいていくか、そのために必要なものは何かというテーマも出していければと思ってます。今、法科大学院に来る人は、残念ながら、ほんの少しです。志望する前に、諦めてほかのところへ行ってしまうのです。リスクが低いと思って、実はリスクの高いブラック企業に吸い込まれていったりしている。その前に考えることがあるんじゃないかという、刺激を与える様なことができたらと思っています。例えば国際的な仕事です。国際取引法、国際ビジネス法は、企業法務の1つの分野にもなっています。しかし、日本の若者は内向き、あるいは安定志向だとか、野心や向上心が弱いんじゃないかなどと言われる。そういう、法科大学院へ来る前段階のところに向けて何かを発信できないかということを考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
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